連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
ストーリーは、ベルがお姫様になるというハッピーエンドです。ハッピーエンドたから、ベルがストックホルム症候群であろうとなかろうと良いじゃないかとも思われます。ただ、結末は本当にハッピーでしょうか? 問題は、さらに先の結末です。もともとベルを監禁していた王子(野獣)が、そのままでベルを大切にできるでしょうか? つまり、裏の結末は、ベルがDVやモラハラのリスクのある相手と結婚生活を送ることです。
それでは、ベルと王子は、どうすれば良いでしょうか? ここから、従う心理を踏まえて、DVやモラハラを予防するために、パートナーシップとしてお互いが守るべきルールを3つあげてみましょう。
①安全 ―相手を脅かさない
野獣は、ベルを監禁した上に、会食を拒否されると、食事を与えないと理不尽に怒り、ベルを脅していました。そして、ベルは、恐怖を抱いていました。
1つ目のルールは、相手を脅かさない、つまり安全です。相手が思い通りにならないことをはじめ、どんなことが理由でも、相手の安全を脅かすことは暴力です。そうならないためには、ベルが会食をすることと野獣が脅すことを切り離すことです。そして、ベルが会食に応じてくれるために、野獣は脅しではない別の対応をすることです。みなさんの中に、ベルは身代わりとして自分から監禁されることを望んだわけだから野獣は悪くないと考える人はいますでしょうか? ここで、最も強調したいのは、そもそもどんな理由であっても、たとえベルがどんなことをしても、ベルの安全を脅かすことをしてはいけないということです。
つまり、相手の行動と自分の行動は別と考えることです(課題の分離)。相手のアクション(行動)は相手の課題です。相手のアクションに対して、自分がどういうリアクション(行動)をするかは自分の課題です。誰の課題かを分けることで、その行動の責任を誰がとるのかをはっきりさせることができます。
例えば、「手を上げたのは相手が自分を怒らせたからだ」、または「自分を怒らせた相手も悪い。悪いのは自分だけじゃない」と言う人がいます。この理屈は成り立つでしょうか? 全く成り立たないです。なぜなら、暴力を振るうか振るわないかは100%自分の課題だからです。自分の課題は、暴力じゃないリアクションをすることです。その刺激となった相手の行動については、相手の課題として、また別に話し合いをすることが必要です。また、別れを切り出された時に、「別れるなら殺すよ」と言う人も同じです。
以上のように、相手を脅かすことは、殴る、蹴るなどの身体的な暴力だけでなく、怒鳴る、叫ぶ、金切り声を上げる、些細なことで急に怒り出す、脅すなどの心理的な暴力もあげられます。よって、自分が従わせる心理を抑えるためには、怒りっぽさをまず自覚することです。逆に、自分が従う心理を抑えるためには、まず恐怖を自覚して、「あなたが怖いです」「それはDVです」と相手に理性的に伝え、やめてもらうことです。
②自尊心 ―相手をけなさない
野獣は、自分が大けがをしたのは、ベルが脱走したからだとひがみっぽく責めていました。そして、ベルは罪悪感を抱いていました。
2つ目のルールは、相手をけなさない、つまり自尊心です。自分がうまく行かなかったことを理不尽に相手のせいにしたり、そもそも相手の欠点をけなすことはモラハラです。よって、そうならないためには、野獣が大けがをしたこととベルが脱走した意図を切り離すことです。野獣が大けがをしたのは、野獣が狼からベルを守るという行動を自ら選んだからです。それ自体はすばらしいことです。確かに、ベルの脱走は野獣が大けがをするきっかけにはなりましたが、ベルは頼んでいないですし、ましてや仕向けてもいないです。野獣に大けがをさせるつもりは、ベルに全くないです。
つまり、相手の行動と相手の気持ちは別と考えることです。例えば、「大丈夫って言ったけど、本当は大丈夫じゃなかった。それを察しなかったあなたが悪い」と言う人がいます。この理屈は成り立つでしょうか? 成り立たないです。なぜなら、大丈夫ではなかった責任は、大丈夫と言って助けを不要とした自分自身にあるからです。自分の言動は自分の責任です。
その他としては、「気が利かない」「察してくれない」「その努力が足りない」と繰り返し相手をなじることです。また、「おれがこんなにしてあげてるのに」「私がこんなにあなたのことを思ってるのに」と恩着せがましく見返りを求めることです。さらに、「おれのことを大事にしていない」「あなたの私を好きっていう気持ちに心がこもっていない気がする」と、抽象的なことについて問い詰めることです。ちなみに、別れる時には「今までの時間とお金を返して」と迫ることです。
