連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

2024年6月号 女性誌「STORY」【その1】息子を彼氏化するママ?娘にメロメロなパパ?その問題点は?-溺愛の心理

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・ストーカー
・共依存
・操作性
・空の巣症候群
・性的虐待
・モラルハラスメント
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母親のみなさんは、息子さんが好きすぎて「私好みになってほしい」「彼氏になってデートしてほしい」と思うことはありますか? 父親のみなさんは、娘さんにメロメロで、何でも買い与えて、いつまでもいっしょにお風呂に入ってほしいと思うことはありますか? 一方で、このようなかかわり方に問題はないでしょうか?

今回は、溺愛の心理をテーマに、時代を映す鏡の1つである女性誌「STORY」の子育てコーナーの読者アンケートを取り上げます。いつもと違い、シネマセラピーのスピンオフバージョン、「ケーススタディ・セラピー」です。彼女たちの本音を踏まえて、溺愛の問題点を掘り下げてみましょう。

子どもを溺愛する問題点とは?

読者アンケートの中には、「子どもを大切にする気持ちの何が悪いの?」というご意見もありました。いったい何が「悪い」のでしょうか?

まず、親から子どもへの溺愛は、特に異性間で起きやすいです。なぜなら、異性間では疑似的な恋愛関係になるからです。一方で、同性間では自分の配偶者をめぐる疑似的な恋敵の関係になるからです。これを踏まえて、まず母の息子愛、父の娘愛に分けて、その問題点をそれぞれ具体的にみてみましょう。

①母の息子愛の問題点

2023年5月号の208ページには、「『息子を彼氏化してしまうママ』の言い分」が紹介されています。ここから読み取れる母親の本音を3つご紹介します。

・「過剰な心配、詮索は当たり前。だって深く愛しているから」

愛しているから知って当然という口実によって、交友関係をあれこれ聞き出そうとするだけでなく、持ち物チェック、携帯ののぞき見などの詮索を自己正当化しています。さすがに子どもが思春期の場合は、信頼関係を損ねるため、決してお勧めできません。この発想は、典型的なストーカーの心理です。

なお、父親が娘のことを詮索する場合は、「娘のインスタを必死でフォローする」など、ストーカー的であっても、あくまでルールは守ろうとする傾向があります。

・「成長しても今みたいに甘えてくれたら嬉しいなあ」

いつまでも自分を頼りにしてほしい、世話を焼きたいと思う気持ちは、一見、愛情深く見えます。しかし、子どもが思春期になって、お世話する必要がないのに無理やりお世話しようとすることは、自立を阻むため、お勧めできません。これは、典型的な共依存の心理です。

なお、息子と違って娘には、単純に世話を焼くのではなく、同性モデルとして料理などのお世話の仕方を教える傾向があります。

・「下宿や寮生活をさせずに、できるだけ手元に置いておきたい」

子どもが自立のために家を出ようとすると、「私を見捨てる気なの?」などと言って、なるべく実家暮らしをするよう仕向けます。これは、操作性と呼ばれています。また、実際に子どもが巣立った場合、その寂しさから、うつ状態になることを、空の巣症候群と言います。

②父の娘愛の問題点

2024年5月号の194ページには、「夫たちの『娘にメロメロ症候群』にご注意!」が紹介されています。ここから読み取れる妻の悩み、言い換えれば夫(父親)の本音を3つご紹介します。

・「願いをすべて叶えてあげる」

これは、欲しいものを買い与えて手なずけようとする気持ちが見え隠れします。何かとプレゼントをしたがる人の心理にも通じます。プレゼントは感謝の印として本来ポジティブなものであるはずですが、やりすぎる場合は先ほどと同じ操作性という裏の心理にすり替わってしまいます。

母親との違いは、母親は情緒に訴えてくるのに対して、父親は金品というモノで釣ろうとすることです。また、好かれたい気持ちが強いため、息子と違って娘には叱ることはあまりないです。

・「まだお風呂にもいっしょに入っていて、シャンプーやリンスーもしてあげる」

これは、幼児期にそうしていた習慣の延長という軽い気持ちがあるでしょう。しかし、身体的自立を終えた小学生になっても、抱っこなどの密なスキンシップ、裸を見る・見せることは、海外では性的虐待と見なされます。日本でそう認識されにくいのは、日本における性教育が子どもだけでなく大人に対しても遅れているからです。

・「彼を連れてきた娘に、『あんな男やめとけ』と一方的だった」

交友関係への口出しは、娘が大切だという気持ちからであるのは分かるのですが、「自分のものが取られる」という意識が強いようです。しかし、娘は、「もの」ではなく、自己決定する同じ人間です。親は意見を言ったり提案することはできますが、思春期、ましてや大人になっても、このような威圧的な態度を取るのは、モラルハラスメントに当たります。

なお、母親の場合、父親ほどストレートではありません。息子の女友達が家に来ても表向きは愛想良く振る舞います。しかし、あとから難癖を付けたり、「帰りが遅かった」などと些細なことでその彼女の親や担任の先生に苦情を入れるなどして陰湿な傾向があります。

ちなみに、このような母親と父親の子どもへのかかわり方の違いは、男女の脳機能の違いから説明することができます。詳しくは、以下の記事をご覧ください。


>>【男女の脳機能の違い】

③共通する本質的な問題

以上をまとめると、母親と父親に共通して、子どもを溺愛する本質的な問題は、成長しても子ども扱いすることで自立を阻むリスクがあることであることです。つまり、親の愛情が独善的で一方的な場合、いくら表向きに「子どものため」と言っても、その本音は「自分のため」であり、結果的に「子どものため」になっていないことになります。この状況に親自身が気づいていないこともあります。逆説的にも、大切にしすぎることは結果的に大切にしていないことになるわけです。そして、子どもが思春期になった時、これが見透かされてしまうのです。

なお、実際の教育心理学の研究でも、自立を促す親の子育ての姿勢がその後の子ども(大学生)の心理的自立(自我の確立)を促すという結果が出ています(*1)。当然と言えば、当然です。逆に言えば、そうしない最悪のシナリオが、自我の拡散、つまり不登校ひきこもりであると言えるでしょう。これらの詳細については、以下の記事をご覧ください。


>>【不登校】


>>【ひきこもり】


>>★【その2】そもそもなんで溺愛は気持ち悪いの?どうすればいいの?-家族療法

参考文献

*1 「大学生の心理的自立と親の養育態度の関係」P5:高富莉那・桂田恵美子、臨床教育心理学研究、2011