しんちゃんから学ぶユーモアのコツ

ここから、すでにユーモアの「エリート」のしんちゃんから学ぶユーモアのコツを3つに整理してみましょう。どれも明日からすぐに使える基本モデルです(表2)。

①わざと大げさ
しんちゃんが父ひろしといっしょに竹馬をつくるシーン。父が「まず竹を切る。そこをしっかり押さえてくれ」と言うと、「オラ切りたい。オラ切りたい」「オラに切らせないと親子の縁切るぞ」と騒ぎます。また、しんちゃんがお茶の葉を入れようとして、筒ごとひっくり返してしまいます。険しい表情の母みさえに、しんちゃんは「お茶ちゃが飛び降り自殺した・・・」と神妙な顔をします。

1つ目は、このようにわざと大げさにする、誇張です。これには、さらに3つの要素があります。

a. 見た目
1つ目は、表情と身振りなどの見た目です(非言語的コミュニケーション)。相手と接する時に、表情を豊かにして、手を広げるなど身振り手振りを大きくすると、エネルギッシュで存在感が増します。イメージとしては、オーバーリアクションなアメリカ人で、落ち着きがないくらいを心がけると良いでしょう。

b. 口調
2つ目は、声の大きさや速さなど口調です(準言語的コミュニケーション)。声は大きく、早さに緩急付けると、エネルギッシュで存在感が増します。例えば、以下のように促音(小さい「っ」)や擬音、さらにはその合わせワザを意識して使うことです。

促音
・にほん→にっぽん ・とても→とっても ・めちゃ→めっちゃ

擬音+促音
・ドキドキ→ドッキドキ ・ボコボコ→ボッコボコ ・サクサク→サックサク

また、「よっ!ニッポンイチ!」「待ってましたっ!」などの掛け声、いわゆるガヤは、中身はほとんどないですが、口調によっては、場の空気を盛り上げるために、重要な役割があります。

c. 発言内容
3つ目は、発言内容そのものです(言語的コミュニケーション)。極端に言いすぎてしまうことで、おかしさが生まれると同時に、エネルギッシュで存在感が増します。例えば、以下のように、あえて大げさに言っていることが分かりやすいことです。

・暑い→雪男が来たら即死よ
・会議がうまくまとまった時→やっぱ私は宇宙一のリーダーだわ
・繰り返しのミスを指摘する→もう何回言わせる?これで3億回目よ!
・失敗が続く→一緒にお祓いに行こうか?
・しどろもどろ→朝からお酒飲んでない?

以上の3つの要素の中で、1番重要なのは3つ目の言葉の内容そのものと思われがちです。しかし、実際は、見た目55%、口調38%、発言そのもの7%の順に重要なのです。これは、メラビアンの法則と呼ばれています(表1)。つまり、相手を楽しませるには、まず雰囲気作りが大事だということです。つまり、大げさな見た目と口調でウォーミングアップをしておいて、大げさなことを言う雰囲気をつくることです。

ちなみに、メラビアンの法則の根拠を進化心理学的に考えることができます。それは、私たちの祖先が言葉を使う言語的コミュニケーションを始めたのは、喉の構造が進化したごく最近の20万年前です。一方、表情、身振り手振り、態度などの非言語的コミュニケーションは、すでに社会脳が進化した300万年前からです。つまり、非言語的コミュニケーションの方が圧倒的に、進化の歴史が長く、それだけ影響力が大きいと言えます。

表5 メラビアンの法則

②わざとぼかす
母みさえが風邪気味の時、しんちゃんは「母ちゃん、顔が悪いぞ」と真剣に心配します。すると、「『顔色が』でしょ!!」「ツッコませないでよ。熱があるんだから」とリアクションします。また、休日、寝ている父ひろしに、遊んでほしいしんちゃんが「父ちゃん」「ひらめ・くつでしょ」と尋ねます。すると父が「まあな」と言いつつ「たい・くつだろ」とツッコミます。

2つ目は、このようにわざとぼかす、ほのめかしです。これは、ストレートに言うと角が立つ言葉をあえてぼかして伝え、相手に察するよう仕向けることです。みなさんの中には、そんなにすぐに発想できないとみなさんは思うでしょうか? まずは、ほのめかしの言い回しのストックをたくさんため込みましょう。それを状況に応じてアレンジするのです。これは、ほのめかしの引き出しとも言えます。これには、さらに3つの要素があります。

a. 遠回し
1つ目は、遠回しです。例えば、以下のように、状況を違った側面から指摘することです。
・(仕事中に寝てしまっている人に対して)寝ないで!→お疲れでいらっしゃいますね。
・(会議中におしゃべりしている人たちに)静かに!→何か良い意見がありそうですか?
・(会議中にノートに落書きをしている人に)落書きしないで!→絵、うまいですね。

b. 特徴例え
2つ目は、特徴例えです。これは、比較的に簡単です。普段から心の中で、相手のニックネームを付けるように心がけましょう。以下の例を参考にしてください。