気が利くか、察するか、大事に思うか、心をこめるかなどの相手の気持ちは、相手の「持ちもの」です。相手が感じることを、自分が指図することはできません。相手の気持ちを支配しようとすることはモラハラです。「気持ちを汲んでくれたらうれしい」と自分の気持ちを伝えることはできますが、相手がそれをするかしないか、できるかできないかは相手の課題であり、自分の課題ではないです。自分の課題としては、相手にしてほしい行動があるなら、まず具体的に説明してお願いすることです。それをどう感じるか、どうするか決めるのは相手の課題です。
以上のように、相手をけなすことは、「あなたのせいだ」と理不尽に責任を押し付けるだけでなく、「申し訳なさが感じられない」「感謝が足りない」「あなたはだめな人だ」とおとしめることもあげられます。よって、自分が従わせる心理を抑えるためには、まずひがみっぽさを自覚することです。逆に、自分が従う心理を抑えるためには、まず謝った罪悪感を自覚して、「それは理不尽です」「それはモラハラです」と相手に理性的に伝え、やめてもらうことです。
③自由 ―相手を縛らない
野獣は、自分の境遇に卑屈になっていました。そんな野獣に、ベルは同情を寄せて城にとどまっていました。しかし、野獣の愛の告白に対して、ベルは「自由がないのに幸せになれる?」と漏らしています。
3つ目のルールは、相手を縛らない、つまり自由です。自分を愛してもらうために、相手の自由を縛ることは、束縛というDVです。確かに、野獣はやがてベルに親切で優しくしており、安全は守られるようになりました。しかし、監禁を続けている点では自由が侵害されています。そうならないためには、自分を愛してもらうことと相手の自由を縛ることを切り離すことです。そして、野獣は最初からベルの自由を侵害しない別の形で、気に入ってもらうアプローチをすることです。
つまり、自分の行動と自分の気持ちは別と考えることです。例えば、「私は心配性。あなたのことが心配だから、私はあなたのラインの履歴を全部見る権利がある」と言う人がいます。この理屈は成り立つでしょうか? 成り立たないです。なぜなら、いくら心配だからと言って、相手のプライバシーを侵害することはDVに当てはまるからです。また、自由の侵害に抵抗された場合、「私の気持ちはどうなるの?」「そう考える私の自由はないの?」とさらに言う人もいます。もちろん、自分にどんなことでも考える自由はあります。ただし、相手の自由を縛る行動をしてしまうこととは別にするということです。相手には相手自身の行動を自己決定する自由があります。
別れを切り出された時に、「おれは納得していない」「おれの気持ちはどうなるんだ?」と言う人も同じです。これは、ストーカーの心理です。そして、その後に相手から無視された場合は、「おれに逆らうのか?」とストーカー殺人に発展することすらあります。また、「別れると死ぬよ」「それくらい私はあなたを愛している」と言う人も同じです。これは、いわゆる「狂言自殺」の心理です。自分が納得できないことをはじめ、どんな理由があろうとも、相手の気持ちが離れているなら関係は終わりであるということです。
その他としては、冒頭にも触れましたが、ラインやメールの返事が遅いと怒る、居場所や行動を全て事前に伝えるというルールを押し付ける、携帯やパソコンを覗くなどです。さらには、スマホにGPSアプリを入れるよう迫る、交友関係や服装に口出しなどもあります。
以上のように、相手を縛ることは、「自分はだめだ」「どうせ自分なんか」との自己否定や、「自分はキレやすいから」「自分は不器用だから」「自分は弱いから」「自分は心配性だから」と言い訳がましいことから始まります。よって、自分が従わせる心理を抑えるためには、まず卑屈さを自覚することです。逆に、自分が従う心理を抑えるためには、まず行き過ぎた同情を自覚して、「それは束縛というDVです」と相手に理性的に伝え、やめてもらうことです。
このストーリーで説かれる真実の愛の教訓は、それ自体はすばらしいです。最後に、今回ご紹介したその裏に隠された教訓を重ねてみましょう。それは、怒りっぽさ、ひがみっぽさ、卑屈さの「見かけにだまされない」ことです。恐怖、誤った罪悪感、行き過ぎた同情という従う心理をよく理解した上で「心から愛し愛される」ことです。そして、安全、自尊心、自由をお互いに守る「美しさは心にある」ということです。
この映画を通して、「真実の愛」をよく理解することで、古典的名作の奥深さを知るだけでなく、より良いパートナーシップ、さらにはより良い仕事関係や家族関係も築くことができるのではないでしょうか?
1)みんなが知らない美女と野獣:セレナ・ヴァレンティーノ、講談社、2017
2)デートDV予防学:伊田広行、かもがわ出版、2018
3)あなたも心理学者!:ジョエル・レヴィー、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2015