連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【1ページ目】2023年9月号 海外番組「セサミストリート」子どもをバイリンガルにさせようとして落ちる「落とし穴」とは?-言語障害

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・敏感期(臨界期)
・発音(発声)
・語彙(象徴)
・文法(統語)
・ダブルリミテッドバイリンガル(セミリンガル)
・生活言語能力(BICS)
・学習言語能力(CALP)
・言語理解IQ(VCI)
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「セサミストリート」と言えば、世界各国で放送されている幼児向けの英語の教育番組でしたね。シンボルキャラクターであるビッグバードをはじめ、たくさんのキャラクターが登場して、英語での日常会話のやり取りを見せてくれます。このような幼児向けの教育番組を語学教材として自分の子どもに積極的に見せたり、幼いうちから英語教室に通わせるなど、なるべく英語に触れる環境にしていれば、子どもがバイリンガルになるのではないかと私たちはつい期待してしまいます。実際は、どうなのでしょうか?

実は、子どもをバイリンガルにさせようとすると、ある「落とし穴」に落ちてしまうおそれがあります。それはいったい何でしょうか? 今回は、「セサミストリート」をヒントに、言語能力の本質に迫り、その答えである言語障害をご説明します。

なんで中学校からでは遅すぎるの?

私たち親世代(1990年生まれ以前)のほとんどは、英語教育を中学校から受けました。そして、英語の読み書きについてはある程度できるものの、聞く・話すについては大変な苦労をしてきました。なぜなのでしょうか?

そのヒントは、言葉の学習の敏感期です。敏感期とは、ある能力を発達させるための刺激に敏感な時期です。その時期を過ぎると、刺激に敏感ではなくなるため、その能力の発達が難しくなります。臨界期とも呼ばれますが、臨界期はある時を境に反応が急に落ちていくニュアンスが強いのに対して、敏感期はある時から反応が徐々に落ちていくニュアンスがあります。ただ、ほぼ同じ意味として使われることもあります。この記事では、敏感期を使用します。

言葉の学習には、発音、語彙、文法の大きく3つがあります。これは、発声、象徴、統語という3つの言葉の機能に重なります。この言葉の3要素の詳細については、以下の記事をご覧ください。


>>言葉の3要素

ここで、スペイン在住の中国系移民のスペイン語の習得状況の調査研究(*1)をご紹介します。この研究によると、3歳以降に移住した中国系移民は発音がスペイン人とは違ってきます。8歳以降に移住した場合はスペイン人ほど言い回しがうまくなくなり、12歳以降では文法の間違いも出てきて流暢ではなくなる結果となりました。つまり、それぞれの敏感期は、発音3歳まで、語彙8歳まで、文法12歳までということが分かります。これは、私たちが英語の学習を中学校(12歳)から始めたことで、読み書きは何とかできるものの、LとRなどの英語の発音の聞き分けや言い分け、英会話の聞き取りや話すことがなかなかスムーズにできないことを説明できます。つまり、英語教育が中学校からでは遅すぎる原因は、流暢に話す敏感期を過ぎてしまっているからです。

★グラフ1 言葉の学習の敏感期

なお、それぞれの敏感期が始まる時期については、発音は耳が聞こえるようになる生後まもなく、語彙は初語が出てくる1歳、文法は複文が出てくる4歳としました。発音の敏感期が3歳で終わることを考えると、3、4歳頃は、脳の注力が語彙をメインとしつつ、発音から文法へと移行している時期と考えることができて、納得が行きます。また、語彙の敏感期が8歳で終わることを考えると、この頃に基礎的な語彙(生活言語)から読み書きを通した抽象的な語彙(学習言語)へと脳の機能が移行すると考えることができます。

ちなみに、この敏感期の段階的な移行は、音感の獲得のそれぞれの臨界期(敏感期)にも重なります。この詳細については、以下の記事をご覧ください。


>>音感の獲得のそれぞれの敏感期