みなさんは、困っている人を見かけると、「放っとけないわ!」と居ても立ってもいられなくなりますか?「だからこそ、医療現場で働いているんだ」とお答えする人もいるでしょうか?困っている人を助けたいという純粋な気持ちはもちろん良いことです。ただ、逆に、その気持ちが強すぎて、やりすぎてしまい、結果的に相手も自分もだめにしてしまうことはないでしょうか? 今回は、このような「世話焼き」「抱え込み」の心理をテーマにして、2006年のテレビドラマ「だめんず・うぉ~か~」を取り上げました。ドキュメンタリーマンガのテレビドラマ化で、コミカルな展開と、リアルな気持ちが絶妙に描かれています。「だめんず」とは、様々なダメ男たちを総称した造語で、「だめんず・うぉ~か~」は、ダメ男たちを渡り歩くダメ女という意味です。もともとは、雑誌「Men’s Walker」を文字っているようです。ドラマでは、「だめんず」っぷりを発揮するダメ男たちがメインで紹介されています。浮気男、マザコン男、優柔不断男、嘘つき男、借金男、暴力男、ナルシスト男、見栄っ張り男、没落男など様々です。ここでは、そんなダメ男たちにどうしてもハマってしまう「だめんず・うぉ~か~」であるダメ女たちの心理にスポットライトを当ててみたいと思います。そして、メンタルヘルスの視点から、より良いコミュニケーションのコツについて、みなさんといっしょに掘り下げていきたいと思います。
主人公のまりあは、大手商社に勤めるベテラン美人秘書です。気立てもよく、仕事もできて、魅力的です。女性にも優しく、みんなの頼れる姉的存在でもあります。しかし、今まで彼女が恋に落ちた相手は、何人もの放っておけないダメ男たちばかりでした。これだけ痛い経験を積んで懲りているだけに、彼女は、ダメ男を見抜く鋭い目を持っています。後輩のナツが、ダメ男に騙されそうになるたびに、「あんな男、やめなさいよ」とお節介も言います。そして、ナツからは「放っといてください」と毎回、嫌な顔をされますが、そのアドバイスがことごとく当たってしまうのです。そんなまりあは、逆に、しっかり者で真面目なIT社長にプロポーズされた時には戸惑ってしまいます。「分かっているんだけど、ときめかない」「だめなのは、男の方じゃなくて、その(ダメな)男を選んでしまう私」と自覚もしています。こうして、まりあは、どうしてもダメ男を放っとけない世話焼きな「だめんず・うぉ~か~」なのでした。
まりあの同期で心許せる友人の友子も、「だめんず・うぉ~か~」です。彼女には、小説家を目指す無職の恋人がいます。彼は言います。「おれさあ、絶対ベストセラー作家になって友子を楽にさせてやるから」と。一見すると好青年ですが、実は、大嘘つきで、二股や三股は当たり前の浮気男でした。そんな彼のことを友子はよく分かっています。そして、嘘がばれるたびに激怒もしますが、彼は「嘘をつくつもりはない」「ただ人を喜ばせたい、面白がらせたいだけなんだよ」と言い、開き直ります。友子は、そんな彼と決して別れようとはしません。それどころか、友子はまりあに打ち明けます。「彼は私がいないとだめなの」「肝腎なことが本当なら、小さな嘘はいいの」と。「肝腎なこと」とは、「おまえのことが一番大切なんだよ」「生涯ずっといっしょにいたいんだよ」との彼の言葉ですが、それすら嘘かもしれないのに、友子は、ダメ男を一途に支える「だめんずうぉ~か~」なのでした。
まりあの後輩のナツは、セレブなイケメンとの結婚を目指して、日々、合コンを繰り返しています。とても堅実です。しかし、彼女は、相手がセレブでイケメンという条件をひとたびクリアすると、その男性たちの誘いにすぐに飛び乗ってしまい、自分を売り込もうとするばかりに、自分を安売りしてしまいます。大会社の御曹司からは、「(愛人として)日陰の女になってくれ」と言われて、一瞬、まんざらでもないと思ってしまってもいます。自分の思い描くうわべの幸せに必死すぎるのでした。ナツは、イケメンやセレブという外見に気を取られすぎて、優しさや真面目さや我慢強さなどの男性の内面性が自分に合うかあまり目を向けていません。この心理は、見栄っ張りでケチな金持ち男と結婚したゆり子(まりあの元同級生)や、イケメンで気位が高い没落男を見捨てない久美(まりあの同僚)にも当てはまります。 「だめんずうぉ~か~」には、ナツやゆり子や久美のような体裁重視タイプと、まりあや友子のような母性本能タイプの2タイプに分けられそうです(表1)。体裁重視タイプの心理は分かりやすいのですが、母性本能タイプの心理は、実は、対人援助職に就く私たちの心理とも関係が深いので、もっと掘り下げていきましょう。
