連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【3ページ目】2017年2月号<<前編>> アニメ「カイジ」「アカギ」–なぜギャンブルをするの?ギャンブル依存症とギャンブル脳

なぜギャンブルは男性に多いの? -システム化

これまで、なぜギャンブルをするのかという理由を整理しました。それは、「夢」「勝負」「覚悟」という男のロマンだからでした。それでは、そもそもなぜ「男のロマン」なのでしょうか? 言い換えれば、なぜギャンブルは男性に多いのでしょうか? その答えを、進化心理学的に考えてみましょう。

まず、私たちがヒトとなり体と心(脳)を適応させていった数百万年前の原始の時代の狩猟採集社会に目を向けてみましょう。なぜなら、この時代に私たちの心(脳)の原型が形作られたからです。一方、現代の農耕牧畜社会から始まる文明社会は、たかだか1万数千年の歴史しかなく、体や心(脳)が進化するにはあまりにも短いからです。

原始の時代、男性(父親)は日々狩りをして、女性(母親)は日々子育てをして、性別で役割を分担し、家族をつくりました。そして、この基本となる家族が血縁によっていくつも集まって100人から150人の大家族の生活共同体(村)をつくり、つながって協力しました。そして、そうする種、そうしたいと思う種が生き残りました。その子孫が現在の私たちです。逆に、そうではない種は、子孫を残さないわけですから、理屈の上ではこの世にほぼ存在しないと言えます。

狩りをする男性は、より確実に、より多くの食料を得ることができれば、生存の確率を高めることができます。そして、それを女性に分け与えることができれば、その女性から選ばれて、生殖の確率を高めることができます。そのために進化した心理が、システム化という「男らしさ」です。この心理が重視する3つの要素を、ギャンブルに絡めて整理してみましょう。

①因果関係
1つ目は、因果関係です。因果関係とは、原因と結果のつながりです。原始の時代、冷蔵庫や保存食は身近にはなく、常に飢餓状態です。普段から、「この動物の足跡をたどれば獲物に近づける」「この湿気だとこの後に雨が降るから早く帰ろう」など、状況(原因)から結果を予測する心理によって、何とか食料を確保して身を守っていました。予測を外せば、家族もろとも飢えて死んでしまうという意味では「ギャンブル」です。そのような状況で、近付いてくる獲物を穴場でじっと待ったり、罠を仕掛けたりするなどの予測をして当たることに快感を覚える男性ほど、より生き残り、より子孫を残したでしょう。

その子孫が現代の男性です。男性は、ギャンブルの不確かな要素を研究したり、観察力やテクニックを磨いたりして、駆け引きをすることで、何とか攻略したいという心理がもともとあるのです。「ギャンブル必勝法」の特集が、女性誌になくて、男性誌やスポーツ新聞に多くあるのも、うなずけます。ちなみに、株式投資や投機には、より多くの判断材料がありますが、不確かな要素が残り、リスクがあるという意味では、ギャンブルの延長と言えます。そして、男性の中でも、知的能力が高く資金力がある人がより多く関わっています。

②上下関係
2つ目は、上下関係です。上下関係とは、強者(リーダー)を頂点として、多くの弱者(フォロワー)を下の階層とするピラミッド構造のことです。原始の時代、男性たちが協力して狩りをするために必要なのは、人間関係の統率をスムーズにする上下関係の心理です。この時の上下の順番の目安は、獲物をより多く仕留める能力でした。そして階層が上の男性ほど、偉そうにできて女性にもモテるため、より子孫を残したでしょう。

その子孫が現代の男性です。ただ、現代の文明社会の「獲物」はお金、「獲物をより多く仕留める能力」は経済力です。つまり、ギャンブルによって、手っ取り早く気軽にステータスを上げたいという心理がもともとあるのです。一攫千金、一発逆転というありがちなキャッチフレーズが男性の心をつかむのも、うなずけます。男性誌の裏表紙によく見かける広告には、真偽は定かではありませんが、あえてパッとしない風の男性とハデな若い女性のツーショットの写真付きで、その男性が「サエないボクが、この必勝法で一発当てて女性にモテるようになりました」と言っています。

③契約関係
3つ目は、契約関係です。契約関係とは、お互いがあらかじめ決めたルールや約束をきっちり守るこだわりのことです。原始の時代、上下関係を決める能力の勝負で、負けた弱者は、強者に対してひれ伏しました。そうすることで、その集団は、人間関係がスムーズになるため、より多くの子孫を残したでしょう。

その子孫が現代の男性です。現代でも、役職、年齢、経済力などをお互いが確認して、どっちがどっちを立てるかの暗黙の了解があります。つまり、ギャンブルで負けても、それを受け入れるという心理がもともとあるというわけです。そうでなければ、負けが怖くてそもそもギャンブルなどできません。「男に二言はない」「負けたら潔く身を引く」「ケジメを付ける」という言い回しも、うなずけます。もちろん、日本に独特の切腹の美学があるように、この契約関係を重視する心理は、文化的に強化されている面もあるでしょう。

★次回に続く