連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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・いじめ
・「無気力・不安」
・PTSD(心的外傷後ストレス障害)
・ストレス反応(適応障害)
・反抗期(思春期)
・同調
・自我同一性(アイデンティティ)
・自立(自我同一性の確立)
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2024年の現在、不登校の子どもは過去最多の約30万人となりました。これは、中学校なら30数人のクラスに1人から2人はいる計算になります。彼らはなぜ学校に行けないのでしょうか? 逆になんで学校に行くのでしょうか?
今回は、不登校をテーマに、アニメ映画「かがみの孤城」を取り上げます。この映画を通して、発達心理学の視点から不登校の根っこの心理を掘り下げます。そして、文化心理学の視点から特に日本で不登校が増えている一番の原因を解き明かしてみましょう。
主人公は中学1年生のこころ。彼女は、入学してまもなくある女子グループからいじめを受けます。その子たちは、こころと仲良くなりそうな友達をこころから遠ざけたり、男子に「おれおまえみたいなブス、大嫌いだから」とこころに伝えるよう仕向けたり、こころがこもっている家の庭先まで入り込んでこころを大声で呼んだりするなど、とても悪質でした。
そして、こころはその後に学校に行けなくなってしまいます。代わりにフリースクール(適応指導教室)に行こうにも、朝になると腹痛(ストレス反応)が起こります。母親から「行くの?行かないの?」と急かされるなか、「行かないんじゃない。行けないのに」と心の中で叫びます。その心情は、子どもの目線でリアルに描かれていました。
両親とも仕事をしているため、こころは仕方なくひとり家で過ごします。そんなある日、自分の部屋に置いてある鏡に吸い込まれてしまい、その先の絶海の孤城に運ばれてしまいます。そこで、同じように運ばれた中学生6人に出会うのです。彼らが不登校になった原因は、いじり(からかい)や陰口レベルの友人関係(いじめレベルではない)であったり、複雑な家庭環境であったり、「天然」という本人の個性(発達特性)であるなど、さまざまで複合的でした。
文科省の不登校の最新の調査によると(*1)、その原因として「無気力・不安」(52%)、「生活リズムの乱れ、あそび、非行」(11%)、「友人関係(いじめを除く)」(9%)、「親子関係」(7%)などがあげられています。厳密には、半数を占める「無気力・不安」は、こころの体調不良と同じように表面的な原因にすぎず、その根本的な原因は不明のままです。そして、「いじめ」(0.3%)は意外にも上位ではありません。もちろん、学校側の調査が行き届いていなかったり、本人が恥ずかしさから言い出せなかった可能性があることから、「無気力・不安」の中に「いじめ」が潜在的に含まれているのではないかという指摘もあります。確かに、あとでいじめを打ち明けたこころの場合はそうなります。
しかし、よくよく考えると、こころの不登校の原因が単純にいじめであるならば、そのいじめ女子グループがいないフリースクールには通えるはずです。フリースクールにも行けないということは、転校したとしても、その学校にも行けないことが予測できます。
それでは、いじめによるPTSD(心的外傷後ストレス障害)になったことで、同年代の子たちが集まる場所全般に行けなくなる症状(回避症状)が出てきたと考えることはできるしょうか? そう考えるには、無理があります。こころの視点では「殺されそうな体験」として描かれてはいるのですが、客観的には庭先で大声で呼ばれただけです。実際に暴行されたりけがさせられるなどの死の恐怖を感じるレベル(トラウマ)とまでは言えず、やはりストレス反応(適応障害)のレベルです。また、特にフラッシュバックや悪夢などの特徴的な症状も出ていません。
ちなみに、他の6人もPTSDを発症するほどのトラウマ体験はありません。なお、6人のうちのアキは義父から性被害を受けそうになりました。この体験はトラウマレベルではありますが、それは不登校になったあとのエピソードでした。
つまり、いじめがあったとしても、それは不登校のきっかけ(誘因)にすぎず、彼らが不登校になる根本的な原因が別にあったことが考えられます。それはいったい何でしょうか?
逆に、子どもが学校に行く理由から、その謎を解き明かしてみましょう。