連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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・選択的シングルマザー
・精子バンク
・社会的不妊
・毒親
・ピアサポート
・生殖心理
・女系社会
・「社会間競争」
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最近、結婚しないで子どもを生む有名人がたびたび話題になっていますね。そんな彼女たちは、選択的シングルマザーと呼ばれています。これは、離婚後や未婚で仕方なくシングルマザーになるのではなく、結婚しないことを最初から自ら選んで子どもを持つ女性を意味します。特に、海外の先進国では、彼女たちがどんどん増えています。
結婚しないで子どもを持つメリットは何でしょうか? 逆に、そのリスクは何でしょうか? 選択的シングルマザーは日本でも増えていくのでしょうか? 少子化への1つの解決策にはならないでしょうか?
これらの答えを探るために、今回は、ラブコメディの映画「カレには言えない私のケイカク」を取り上げます。この映画を通して、これからの生殖のあり方、そして生殖の未来を、生殖戦略という視点でいっしょに考えてみましょう。
主人公はゾーイ。ニューヨークでペットショップを経営する独身女性。彼女は、ずっと理想の男性を追い求めてデートを繰り返してきました。そして、その愛の結晶である子どもを待ち望んでいました。しかし、そんな男性はいつまで経っても現れません。彼女は「いろんな可能性を考えて、最も合理的な結論に至った」と言います。まず、男友達に「(セックスしないで)ただ精子だけちょうだい」と迫ります。しかし、理解されません。そして、産婦人科病院へ行き、精子バンクから提供された精子によって、人工授精に挑むのです。
それでは、まず、結婚しないで子どもを持つメリットを大きく3つあげてみましょう。
①結婚というハードルがなくなる
産婦人科病院からの帰り道、ゾーイはスタンに出会います。その後、彼の猛烈なアプローチによって、彼女は彼を好きになってしまいます。同時に、人工受精での妊娠が判明してしまい、どうすればよいかと思い悩むのでした。そして、とうとう彼女は、彼に「(精子バンクから提供された精子で)妊娠してるの」「子どもがほしかったの。タイムリミットになるのが怖かったの」と打ち明けます。
1つ目のメリットは、結婚というハードルがなくなることです。つまり、時間切れにならずに、産みたいときに産めるようになります。結婚しないということは、結婚するための時間と労力(コスト)がかからなくなるということです。
もちろん、多くの人は結婚相手に巡り会いたいと思っているでしょう。しかし、そうならない現実もあります。すると、子どもを産みたくても産めなくなります。これは、子どもを身体的に産めない身体的不妊に対して、社会的に産めないという点で社会的不妊と呼ばれています。また、最初から結婚を望まない人もいます。セックスを望まない人もいます。同性愛の人もいます。それでも、子どもがほしい女性のために、精子バンクがあるのです。
なお、現時点で、日本では精子の提供や売買を規制する法律はありません。一方で、日本の精子バンクは、日本産婦人科学会が登録する施設にありますが、その対象は不妊の夫婦に限定されています。よって、独身女性が精子の提供を受けるには、海外の精子バンクから購入する、知人の男性から譲り受ける、SNSを介したボランティアから譲り受けるなどの方法があります。ただし、知人男性から譲り受ける場合、父親を認知しないこと、養育費(養育義務)を請求しないこと、そして子育てへの介入(養育権)を受け付けないことを明確にする必要があります。また、ボランティアから譲り受ける場合、遺伝負因や性感染症などの安全面が不透明であるという問題があります。
②結婚生活を維持する負担がなくなる
ゾーイは、友達から「あなたのことを30年知ってるけど、あなたは人を信用しないよね。精子ドナーは完璧な相手ね。だって絶対に裏切らないから」と指摘されます。
2つ目のメリットは、結婚生活を維持する負担がなくなることです。実際に、共同生活をすれば、それぞれの生活の仕方の違いから、夫婦げんかに発展することは多々あります。そうならないように、日々話し合いをする必要があります。しかし、共同生活をしないということは、その時間と労力(コスト)がかからなくなるということです。
もちろん、最初から結婚していないので、離婚の心配もありません。親権で争う必要もありません。養育費の交渉をする必要もありません。なぜなら、最初から当てにしていないからです。
③自分の思い通りの子育てができる
ゾーイは、産婦人科医からシングルママの会という自助グループを紹介され、参加します。そこで、シングルマザーたちに「私たちは、シングルであり、ママであることにプライドがあるの。養子縁組でも、人工授精でも同じよ。子どもを望み、自力で実現したっていう点でね」と説かれます。
3つ目のメリットは、自分の思い通りの子育てができることです。これは、夫がいなくて、「自力」で人生設計をしてはじめて可能になります。この心理は、実際に、「男性は中途半端に育児に関わってほしくない」という選択的シングルマザーの発言から、うかがい知ることができます。そもそも、先ほどにも触れた夫婦げんかの原因で多いのが、子育てへの価値観の違いであるという現実もあります。