表1 「だめんず・うぉ~か~」のタイプ
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体裁重視タイプ |
母性本能タイプ (=共依存) |
特徴 |
相手の外見や経済力にこだわる |
相手をどうしても放っておけない |
例 |
ナツ ゆり子 久美 |
まりあ 友子 |
母性本能とは、そもそも自分の子どもをどんなことがあっても守ろうとする母親の本能です。この本能は、対人関係における心理として、男女問わず、多かれ少なかれ見られます。特に、まりあのように責任感のあるしっかり者は、そのしっかりしている能力を発揮したいだけに、周りに守るべきダメな人がいてくれる必要があるわけです。そして、ダメな人を放っておけない、自分を頼ってくれるダメな人を探し求めてしまいます。これは、「世話焼き」「お節介」でもあります。やりすぎてしまうと、相手をさらにダメにしてしまう恐れがあります。
これは、必要とされることを必要とする、言い換えれば、依存されることに依存する関係性の依存(共依存)です。ややこしい言い回しですが、これは、アルコールや薬物などの物質の依存とは違うタイプの依存です。ダメ男がダメ男として生き続けていけるわけは、ダメ男を好んで支え続ける共依存の女性たちがいるからこそなのです。もちろん、この心理は、人それぞれの相性により、良くも悪くも二面性があります(表2)。
表2 共依存の二面性
困った面 |
良い面 |
「お節介」「ありがた迷惑」 「過保護」「過干渉」 「押しつけがましい」 「甘やかし」 「恐妻家」 「独占欲」 「自己犠牲」「悲劇のヒロイン」 |
「世話焼き」 「面倒見がいい」 「尽くす」「献身的」 「優しい」 「世話女房」 「一心同体」 「チャリティー精神」 |
最強の「だめんず・うぉ~か~
である友子は、まりあにダメ男と別れられない理由を漏らします。「彼、私とだけは別れたくないって言ってくれたの
「私のことが一番だって」「そんなこと言ってくれる人、他にいないもん
と。とても興味深いセリフです。ここから分かることは、友子には劣等感があることです(低い自己評価)。そして、「あたしくらい彼を信じてあげないと彼ダメダメになっちゃうからね」とも言います。彼女は、ダメ男を支えることで自尊心を取り戻し、自分だけはこの人を救えるという優越感に浸ろうとしているのでした(救世主コンプレックス)。
さらに、友子の「彼は私がいないとダメなの(何もできない)
という独占的な支援の心理は、「私がいないと彼には何もさせない」という支配の心理(独占欲)にすり替わる重たさや危うさがあります。つまり、支えたい気持ちは、「飼い主」として手なずけたい欲望へと変わりうるのです。この共依存の根っこにある母性本能は、良くも悪くも相手を子ども扱いして、下手をすればペット扱いしてしまい、相手の自立を大きく阻んでしまう恐さがあると言えます。
このような共依存の危うさが典型的に見られるのが、アルコール依存症の夫のお世話をし続ける妻の心理です。どんなに夫が酔っ払って、夜中に騒いだり暴れたりして近所迷惑をかけても、妻が代わりに謝罪行脚をして夫の尻拭いをしてしまうのです。妻は謝罪をすることで「悲劇のヒロイン」である自分に酔ってしまうという一面もあり、夫は夫で事の深刻さに気付かず、ますますアルコール依存症が重症になってしまい、やがては夫婦共倒れとなるのです。また、近年、社会問題となっている引きこもりも、支援する過保護な親がいてこそ成り立つ共依存の心理が潜んでいると言えます。
