連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【1ページ目】2015年6月号 CM「あたらしい英雄、はじまる。」なんで彼はモテるの?―対人魅力【男性編】

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・心の進化(進化心理学)
・楽しませ上手(ドパミン)
・頼られ上手(ノルアドレナリン)
・聞き上手(セロトニン)
・同調
・演技性パーソナリティ
・自己愛性パーソナリティ
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「なんで彼はいつもモテるの?」

皆さんは、友人や職場の人で「なんで彼はいつもモテるの?」とうらやましく思ったことはありませんか? 世の中には、異性からも同性からもモテる魅力的な人がいます。魅力的である方が、デートのチャンスが増えますし、仕事もやりやすいです。特に精神科や心療内科では、患者がほど良く主治医に好感を持つことで、治療がうまく行くと言われています(陽性転移)。

モテる人とモテない人の違いは何でしょうか? 今回は、男性の対人魅力をテーマに、心の進化(進化心理学)の視点からとらえ直します。恋人や夫としての男性の魅力だけでなく、職場の上司や部下としての男性の人間的な魅力にも迫っていきたいと思います。

その魅力とは、もちろん見た目や経済力を挙げる方もいるでしょう。しかし、実は、それ以上に大事なことが3つあります。そのヒントが、あるCMにあります。それは、現在ヒットを飛ばしシリーズ化されているAUのCM「あたらしい英雄、はじまる。」です。身近な携帯電話のCMに登場するキャラクターは、世の女性からも男性からも好感を持たれる魅力が詰まっているとも言えます。なぜなら、その魅力が直接シェア拡大につながるのですから。

今回は、このCMに登場する桃太郎の松田翔太さん、浦島太郎の桐谷健太さん、金太郎の濱田岳さんから、男性の3つの魅力についていっしょに考えていきましょう。

楽しませ上手

1つ目の魅力は、桃太郎の松田翔太さんにあります。まずは、以下の動画サイトを見てみましょう。画面をクリックしてください。

桃太郎は、桃から生まれた時の音を「パッカーン」と言い、それを浦島太郎と金太郎がおもしろがります。桃太郎は求められると繰り返します。話しがうまく、サービス精神旺盛です。3人のリーダー的存在でもあります。1つ目の魅力は、楽しませ上手です。この魅力を発揮するために、男性の方は次のクイズに挑戦しましょう。

Q1. 出会いの場でどう振る舞う?

A. 自分の良さを知ってもらうために、まず自分のことを話す。

B. 相手の話に聞き入り、自分の話はしない。

C. 相手の話や興味に合わせて、自分のことを話す。

Aは、相手の話を聞き出しておらず、相手といっしょに楽しむ共通の話題が出にくく、話が一方的になっています。Bは、逆に聞くことに徹しています。良さそうにも思えますが、相手がよほどのおしゃべりでなければ、そのうちに会話が続かなくなります。Cは、相手がどんな人かを知ろうとする姿勢があり、さらに相手に合わせていっしょに会話を楽しもうとする姿勢が見受けられます。大事なのは、自分のことを話すこと(自己開示)は、し過ぎず、し足りず、相手に合わせて楽しむことです。よって、答えはCです。

Q2. 出会いの場で年齢を聞かれた時にどう答える?

A. 「○歳(実年齢)です」と真面目に答える。

B. 「いきなり年齢を聞くのは失礼」とはっきり言う。

C. 「何歳でしょうねえ」と微笑む。

D. 「逆に何歳だと思います?」と切り返す。

E. 「17歳です。(間を置いて)気持ちは」と極端に若い年齢をふざけて言う。

AとBは、真面目な対応で、会話がはずみません。Cは、年齢を言いたくないことをほのめかしていることは伝わりますが、楽しくはありません。Dは、質問返しで、会話の広がりが期待できます。ただし、この切り返しは使い古されてきています。Eは、相手を楽しませようとするメッセージは伝わります。ウケないならそれはそれで良いという強いハートで臨むことが大切です。なぜなら笑いは伝わらなかったとしても、笑いを届けたいという一生懸命さや誠実さは確実に伝わっています。相手も興味や好意があるからこそ年齢を聞いているわけで、きっと相手から暖かいツッコミやノリツッコミが返って来ることでしょう。大事なのは、いかに会話を楽しめるか、いかに女性に楽しくていっしょにいたいと思わせるかということです。

Q3. 彼女が初めて自分の家に来た時に彼女が油断して音を立てておならしてしまったらどうリアクションする?

