連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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・音の高さ(音高)
・音の共鳴(音素)
・言語能力
・連合学習(条件づけ)
・臨界期
・相対音感
・フラッシュカード(瞬間記憶)
・音楽教育
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特に幼い子どものいるみなさんは、習いごとを「いつから」そして「どれだけ」やらせればいいんだろうとお悩みじゃないですか? NHKの「おかあさんといっしょ」を見せてはいるけど、それだけじゃ足りないんじゃないか? 自分が怠けたせいであとあと隠れた才能を開花させられなかったと悔やむんじゃないか? 例えばそれが絶対音感だったり?
前編では、「おかあさんといっしょ」をヒントに発語(発声学習)のメカニズムをご説明し、その起源に迫りました。今回の後編では、前編を踏まえて、絶対音感という「才能」を例に上げて、より良い音楽教育、そしてより良い幼児教育をいっしょに考えてみましょう。
「おかあさんといっしょ」の番組内では、音楽とともに歌ったり踊ったりして、幼児の音感が養われます。音感とは、まさに音に対する感覚で、音の高低、音色、メロディなどを聞きわける全般的な音楽の能力です。その中で、特に絶対音感と聞くと、とても神秘的です。ある1つの音を聞くだけで(他の音との比較なしで)、瞬時にその音の高さ(音高)が分かり、ドレミの12音のどれかを言い当てることができるわけですから。聞いた曲をすぐに楽譜に書き起こせて便利そうです。この能力のある人は、一般人口の0.01%程度と言われています(*8)。
絶対音感と聞くと、音楽的才能を連想します。しかし、実はこの正体は言語能力であることが分かっています。その根拠を3つ上げてみましょう。
①トレーニング方法
1つ目は、絶対音感を身に付けるトレーニング方法です。自然に身に付くことは極めて稀で、特定の和音のパターンを使い、聞こえた音の高さをすぐにドレミの音高名に結びつけることを延々と繰り返します。そうするとやがて、特定の音高を聞くと、もはや抑えようとしても抑えられないくらい自動的に音高名が頭の中に出てくるようになります。つまり、これは、特定の音高と特定の音高名(音素/言語)を結びつける連合学習(条件づけ)であることが分かります(*8)。
この点で、絶対音感は「音感」と表記されていますが、単に音高に限定された感覚であるため、厳密には「絶対音高感」という表記がより適切であると言われています。
②脳の活動部位
2つ目は、絶対音感を司る脳の活動部位です。メロディなどの音楽全般を司る部位が右半球優位であるのに対して、絶対音感を司るのは左半球優位であることが分かっています(*8)。これは、言語能力と同じです。
③臨界期
3つ目は、絶対音感が身に付けられる臨界期です。その年齢は概ね6歳です。この年齢をすぎてトレーニングをしてもほぼ身に付かないことが分かっています(*8)。この年齢は、母語や第2言語の自然学習の臨界期に一致します。つまり、前編で子音や母音である音素(2種類の周波数/共鳴音)の識別能力の臨界期が1歳であるとご説明しましたが、この音高(1種類の周波数/単音)の識別能力の臨界期は6歳であると言えます。
なお、6歳という言語能力に臨界期があるのは、6歳以降は単なる具体的な言葉を覚えるのではなく(それまでの語彙の記憶を固定化させて)、次のステップとしてそれらの言葉を駆使して、より抽象的な思考をすることに脳がエネルギーを注ぐ必要があるからと考えられます。同じように、絶対音感に臨界期があるのは、6歳以降は単なる音高の識別ではなく(それまでの音高識別の能力を固定化させて)、次のステップとしてそれらの音高の組み合わせ(メロディ)をつくり、より創造的な音感を発揮することに脳がエネルギーを注ぐ必要があるからでしょう。