それでは、まりあや友子は、なぜ共依存的な性格なのでしょうか?性格は、もともとその人が持っている素質(個体因子)に加えて、その人の生い立ちや家族背景(環境因子)が大きく影響します。ドラマでは、単に母性本能が強い性格として描かれているだけで、彼女たちの生い立ちや家族背景は触れられていません。しかし、実際には、共依存的な性格の源は、幼少期の家族関係がうまく行かず、家族同士の心理的距離が不安定な家庭環境(機能不全家族)に遡ることができます(表3)。
まず特徴的なのは、父親が、単身赴任、仕事の多忙、離婚、愛人問題などにより、本来の役割を果たしていない状況です(父性欠如)。すると、もともと父性の特徴である「ものごとはこういうもんなんだ」という規範的な視点(客観化)や、「ここまでは良いが、それ以上は良くない」という冷静な線引きの感覚(限界設定)が育まれにくくなります。
もう1つの特徴は、父親がいない分、相対的にも母親が子どもにべったりしてしまうことです(母性過剰)。父親が、いなかったり問題を抱えている状況で、母親は神経質になり、その不安な気持ちの矛先を子どもに向けてしまい、口出しが多くなっていきます(母子密着)。このような母親に育てられた子どもは、やはり同じように過干渉なコミュニケーションスタイルを受け継いでいき(家族文化)、社会生活においても、その心の間合い(心理的距離)は、どうしても接近してしまい、一定に保つことが難しくなってしまうのです。
表3 機能不全家族
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父性欠如 |
母性過剰 |
特徴 |
単身赴任、仕事の多忙、離婚、愛人問題、アルコール依存症、DV(家庭内暴力)など |
母子密着 →過保護、過干渉 |
子どもへの影響 |
限界設定が育まれにくい。 |
母親と同じく過干渉になり、心理的距離が取りにくい。 |
さらには、父親がアルコール依存症やDV(家庭内暴力)で、共依存的な母親がその状況に耐えている家庭環境であれば、子どもは、小さいながらその状況に適応していくために物分かりがよくなっていき(代償性過剰発達)、事態を丸く収めようと、騒ぐ父親をかばったり、殴られる母親を守ったりして、大人びた「良い子」を演じていきます(アダルトチルドレン)。そして、やがては、ダメな父親がいるという引け目(劣等感)を持ったしっかり者になっていくのです。
このしっかり者は、しっかり者ぶりを発揮したいために、選ぶ職業は、医療、福祉、教育などの対人援助職であることが多いです。これは、まさに対人援助職に就いている私たちの心理に重なるかもしれません。さらに、選ぶパートナーは、特に女性の場合、母性本能をくすぐる男性や手のかかりそうなやんちゃで危険な香りのする男性になってしまいがちなのです。そして、結果的に、皮肉にも、選んだパートナーがダメな父親と重なってしまい、こうして歴史は繰り返されていくのです(世代間連鎖)。実際に、特に女性の看護師さんが結婚した男性は、年下が多いこと、アルコールやギャンブルなどの問題を抱えている人が多い印象があります。
恋人からどんなにひどい目に遭っても、友子はけっきょく許してしまうのに対して、まりあはビンタをして関係を終わらせようとする違いがあります。
まりあのように、これ以上は許せないという見極めや線引きをすること(限界設定)は、特にダメ男に対して大切なことです。まりあの限界設定が甘いところは、まりあがプロポーズを断った相手が、その後に宿なしになり困っていたら、居候をさせてしまうことです。助けることに関しては、距離を置かなければならない相手であっても全力投球をして、結果的に相手を苦しめてしまうのでした。「同情と愛情がごっちゃ」と突っ込まれてもいます(表4)。
母親が子どもを大切に思う気持ちに限界はありません。多くの母親が、自分が死んでも子どもを守ると言い切るでしょう。これが、まさしく母性です。相手が子どもなら、もちろんこれは大切なことですが、相手がもういい大人の場合はどうでしょうか?