・明るい→満開の桜みたい
・香水が強い→大人の雰囲気が溢れ出ている
・さわやか→洗い立てのふかふかのタオル
・頼りになる→お腹が痛い時の正露丸
・記憶力が良い→この病棟のスーパーコンピューター

c. 状況例え
 3つ目は、状況例えです。これは、特徴例えの応用になります。以下の例を参考にしてみましょう。
・出してくれたお茶がおいしい→もしかして・・・そこに千利休、いる?
・遅い→雨の日の宅配ピザみたいに待ち遠しいな
・正座して足がしびれる→生まれたての子羊ね
・歯に詰まったネギ→歯茎からネギ生えてます。そろそろ収穫の時期かあ
・鼻毛→ゴキブリの足出てません?飼ってました?
・怒りで我を忘れた→一瞬、信長が乗り移ったわ

③わざとはっきり
さきほどのしんちゃんがお茶の葉をこぼしたシーンの後に、母みさえが「そうか~ママにお茶を入れてくれようとしたのか・・・ありがとう」とフォローします。すると、しんちゃんは「そうだぞ、えっへん」と偉そうにします。そしてみさえは「いばるなフフ」と微笑みます。また、しんちゃんが好意を寄せるななこちゃんから「しんちゃん、お手伝いしてえらーい」と褒められると、しんちゃんは「いえ、当然のことですから」と好青年ぶります。そして、みさえから「こーゆーことか」とツッコミが入るのです。

3つ目は、このようにわざとはっきり、同感、共感です。これは、当たり前で分かりやすい気持ちを共有する言葉かけをすることで緊張を和らげることです。これには、さらに3つの要素があります。

a. 本音
1つ目は、本音です。周り(相手)との緊張感を俯瞰してストレートに言い当ててほっとさせることです。これには、皮肉や嫌味にならないように注意する必要があります。
・会議でみんなが沈黙する→換気扇の音ってけっこう良い音ね
・上司にゴマをすった時→私、好かれたいんです
・飲み会の座敷で靴を脱いだ時に靴下に穴が空いているのを自覚→はっ!靴下に穴が空いてる!恥ずかしい~

b. ナンセンス
2つ目は、ナンセンスです。これは、その言葉通り、無意味さのことで、ダジャレ、オヤジギャグ、一発ギャグを指します。これらは、一見、ただの幼稚な言葉遊びのように思われ、多くの人、特に女性からは敬遠されるかもしれません。しかし、ここで大事なことは、これらは単にウケを狙っていないということです。その目的は、相手にガクッと拍子抜けさせる脱力です。そして、そこから場の空気を和ませる共感につなげる意図があるのです。

この発想に立てば、ナンセンスも決してくだらないものと決め付けることはできないでしょう。さらには、おもしろくないと思われても、自分から笑うという誘い笑いも効果的です。強いハートで身を削ってオヤジギャクを連発する姿に、周りはいずれ心を打たれるでしょう。特に流行り言葉は効果的です。逆に、あえて死語を使うのも効果的です。

・「コピーはA4で良いですか?」という質問に→ええよん。
・会議前の自己紹介で→○○さんだゾ!
・朝の挨拶に→おはヨーグルト

c. お約束
3つ目はお約束です。これは、決まり切った言い回しのやり取りをすることです。一種のじゃれ合いです。これも特に流行り言葉は効果的です。

・明日も来てくれるかな→いいとも~
・もう待たなくて良いですか?→ちょっと待って、ちょっと待って、おにいさん!
・大丈夫ですかね?→安心してください。準備してますよ。

表6 ユーモアのコツ

未来の賢さとは?

20世紀の人間の賢さは、記憶力や情報処理能力が大きな割合を占めていました。しかし、21世紀の現在は、記憶をそんなにしなくても、手軽にスマホで検索して、知識を得ることができるようになりました。また、すでに単純作業は機械化されていますし、さらに、より複雑な情報処理が必要な作業も、近い将来に人口知能がやるでしょう。

つまり、これからの時代に求められるのは、記憶や情報処理などの知識のコレクションではないです。すでにコレクションされた知識をどう使いこなすかというマネージメントです。例えば、それは、積極性、創造性、そしてコミュニケーション能力を生かして、遊び心を持って、生き生きとして周りを楽しませることです。その大切さを理解した時、私たちは、クレヨンしんちゃんから、より多くのことを学ぶことができるのではないでしょうか?

参考文献

1)クレヨンしんちゃん大全、2011
2)徳田克己:育児の教科書「クレヨンしんちゃん」、福村出版、2011
3)汐見稔幸:子育てにとても大切な27のヒント、クレヨンしんちゃん親子学、双葉社、2006
4)トレーシー・カチロー:最高の子育てベスト55、ダイヤモンド社、2016
5)雨宮俊彦:笑いとユーモアの心理学、ミネルヴァ出版、2016