A 「ところでさあ」と話題を変える。

B 「おならするなよ」とツッコミを入れる。

C 「おならはしょうがないよね」と真面目に言う。

D 「お腹、大丈夫?」と心配する。

E 「おれも同時におならしちゃった」とふざける。

F 「自分の方が大きなおならが出せるよ」と笑顔で言う。

Aの気付かないふりは、親密な関係の相手ではないなら有効です。しかし、恋人関係にある場合は、白々しくなってしまい、逆にさらに気まずくなる危険があります。Bの直接的なツッコミは、長い付き合いで関係性が安定しているなら有効です。しかし、付き合い始めの場合は、きつく聞こえてしまう危険があります。そもそも彼女は意図しておならをしたわけではないからです。Cのそのまま受け止めるのは、悪くはないですが、良くもないです。Dの深刻に受け止めるのは、彼女を心配している点は良いですが、大げさで滑稽になってしまい、さらに彼女を恥ずかしい思いにさせてしまう危険があります。EやFは、自分もおならをするので同類だというメッセージを笑いに込めて伝えています。彼女の恥ずかしさは、その笑いで吹き飛ばされており、とても好感が持たれます。

大事なのは、いかに彼女の恥ずかしい気持ちを和らげることができるか、いかに楽しい状況に変えることができるかということです。おなら1つへのリアクションで、2人の距離が縮まるか離れるかが分かれてきます。

楽しませ上手が考えることは、「自分が彼女をどう思うか」ではなく、「彼女が自分をどう思うか」「彼女が自分にどう思われたいか」ということです。察する賢さ、読める賢さです。そのためには彼女(もっと言えば女性)は何が好きで何が嫌いかを徹底的に知っておく必要があります。

なぜ楽しませ上手はモテるのか?

そもそも女性は、楽しませ上手な男性を本能的に選ぶ傾向があります。これを心の進化(進化心理学)の歴史からひも解いてみましょう。

私たち人間の体は環境に適応するために進化してきました。同じように、私たち人間の心も進化してきました。その適応してきた環境とは、狩猟採集生活を営んでいた原始の時代です。その始まりは、チンパンジーと共通の祖先から私たちの祖先が二足歩行をして分かれていった700万年前です。農耕牧畜から始まる現代の文明社会は、たかだか1万数千年の歴史であり、進化が追い着くにはあまりにも短いと言えます。つまり、進化心理学的に考えると、私たちの心の原型は、まさにこの原始の時代に形作られました。

原始の時代、人間は、二足歩行が可能になったことで、手が自由になり、より食料を運ぶことができるようになりました。そこで、男性(父親)は日々食糧を確保し、女性(母親)は日々子育てをするというふうに、性別で役割を分担して、家族集団で共同生活を行いました。そして、この生活スタイルをとった種がより生き残りました。生き残った子孫が現在の私たちです。つまり、私たちは男性も女性も、いっしょに助け合って生きていこうとする協力的な異性を魅力的に感じる好み(嗜好性)が進化しているということです(性選択)。そして、女性から男性を見定める目安(形質)の1つが楽しませること、つまりお笑い(ユーモア)なのです。

そのユーモアのセンスが存分に発揮される現代の職業は何でしょうか? それは、お笑い芸人です。お笑い芸人が女性にモテるのも納得が行きます。実際にユーモアのある男性はより魅力的であるという心理実験の結果が出ています。

また、女性を楽しませる延長として、あえてお願いごとをするという方法があります。例えば、男性が、自分はファッションのセンスに自信がないからいっしょに服を見つけてほしいと女性にお願いするのです。特にしっかり者の女性は自分が役に立てる喜びを感じるので、効果的です。

楽しませ上手すぎると? ―表1

それでは、楽しませ上手であればあるほど良いのでしょうか? そうとも言えないです。相手(周り)に合わせる心理は、協調性や共感性がある反面、度がすぎると、空気ばかり読むイエスマンとなり、相手(周り)に流されやすくなってしまいます(同調)。また、ノリが良く、ほめ上手で、演出がうまい反面、度がすぎると、表裏が激しく嘘つきになり媚びてばかりで薄っぺらく中身がなくなってしまいます(演技性パーソナリティ)。

また、楽しませ上手だけであれば良いのでしょうか? そうとも言えないです。楽しませ上手は、女性を楽しくさせますが、それはあくまで最初に有効なだけです。表面的で中身がなければ、魅力は維持できません。

それでは、その中身とは何でしょうか? その男性を魅力的にさせ続けるために必要な要素が、あと2つあります。

表1 楽しませ上手の二面性