連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【3ページ目】2023年5月号 NHK「おかあさんといっしょ」【前編】歌うと話しやすくなるの?【発声学習】

どうやって言葉は生まれたの?

言葉が生まれた時期が、約20万年前(~約15万年前)であることが分かりました。それでは、どうやって言葉は生まれたのでしょうか? ここから、発語(発声学習)が生まれた要因を主に2つに分けて迫ってみましょう。

なお、厳密に言えば、言葉は、発語、象徴、統語の主に3つの機能があります。今回は、発語にフォーカスしています。

①うまい歌声を出す

人類が歌うようになってから、歌の良し悪しによって結婚相手に選ばれるかが決まったでしょう。つまり、より良い歌声を持つ人が選ばれ子孫を残すという淘汰圧がかかりました。こうして、喉・口・舌などの声道(発声器官)の構造が進化しました。さらに、この進化に連動して、それらを司る脳内の運動性言語(前頭葉のブローカー野)が進化しました。

1つ目の発語が生まれた要因は、うまい歌声を出すことです。これが、結果的に、小鳥のさえずりのように、多様な音素の発声をもたらしたのです。まず、舌や唇の位置取りによって子音が生まれたでしょう。さらに、声道内の2つの違う音(周波数)の共鳴ができるようになって母音(共鳴音)が生まれたでしょう。これらの子音と母音の組み合わせが、発語の起源なのです。

また、人類は、共鳴音をより安定させるため、つまりより美しい歌声を出すために、進化の過程で声帯にある声帯膜と声帯嚢を消失させたと考えられています(*7)。これらは、チンパンジーなどの類人猿には存在する器官です。これらが存在することで、声帯の振動が不規則になり、彼らは逆にガラガラ声やかすれ声などのより「汚い」唸り声を大音量で出して、天敵や恋敵を威圧することができます。つまり、類人猿は安定しないけれど大音量の音源(声帯)で声を出すのに対して、人類は大音量ではないけれど安定した音源(声帯)で声を出すように進化したのでした。そもそも、人類は集団で天敵に対抗するようになったため、個人で大声や唸り声を出す必要がなくなっていたのでした。

なお、発声学習が人間よりも進化している動物は、オウムやインコなどです。これらの喉には、鳴管という発声器官があり、人間の言葉(音素)をまねて自由自在に「オウム返し」をすることができます。この声まねは、天敵から身を守る擬態の一種と考えられています。

②うまい歌声を聞き分ける

歌う人類が増えるということは、当然ながらその歌を聞き取れる人類も増えます。ということは、歌の良し悪しが分かる人がより良い歌声を持つ人を結婚相手に選ぶでしょう。つまり、「良い声」を聞き分ける「良い耳」を持つ人が子孫を残すという淘汰圧がかかりました(共進化)。共進化とは、1つの機能(生物学的要因)が別の機能に影響を及ぼして共に進化していくことです。こうして、耳(聴覚器官)の構造が進化しました。この進化に連動して、それらを司る脳内の感覚性言語(側頭葉のウェルニケ野)が進化しました。

2つ目の発語が生まれた要因は、うまい歌声を聞き分けることです。これが、結果的に、多様な発音(音素)の識別をもたらしたのです。さらには、声の主を聞き分けることも進化したでしょう。これは、単に声の高さ(音高)によって男性か女性か子どもかを聞き分けるだけでなく、母音の発音(共鳴音の音素)によって特定の誰かを聞き分けることです。なぜなら、集団生活をするなか、夜中や洞窟の中などの暗闇で頼りになったのは、顔や姿ではなく、単なる唸り声(音高)でもなく、かけ声(共鳴音の音素)だったと考えられるからです。これが、声認識(声紋)の起源です。

例えば、歌詞のないハミングよりも歌詞のある歌の方が、声当ての正答率は明らかに高いでしょう。

後編では、発声学習のメカニズムと起源を踏まえて、音感について掘り下げます。そして、より良い音楽教育、そしてより良い幼児教育を考えます。


>>【後編】絶対音感よりも○○!?才能よりも○○!?【幼児教育】

参考文献

*1「言語の獲得・進化・変化」P86、P198:遊佐典昭(編)、開拓社、2018
*2「昔の人は「はは(母)」をどう発音したか?」:2015年
*3「こころと言葉」P30:長谷川寿一、東京大学出版会、2008
*4「歌うことは脳卒中後の失語症からの回復に役立つ可能性」:ケアネットHealthDay news、2023
*5「言語の獲得・進化・変化」P188、P189、P199:遊佐典昭、開拓社、2018
*6「つながり」の進化生物学P95:岡ノ谷一夫、朝日出版社、2013
*7「特集 鳴く動物 話すヒト」P34:日経サイエンス2023年1月号、日経サイエンス社