連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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発語(発声学習)のメカニズムは、発音(音素)を聞き分ける、発音(音素)をまねることであることが分かりました。そして、進化の歴史上、発語は歌うことのあとに生まれたことが分かりました。それでは、いつ言葉は生まれたのでしょうか?
その答えは、約20万年前(厳密には20万年前から約15万年前までの間)と考えられています。この根拠は、主に3つあります(*5)。
①現生人類が誕生した時期
1つ目は、現生人類(ホモ・サピエンス)が誕生した時期です。遺跡の発掘調査から、現代人と解剖学的にほぼ同じ骨格のサピエンスの化石で最も古い年代は約20万年前であることが定説となっています。
なお、モロッコで出土した初期サピエンスの化石の年代が約30万年前であることが2017年に判明しましたが、頭蓋骨の形状が現生サピエンスとはやや異なっていた点で、言葉を持たなかったと推測されています。
②現生人類がアフリカ内で拡散し始めた時期
2つ目は、現生人類(ホモ・サピエンス)がアフリカ内で拡散し始めた時期です。古代ゲノム学の研究から、サピエンスが誕生地の東アフリカからアフリカの各地に拡散したなかで最も古い時期が、サピエンスの誕生と同じ時期の20万年前であることが分かっています。また、アフリカ内での人種分岐は14万年前~13万年前であることが分かっています。言葉の出現が、高度な道具の発明を可能にして拡散を促進した可能性が示唆されます。
逆に、拡散が始まった時点で、まだ言葉(言語併合)が生まれていなかったとしたら、そのまま言葉を持たない文化の部族や人種が存在してもいいことになります。しかし、そのような部族は現存していません。もちろん、そんな部族はすでに絶滅した可能性も考えられます。
③現生人類に「言語遺伝子」があること
3つ目は、現生人類(ホモ・サピエンス)に「言語遺伝子」(FOXP2遺伝子)があることです。実際の臨床では、この遺伝子の変異によって発達性言語障害を引き起こすことが分かっています。これは、全般的な知的能力に問題はないのに、言語能力に限って著しい困難があることです。
なお、古代ゲノム学の研究によって、約4万年前までサピエンスと共存していたネアンデルタール人とデニソワ人(この2つの人類亜種の共通の祖先は約80万年前にサピエンスと分岐)も、このFOXP2遺伝子を持っていることが判明し、言葉を話していた可能性が考えられていました。しかし、転写因子の結合に影響を与える置換が違うことが指摘されたことで、この遺伝子の発現の調節がうまく行かず、やはり言葉を話せなかったと推定されるに至っています。彼らは、言葉が生まれなかったことで、高度な道具を発明することができず、約7.5万年前に主たる出アフリカによって急激に増えたサピエンスとの生存競争に負けた(多少の異種交配はありつつも)と考えられています。
ちなみに、「言語遺伝子」(FOXP2)の突然変異は、約6千万年前からの哺乳類の進化の過程で3回、そのうち2回は人類が誕生してからであることが分かっています(*6)。