【4ページ目】2014年1月号 ドラマ「Mother」【後編】家族機能

見守ること、ほめること、そして叱ることのバランス

子育てには、母性も父性もほどほどが良く、大事なのはそのバランスであるということが分かりました。さらに、母性により見守ることとは別に、父性により見張ること、つまりほめることと叱ることもほどほどが良く、大事なのはそのバランスであると言えます。そのメカニズムを詳しく見てみましょう。

①二面性―表2

見守ること、ほめること、そして叱ることとは、具体的にどういうことなのでしょうか?その特徴と二面性について考えてみましょう。

見守るとは、子ども(相手)の行動を温かくも注意深く見て、いざ危険になった時に助けて守るなどフォローすることです。例えば、子どもが父親や教師にほめられた時も叱られた時も、母親など誰かがその気持ちをそばで共感することです。すると、子どもは、自分にはどんな時も味方がいると安心します。見守られている子どもの脳内では、オキシトシンという神経伝達物質が放たれ、安全感や安心感が得られ、自己評価はプラスに保たれます。自己評価とは、自分自身への評価や価値であり、自分を大切にする心理です。

ただし、見守られること自体には、直接的な学習効果はありません。学習とは、例えば、1人でトイレを済ます、隣の家のおじさんに挨拶をする、困っている人を助けるなど期待されたことを行うことです。

ほめるとは、期待されたことを行った子ども(相手)に対して、その行為や子どもの存在を肯定することです。ほめられた子どもの脳内では、ドパミンという神経伝達物質が放たれ、楽しく心地良くなり、達成感が得られ、自己評価は上がります。すると、その子どもは、次も同じことをやろうと学習します。これが、ほめることによる学習効果です。ただし、この学習効果はある一定量しかなく、従って自己評価もある一定量しか上がりません。よって、学習効果や自己評価を高めるために、ほめることは、なるべくこまめに繰り返し行う必要があります(繰り返し効果)。

叱るとは、期待されなかったことを行った子ども(相手)に対して、その行為や子どもの存在を否定することです。叱られた子どもの脳内では、ノルアドレナリンという神経伝達物質が放たれ、緊張や恐怖を感じ、自己評価は下がります。これは、哺乳類の敵の学習に通じるものです。敵に襲われた時、恐怖という否定的な感情によって、敵を記憶するのです。それと同じように、子どもも、「敵に近付くこと」、つまり同じことはもうやらないように学習します。これが、叱ることの学習効果です。この学習効果は、1回だけでもとても高いのですが(即時効果)、同時に自己評価を大きく下げてしまう難点があります。よって、叱るのは、絶対にやってはいけないこと、つまり禁止のルールの学習に限定し、最小限にする必要があります。禁止のルールとは、例えば、人を傷付けてはいけない、人の物を盗ってはいけないなどです。

★表2 見守ること、ほめること、そして叱ることの比較

②アンバランスの危うさ―グラフ1

次に、見守ること、ほめること、そして叱ることのアンバランスの危うさについて考えてみましょう。

見守り(母性)が行き過ぎだったり足りなかったりした場合に起きる問題は、すでに「母性と父性のアンバランス」の段落で触れました。よって、見守ることは、多くも少なくもなく、一定して絶え間なく必要であるということです。

ほめることが行き過ぎて叱ることが足りない場合、つまりほめてばかりで叱らない親はどうでしょうか? いわゆる甘やかし、溺愛です。子どもは、自己評価が高くなりすぎて、自惚れが起きやすくなります(自己愛パーソナリティ)。また、禁止のルールの学習が進まず、やりたい放題で奔放な行動パターンを取りやすくなります。イメージとしては、いわゆる「ドラ息子」です。

逆に、叱ることが行き過ぎてほめることが足りない場合、つまり叱ってばかりでほめない親はどうでしょうか? 厳格な家庭環境ということになります。子どもは、自分の行動にいつも怯えてしまい、安心感をなくします。また、自己評価を大きく低めてしまいます。この問題も、すでに「母性と父性のアンバランス」の段落で触れました。さらに、時として、厳しいしつけや体罰は虐待に発展して、心の傷(トラウマ)も残してしまいます(PTSD)。

最後に、見守ることもほめることも叱ることも足りない場合、つまり見守りもほめも叱りもしない親はどうでしょうか? 放ったらかし、つまり放任です。子どもは、安心感や達成感を持てず、禁止のルールも分からないまま、とても野性的になります。欲望と恐怖だけに支配され、ただ生きるために生き続けているだけで、社会生活を送るのが、極めて難しくなります。

★グラフ1 アンバランスの危うさ

③ほめることと叱ることの割合―グラフ2

ここで、ほめることと叱ることの具体的なバランス、つまり割合について考えてみましょう。それぞれの特徴を踏まえて、自己評価をほどほどなプラスにすることに重きを置くと、ほめることは、叱ることよりも量、質ともにある程度多くする必要があります。そして、その前提として、もちろん絶え間ない見守り(母性)による自己評価の安定も重要です。

例えば、5回ほめることによる自己評価のアップが1回叱ることによる自己評価のダウンと同じになるモデルを考えてみましょう。グラフのように、繰り返しほめることで学習効果は徐々に進み、自己評価も徐々に上げっていきます。ところが、1回叱られると学習効果は大きく進むのですが、同時に自己評価は大きく下がります。そして、続けて叱られるとさらに学習効果が進みますが、自己評価が大きくマイナスになってしまいます。それは叱ることはとても威力があるからです。つまり、5回以上ほめて初めて1回叱ることができます。または、1回叱ったら、5回以上ほめる必要があります。なぜなら、叱り続けたら、自己評価がどんどん下がっていき、精神的に不安定になってしまうからです。

日頃から、見守られてほめられているからこそ、叱られても、そのストレスに耐えられるのです。別の言い方をすれば、ほめる「貯金」をたくさんしてこそ、叱る「借金」ができるのです。これが、ほめることと叱ることのバランスです。そして、これが、冒頭の問いかけの答えでもあります。

★グラフ2 ほめることと叱ることの割合