連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【3ページ目】2015年6月号 CM「あたらしい英雄、はじまる。」なんで彼はモテるの?―対人魅力【男性編】

聞き上手

3つ目の魅力は、金太郎の濱田岳さんにあります。まずは、以下の動画サイトを見てみましょう。画面をクリックしてください。

金太郎は、自分の話でありながら、桃太郎と浦島太郎から意見を引き出し、「ですよね~」と合いの手を入れます。CMのシリーズ全体を通して、金太郎は桃太郎と浦島太郎より一歩引いた立ち位置です。また、さきほどの動画で、金太郎は、桃太郎がキジの家族一人一人にきび団子を分け与えている良い話を聞いて、「家族一人一人・・・」と感動して泣き出していました。相手の話に聞き入り、とても共感的です。3つ目の魅力は、聞き上手です。この魅力を発揮するために、男性の方は次のクイズに挑戦しましょう。

Q6. 彼女の母親が緊急入院した。落ち込んでいる彼女にどう声をかける?

A. 「もっと大変な人もいるよ」「元気出して」と励ます。

B. 「今、何かしたいことある?」と聞き出す。

C. 「自分が落ち込んだ時は・・・」と自分の話を聞かせる。

D. 「今つらいんだね」と共感する。

ポイントは、人生にはどうしようもないことがあること、自分が頼りにならないことがあることを理解していることです。そして、それでも彼女の味方として寄り添うことです。

Aは、頼られ上手としてついつい言いそうになります。他人と比べて大したことないと決め付けています(標準化)。しかし、彼女にとっては一大事です。また、彼女なりにすでに元気を出そうとしてがんばっているかもしれません。そんな時に、さらに元気を出せと励ますのは、彼女を追い込むだけになるリスクがあります。医療においては、うつ状態の人に叱咤激励は禁忌です。Bは、楽しませ上手として良さそうです。しかし、この状況では、彼女は落ち込んでいて何もしたくない可能性が高く、愚問です。Cは、彼女に話を聞く心の余裕はない可能性が高く、逆効果です。Dは、共感することで彼女の気持ちに寄り添っています。彼女は、あなたが自分の味方であることを再確認します。大事なのは、彼があなたに心を預けたくなるかということです。

Q7. 今日、彼女が仕事でミスをした。八つ当たりする彼女にどう返す?

A. 「八つ当たりするなよ」とたしなめる。

B. 「ごめん」と言ってとりあえず謝る。

C. 「仕事大変だったんだね」と優しく言う。

Aは、正論です。しかし、結果的には冷たく彼女を突き放しています。Bは、場合によっては必要ですが、彼女の本心は謝罪を求めているわけではないです。Cは、八つ当たりしているかどうかは置いといて、まず彼女の気持ちを受け止めています。大事なのは、弱っている時、人は感じやすくなるということを理解していることです。そして、繰り返しですが、それでも彼女の味方として寄り添うことです。それには、男の器の大きさが求められます。

Q8. あなたの仕事が多忙になり、彼女といっしょにいる時間が減っている。思い詰めた彼女は「仕事と私、どっちが大事なの?」と不安そうに迫ってきた。まず、彼女にどう答える?

A 「今は仕事が大事な時である」と強く説得する。

B 「仕事を減らして会う時間を増やす」と固く約束する。

C 「どうしてそう思うの?」と優しく尋ねる。

Aの説得を試みるのは、頼られ上手にありがちです。しかし、彼女の不安な気持ちを受け止めていないです。Bは、彼女の気持ちを汲んで満たそうとしており、一見良さそうです。しかし、果たして仕事を減らすことを彼女は本当に望んでいるのでしょうか? Cは、彼女の気持ちを引き出しています。これが、まずするべきことです。大事なのは、まず彼女の気持ちを受け止めること、彼女の真意は何かに耳を傾ける態度を示すことです。

聞き上手が考えることは、「彼女が弱っている時に、自分は彼女に何をして何をしないか」ということです。そのためには彼女(もっと言えば女性)はどうすれば安らぐかを徹底的に知っておく必要があります。

なぜ聞き上手はモテるのか?

