連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【1ページ目】2023年5月号 NHK「おかあさんといっしょ」【前編】歌うと話しやすくなるの?【発声学習】

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・感覚性言語(側頭葉のウェルニケ野)
・運動性言語(前頭葉のブローカー野)
・ミラーリング
・前適応
・失語症
・「言語遺伝子」(FOXP2遺伝子)
・発達性言語障害
・声認識(声紋)
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NHKの「おかあさんといっしょ」は、誰もが知っている幼児向けの音楽番組ですよね。子どもは、テレビの前で、出演しているお友達たちといっしょに歌って踊りながら楽しく言葉を覚えています。どうやら歌と言葉は密接に結びついているようです。

今回は、このテレビ番組をヒントに、発語(発声学習)のメカニズムを解き明かし、その起源に迫ります。

どうやって言葉が出てくるの?

最初に出てくる言葉(初語)は、1歳前後で、だいたい「まんま」「ぱっぱ」などです。「まんま」のように「ご飯食べたい」や「ママ来て」という様々な意味を持つ初語は、文としても成り立つため、一語文とも呼ばれます。そして、2歳で「でんしゃ、きた」「パパ、かいしゃ」などの二語文になっていきます。そして、4歳までには日常的な話し言葉(三語文)になっていきます。

それでは、どうやって言葉が出てくるのでしょうか? ここから、発語(発声学習)のメカニズムを2つに分けて考えてみましょう。

①発音を聞き分ける

1つ目のメカニズムは、母音と子音のそれぞれの発音(音素)を聞き分けることです。このプロセスは、ちょうど1歳の初語が出てくるまで行われます。逆に、1歳以降は新しい発音の自然な学習が難しくなります。例えば、日本語にない英語のLとRの発音は、その学習を1歳以降にしても、自然な聞き分けが難しくなります(*1)。逆に言えば、1歳になるまでの赤ちゃんは、英語のLとRを潜在的に聞き分ける能力を持っていると言えます。

つまり、音素を聞き分ける能力の臨界期は1歳までということになります。臨界期があるのは、1歳以降は、1つ1つの音素を聞き分けるのではなく、すでに学習した音素の連続したかたまり(言葉)を聞き取ることに脳がエネルギーを注ぐ必要があるからであると考えられます。

脳科学的に言えば、これらは感覚性言語(側頭葉のウェルニケ野)の発達です。

②発音をまねる

2つ目のメカニズムは、発音(音素)をまねることです。その前段階が喃語です。そして、1歳前後になると発音しやすい音素から試すようになります。それが「ま」や「ぱ」なのです。初語が「ママ」であるのは、ママがママと呼ばせようとしたからというよりも、赤ちゃんが発音しやすいからでしょう。実際に、ほとんど言語の幼児語としての親の呼び名は「ママ」「パパ」のように呼びやすいものです。日本語の古語でも、母(はは)は「ぱぱ」「ふぁふぁ」、父(ちち)は「てて」「てぃてぃ」です(*2)。呼びやすさの観点から、昔の日本人はママを「ぱぱ」と呼んでいたのは納得できます。

また、「ママ」のように音素を2回繰り返すのは、その方が赤ちゃんにとってインパクトがあり、また「て・に・を・は」などの機能語と区別できて、学習しやすいからであると考えられます。だからこそ、「手」「目」ではなく「おてて」「おめめ」なのです。よって、幼児期は「ないないするよ」「バイバイね」などの幼児語を周りが好んで使う方が、言葉の学習は進むでしょう。さらには、赤ちゃんが言った言葉を親などが繰り返すこと(ミラーリング)で、赤ちゃんの発音にフィードバックが働きます。こうして、言葉の発音を学んでいくのです。まさに、「学ぶ」の語源の「まねぶ」に通じます。

なお、ミラーリングの詳細については、以下の記事をご覧ください。


>>ミラーリング

1歳以降は、音素の連続したかたまり(言葉)を聞き取るだけでなく、それを発することに脳がエネルギーを注ぐようになります。脳科学的に言えば、これは運動性言語(前頭葉のブローカー野)の発達です。こうして、音素を次々と切り替え素早く並べて、言葉にすることができるようになっていくのです。

歌と言葉の関係は?

「おかあさんといっしょ」では、「みんな~おっどろ~!」とリズムで呼びかけたり、歌のリズムに合わせてしりとりや言葉遊びをしています。このように、特に発声学習の観点では、歌と言葉は切っても切り離せないようです。それは、なぜでしょうか?

この答えは、進化の歴史から、発語は、歌の発声が進化の土台(前適応)になっていると考えられているからです(*3)。前適応とは、ある機能が進化の過程で別の機能に転用されている場合、もとの機能を指す用語です。例えば、揚力を生み出す鳥の羽の前適応は、もともと羽毛による保温であったと考えられています(*3)。また、コイが他の魚と違って高い音を聞き取ることができるのは、浮くための浮き袋が内耳とつながるよう進化したからでした。つまり、コイの聴覚の前適応は浮袋による浮上だったと考えられています。同じように、歌うこと(発声)がまず先にあって、その後に話すこと(発語)が生まれたと考えられます。

実際に、脳血管障害による失語症では、話せなくなったけど歌えるという場合があります。これは、言語の領域が左脳で優位であるのに対して、歌唱の領域は右脳を含め広範囲だからです。つまり、脳の機能としても、話すこと(発語)は、歌うこと(発声)をベースとしていることが分かります。このことからも、失語症へのリハビリとして、歌うことが注目されています(*4)。

また、このことから、外国語を話せるようになるためには、まずその外国語の歌を歌うと学習の効果が上がりそうです。

なお、歌の起源の詳細については、以下の記事をご覧ください。


>>歌の起源