対人援助職の私たちが、困っている人をどこまで支えるかという見極めや線引きをすることは、実は、大きな課題です。なぜなら、私たちは、人助けしたくてこの仕事をしているわけですから。ついついいろいろやってあげたいという「母性本能」を発揮してしまい、良かれとやったことが裏目に出てしまいがちでもあるのです。私たちは、どこまでできるか、つまり、できることとできないことの線引きがブレないように、自分自身のやっていることを意識して(セルフモニタリング)、定期的に職場の仲間たちと足並みを揃えること(客観化)が大切であると言えます。
表4 まりあと友子の共依存の違い
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まりあ |
友子 |
タイプ |
しっかり者タイプ |
飼い主タイプ |
特徴 |
責任感が強い |
独占欲が強い |
限界設定 |
あり。ビンタをして関係を終わらせる。 ただし、距離を置く必要のある相手でも困っていたら助ける点では甘い。 |
なし。けっきょく許してしまう。 |
エンディングで、まりあは言います。「たとえ選んだのがダメな男でも、愛して寄り添って、一緒に生きていける相手ならそれでいい」と。周りにどんなにダメ出しをされても、自分が相手を許せて幸せなら、確かにそれがその人の価値観であり、生き様と言えます。ただ、問題は、ダメな男がどの程度ダメなのかということです。それを見極めるためには、ほど良い心の間合い(心理的距離)を保つ必要があることです。相手のことで頭がいっぱいになり、近付きすぎてべったりとなってしまったら、相手がどんどん調子に乗っていく姿も、自分がどんどんボロボロになっていく姿もよく見えなくなってしまうからです。
ある関連の本には、「(ダメな)男は変わらない。変えられるのは自分の選択だけだ」「危険な男(=ダメな男)と付き合う女性は、(運の悪い)犠牲者ではなく、志願者だ」という言葉があります。「だめんず・うぉ~か~」たちは、「だめんず・うぉ~か~」である理由を単に男運や「男を見る目がない」という能力のせいにするのではなく、あえてダメな男を嗅ぎ分けて選んでしまう自分自身の心のあり方に目を向ける必要があります。
私たちは、「だめんず・うぉ~か~
ならぬ、「だめんず・め~か~」にもなりうる潜在能力を秘めた対人援助職に就いています。このドラマから学べることは、困っている人を目の前にして、自分はどこまで助けられるか、相手にとって果たして良いことかなどを見極め、線引きをして(限界設定)、ほど良い心の間合い(心理的距離)を保つことです。
パートナーシップにおいても、対人援助職においても、自分が無理していないか、相手にとってやりすぎじゃないかという視点を持って、自分自身や相手との関係を見つめ直すことは、より良い人間関係を築く上でとても大切なことではないでしょうか?
「だめんずうぉ~か~」1巻~19巻(扶桑社) 倉田真由美
「その男とつきあってはいけない! (飛鳥新社) サンドラ・L・ブラウン
「共依存」(朝日文庫新刊) 信田さよ子
「共依存―自己喪失の病 (中央法規出版) 吉岡隆
「依存症の真相」(ヴォイス) 星野仁彦