そもそも女性は、聞き上手な男性を本能的に選ぶ傾向があります。これも先ほどの心の進化(進化心理学)から考えてみましょう。原始の時代、子育ては、女性(母親)が主にしていましたが、男性(父親)も助けていました。このように子育てに協力的な男性を女性はより選びました。その子孫が現在の女性たちです。つまり、女性は、子ども(=弱者=弱っている時(退行)の自分)に優しい男性を魅力的に感じる好み(嗜好性)が進化しているということです(性選択)。例えば、イクメンの芸能人の人気は、女性に揺るぎないです。そして、その目安(形質)が話をよく聞くことなのです。なぜなら、話をよく聞く人(グッドリスナー)=理解者=味方になるからです。

ちなみに、話をよく聞くための相づちのコツがあります。それは、相手の言葉を繰り返すこと(オウム返し)、言い換えること、まとめること、そして汲み取ること(共感)です。さらに、時々ツッコミを入れれば、楽しませ上手にもなるでしょう。

この話をよく聞くことが存分に発揮される職業は何でしょうか? それは、ホストです。ホストクラブに女性がハマるのも納得が行きます。彼らは、女性の話をよく聞きます。

聞き上手すぎると? ―表3

それでは、聞き上手であればあるほど良いのでしょうか? 聞き上手だけであれば良いのでしょうか? そうとも言えないです。話をよく聞く心理(能力)は、安心感や安全感をもたらしてくれる反面、そればかりだと刺激がなく退屈で、頼りなくなってしまいます。例えば、先ほどのクイズで、出会いの場で話を聞くことに徹する(Q1のB)、自分の年齢を明かさずに微笑むのみ(Q2のC)、彼女のおならを心配する(Q3のD)、トラブルの時に話を聞くことに徹する(Q5のB)などは、聞き上手の要素はありますが、その状況では正解ではないです。

また、さきほどの金太郎は、自分にメジャーな話がないと嘆くと、「新しい話を作ろう」と桃太郎と浦島太郎に言い出され、「こんなまさかりなんてやめちゃってさ」と、鉞(まさかり)を囲炉裏の中に入れられてしまい、いじられキャラになっています。

表3 聞き上手の二面性

男性の対人魅力とは? ―バランスとギアチェンジ

これまで、恋人や夫としての男性の魅力(対人魅力)の要素が、楽しませ上手、頼られ上手、聞き上手であることを明らかにしてきました。それぞれの上手は、脳内の3つの代表的な神経伝達物質に重なります。お笑い(ユーモア)は楽しさであるドパミン、頼もしさは強さであるノルアドレナリン、そして話をよく聞くことは優しさであるセロトニンです。これらの心理(神経伝達物質)がバランス良く、そしてタイミング良く発揮されていることが心の健康として、そして対人魅力として望ましいと言えます。

つまり、ここで大事なことが2つ分かります。1つは、どの上手を高めるかだけでなく、どの上手が足りないかを知ることです。つまり、どの上手でもあるバランスです。そしてもう1つは、自分がどの上手になりたいかではなく、その時の彼女(相手)がどの上手になってほしいかを見極める賢さを持つことです。つまり、どの上手にもなるギアチェンジです。

なお、この男性の対人魅力の要素である楽しませ上手(ドパミン活性化)、頼られ上手(セロトニン不活性化の抑制)、聞き上手(オキシトシン活性化)は、前回にご紹介しました女性の対人魅力の要素である甘え美人(ドパミン活性化)、気配り美人(セロトニン不活性化の抑制)、癒し美人(オキシトシン活性化の)とお互いに影響をし合って進化してきたと言えます(共進化)。

男性の対人魅力とは? ―バランスとギアチェンジ

職場に生かす対人魅力とは? ―表4

さらには、職場の上司や部下としての男性の人間的な魅力も、3つの上手のバランスとギアチェンジからヒントが得られます。

例えば男性の上司の場合、勤務時間中は部下たちに指示を的確に出して、リーダーシップを発揮し、部下の失敗を積極的にフォローして、いざと言う時は、自分が責任を取ります(頼られ上手)。一方、休み時間は部下と打ち解けてふざけます(楽しませ上手)。そして、部下が仕事で疲れ切っている時は必ずねぎらい、相談事にはよく耳を傾けます(聞き上手)。また、部下にダメ出しをする時は、自分のタイミングではなく、部下が受け入れられるタイミングを見計らいます。これは、さきほどのクイズで、彼女が弱っている時の対応(Q7)にも通じるもので、人は弱っている時はひがみっぽくなり、指示や忠告を素直に受け入れにくい心理があるからです。つまり、弱っている時のダメ出しは、効果があまり期待できないどころか逆効果になる可能性を理解していることです。

このように、男性の対人魅力をより良く知ることは、男性の人間的な魅力を発揮することにもつながります。さらには、男性だけでなく、女性もその心理を知ることで、お互いのより良いコミュニケーションにつながっていくのではないでしょうか?

職場に生かす対人魅力とは? ―表4

参考図書

1)ジャレド・ダイアモンド:人間の性はなぜ奇妙に進化したのか?、草思社、2013
2)井村裕夫:進化医学、羊土社、2013
3)山岸俊男監修:社会心理学、新星出版社、2011