謝られたらなぜ許すの?

黒島は、セクハラで訴えられている沼田に、「(相手女性は)もう許してるかもしれないけどね。謝ってほしいってことは基本的には許したいってことでしょ」「引っ込み付かないだけでもう終わりにしたいというのが本音なんですよ」と言っています。つまり、私たちは、謝ることと許すことのやりとりを通して、お互いに人間関係をスムーズにしたいという思いがあります。逆にそうしなければ、いつまでも心に引っかかって、もやもやした不快な気持ちになってしまいます。

それでは、そもそもそういう心理はなぜ「ある」のでしょうか? これを、私たちヒトが体と同じく心(脳)を進化させていった数百万年前間の歴史から掘り下げてみましょう。300万年前に、ヒトはアフリカの森からサバンナの草原に出ていきました。この時、草原で猛獣などの天敵から身を守り、より大きな獲物を仕留めて生き残るために、ヒトは群れをつくって協力するようになりました。そして、より大きな群れ(集団)をつくるように脳が進化していきました(社会脳)。

20万年前に、喉の構造が進化して、言葉が使えるようになり、抽象的な思考もできるようになりました。この頃から、協力をし続けるために、謝る心理や許す心理などの社会的感情を器用に使いこなすようになり、人間関係をよりスムーズにしていくことができるようになったでしょう。なぜなら、そうする種、そうしたいと思う種、そうしないと不快と思う種が、集団(社会)の一員でい続けられるため、生存に有利になるからです。その子孫が現在の私たちです。逆に、そうではない種は、生存に不利になり、集団の一員で居続けられなくなるため、生き残りにくくなってしまうというわけです。

よって、私たちはそもそも謝られると、苦痛や相手への怒りが減って「胸がすっと」して(感情宥和効果)、相手の印象が良くなり(印象改善効果)、罰や償いを減らすようになります(罰軽減効果)。これら3つの要素をまとめると、私たちは相手に謝られると、寛容になり許したくなるという心理をもともと持っているというわけです(謝罪宥和理論)

どううまく謝るの? ―表1

それでは、許したいとより思われるためには、どううまく謝ることができるでしょうか? 先ほどの謝るための3つの心理と謝りたくない3つの心理を踏まえて、そのコツを大きく3つに整理してみましょう。そのキーワードは、不可抗力優越感、そして”Be 土下座”です。

①不可抗力
黒島は、寝坊して遅刻したのに、待っていた相談者の沼田に「遅くなりました」「また人身事故で電車止まっちゃって」と言います。沼田が「あ、最近多いですもんね」と言ったところで、黒島は「ね。電車の事故は不可抗力だから、30分ぐらい仕方ないと思ったでしょ」と打ち明けます。

1つ目は、自分の責任を認めつつも、それがたまたま不可抗力であったことと仕立て上げて、しょうがないという気持ちにさせることです。そのポイントは、病気、不慮の事故、他人のトラブルの巻き込まれなど、なるべく自分のコントロールが及ばない状況であることです(制御不能性)。また、黒島は「自分の責任じゃないのに、誠心誠意謝る」「謝らなくて良い時の謝罪ほど効果的なんです」と言います。つまり、理性的には責任がないように相手に思わせておいて、感情的には責任を感じて謝っているという演出が大事なのです。

さらに、黒島は「目上の人間に立ち会ってもらう」「上司や先輩などあなたをよく知る人にあなたの長所や人間的魅力をアピールしてもらう」と言います。自分たちよりも立場が上の人の意見による保証を得ることで、もともと自分は過ちをする人ではなく、やはり不可抗力であったと相手に印象付けることができます(権威付け)。

これらが、謝った時に許される決め手になります。不可抗力の事態により許す理由があると思わせることが重要です。

②優越感
黒島は、セクハラ訴訟を抱えている沼田に「相手が怒りをぶちまけ終えたら、次はほめまくる」「白々しくて全然良いの。100%お世辞でも褒められたら嬉しくなるのが人間なんだよ」とアドバイスします。また、黒島は、典子の「兄」の謝罪の一貫として、しばらく住み込みでヤクザの舎弟になり、献身的なサービスをして、親分から気に入られています。

2つ目は、優越感を抱かせて気持ち良くさせて、許したくなる気持ちにさせることです。そのポイントは、相手を持ち上げることです。例えば「○○さんをとても頼りにしていただけに、なおさら申し訳ないです」「がんばってる○○さんだからこそ」とさりげなく褒めることです。また、「今回の件は今後の教訓になりました」「良い勉強になりました」「○○さんのおかげです」と感謝することです。

逆に、相手持ち上げるために、自分を引き下げる、つまり下手(したて)になることもできます(アンダードッグ効果)。例えば、例えば、「ええ~!?そんなことになっちゃったんですか!?」と慌てふためいてみっともないくらいの演出をすることです。遅刻した時などは、はあはあ息を切らして、汗を垂らしている方が許しを得やすいでしょう(レッドフェイス効果)。実際に、黒島は、ヤクザに謝罪をする時、顔面血まみれになり、けがをしているのに謝罪に来たという偽装をします。そうすることで、そこまでして相手が大切であるという思いが相手に伝わります。

また、あえてつらい謝罪にすることです。黒島は、「大事なものを犠牲にする」「言葉や態度だけでは誠意が伝わらない場合、あなたにとっても大事なものを犠牲にすることで許しを請う」と沼田にアドバイスしています。つらい謝罪は、あえて大勢の前で謝罪することにも通じます。例えば、それが、有名人の謝罪会見です。また、自分の上司などの監督者に叱られている姿をあえて相手に見せることも効果的です(見える化)。

さらに、謝ることに時間をかけることも重要です(コスト)。共感性が高い女性が相手の場合は、親身になり、傷付いた気持ちを癒やすことに重きを置くのが良いでしょう。一方、理屈っぽい男性が相手の場合は、原因の詳細化や数値化、今後の対策の説明に重きを置くのが良いでしょう。ちなみに、こちらが時間をかけることは、同時に相手にも時間を使わせていることになります。その時間が無意味なものに終わらせたくないという相手の心理を利用することにもなります。

これらが、謝った時に許される強力な後押しになります。得られた優越感により許す価値があると思わせることが重要です。

③”Be 土下座”
黒島は、”Be together”を文字った”Be 土下座 ”をスローガンにしてます。帰国子女の典子から「Beじゃなくて、Doじゃないですか?」「するはDoだから”Do 土下座 ”じゃないですか?」と突っ込まれています。しかし、別のシーンで、黒島は典子に「むしろぶつける前(トラブルが起きる前)に謝る気持ちじゃないと」とも言っています。つまり、土下座は「する」ものではなく、「ある」ものであるという黒島ならではの発想です。

3つ目は、トラブルが起きる前から土下座をしているような心のあり方で、謝る前からすでに許されている状況をつくっていることです。誤解がないようにしたいのは、実際に土下座するのではないです。日々、人と接する時は、相手を敬い、信頼関係を築こうとする心のあり方を「土下座」というユーモラスな言葉を使っています。そのポイントは、例えば「私はもともとせっかちなところがあります。それで迷惑なことがあったらごめんなさい」とあらかじめ謝っておくことです。これは、許しのハードルを下げることができます(セルフハンディキャッピング)。逆に、真面目で几帳面でミスしない優秀な人であると期待されてしまうと、いざミスして謝る時は、「ミスしないはずなのにしている」とがっかりされ、許しのハードルが上がってしまいます。自分が「ミスをしないロボット」ではなく、「ミスもする生臭い人間」であるという前提を日々強調しておくとが重要です(参照点の操作)。

これらが、謝る時に許される土壌をつくります。許されている雰囲気があると最初から思われていることが重要です。

表1 謝るコツ★

「あやまる時、人は誰でも主人公」

黒島は、「あやまる時、人は誰でも主人公」との座右の銘を掲げます。謝ることは、仕方なく嫌々やるものではなく、「主人公」として主体的に積極的にやるものであるということを私たちに教えてくれます。それは、プライド、パワーバランス、コストばかりを気にして、「謝ったら損をする」というネガティブな発想ではありません。それは、相手と分かり合える、仲良くなれるなどの信頼関係を強めることに目を向けて、「謝ったら得をする」というポジティブな発想です。

つまり、謝ることは、重要なコミュニケーションの手段の1つであるということです。その大切さを理解した時、私たちは、「謝罪の王様」になることができるのではないでしょうか?

参考文献

1)小渕憲一:謝罪の研究―釈明の心理とはたらき、東北大学出版会、2010
2)内藤誼人:「人たらし」のブラック謝罪術、だいわ文庫、2009
3)間川清:うまい謝罪、ナナ・コーポレート・コミュニケーション、2011