連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【1ページ目】2022年12月号 映画「ラン」【後編】子どもを病気にさせたがるのが人ごとではないわけは?【育児中毒】

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・代理ミュンヒハウゼン症候群
・ひきこもり
・孫育ての心理(祖母効果)
・空の巣症候群
・共依存
・毒親
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前回の記事では、代理ミュンヒハウゼン症候群になる心理として、同情欲求、承認欲求、そして育児欲求をあげました。育児欲求とは、子どもにお世話などをいろいろやってあげたいという欲求です。そして、これが過剰になり、やってあげる必要がないのに無理にやってあげようとする状態育児中毒と名付けました。

確かに、何かをやってあげるために嘘をついてまで子どもを病気にさせたがるのは異常です。しかし、嘘をつくほどでなければ、そして病気に限らなければ、この育児中毒は、同情中毒や承認中毒と同じく、それほど珍しいことではなく、実は私たちにとっても人ごとではありません。

今回の記事では、育児中毒をテーマに、引き続き映画「RUN/ラン」を取り上げ、その特徴と社会的な対策を考えます。

育児中毒の特徴とは?

まず、育児時期を3つ分けて、それぞれの時期に起こりがちな育児中毒の特徴をあげてみましょう。

①乳幼児期に発達に問題がある子にさせたがる

母親のダイアンは、障害の悪化を理由に、娘のクロエを幼少期に何度も病院に担ぎ込んでいました。

1つ目、乳幼児期の育児中毒の特徴は、このような健康上の問題がなくても、発達に問題がある子にさせたがることです。例えば、「言葉の遅れ」「落ち着きがない」「子どものHSP(過敏)」についてあれこれ心配し、医療機関を渡り歩いたり、様々な子育ての講演会や相談会に参加し続けることです。小学校に入学する前に行われる就学前相談では、特に保育園や幼稚園で具体的な問題がないのに、心配だからとの理由だけで、小学校の通級指導教室を希望することです。

そうすることで、育児という「仕事」を増やすことができます。本来、育児は負担が少なければ少ないほどいいはずなのにです。

さらに、「大変ですね」という同情(共感)や、「よくがんばってきましたね」という承認(受容)を毎回得ることができます。もはや自分から心配の種をつくり出し、悩んでいることに悩んでいる状態で、むしろ悩みたがっているように見えます。逆に言えば、悩みが解決してしまったら、相談することがなくなり、同情や承認が得られなくなります。そして何より、「仕事」が減ってしまいます。

②児童思春期に能力に問題がある子にさせたがる

ダイアンは、障害を理由にクロエを学校に行かせずに、ホームスクーリングと言う形で自ら教えていました。

2つ目、児童思春期の育児中毒の特徴は、このような障壁の問題がなくても、能力に問題がある子にさせたがることです。例えば、学習塾や習いごとに通わせて、期待通りではないことを理由に「勉強ができない」「不器用だ」「オンチだ」「体力がない」などとダメ出しをし続けることです。

そうすることで、育児という「仕事」を通して自分のやり残したことをやり直している気分になることができます。本来、学習塾や習いごとは、学校とは違って義務教育ではない点で、親ではなく本人のやる気や主体性が重要であるはずなのにです。

もちろん、結果的に「良い進学校(または大学)に入れてすごいですね」「お子さん、コンテストですごい賞をとりましたね」という承認も得られることがあるため、自分が直接努力しないでその手柄を自分のもののようにできます。「トロフィーワイフ」ならぬ、「トロフィーキッズ」です。ただし、そうなっても、子どものがんばりを認めることはあまりありません。なぜなら、そうすると「能力に問題がある子」ではなくなってしまい、「仕事」が減ってしまうからです。

一方で、成果が得られなければ、「こんなにやってあげてるのに(なんで期待に応えられないの?)」と文句を言い続けることで、子どもに罪悪感を植えつけ、ますます言いなりにさせることができます。これは、支配の心理(モラルハラスメント)です。この詳細については、以下の記事をご覧ください。


>>支配の心理(モラルハラスメント)

③成人期以降に生き方に問題がある子にさせたがる

ダイアンは、大学合格通知を隠すことで、クロエの行き場をなくしていました。

3つ目、成人期以降の育児中毒の特徴は、このような状況的な問題がなくても、大人になって生き方に問題がある子にさせたがることです。例えば、子どもに家を出て行かれないように、本人の生活全般のお世話をし続けて、一人暮らしをするための生活能力が身に付かないようにすることです。そして、生活能力のなさのダメ出しをして、一人暮らしに反対します。切り札として「私を見捨てるの?」という決めゼリフを使うこともあります。

子どもがひきこもりになった場合は、早く働きなさいと言っておきながら、不自由がないようにお小遣いを与え続けることです。部屋から出てこない場合は、かいがいしく食事を部屋のドアの前まで運びます。なお、引きこもりの心理の詳細は、以下の記事をご覧ください。


>>ひきこもりの心理

一方で、子ども(特に娘)に早く結婚して早く孫を生むよう促します。なぜなら、孫ができれば孫育てができるからです。また、子ども(特に娘)が離婚して子連れで出戻りの場合は、自分が孫を囲うために、再婚に反対します。なお、孫育ての心理(祖母効果)は、進化心理学的にも説明されています。なお、この詳細については、以下の記事をご覧ください。


>>孫育ての心理(祖母効果)

逆に結婚しても子ども(孫)ができない場合は、子づくりをしつこく催促することです。それでもできない場合は、 本人や夫婦関係へのダメ出しをして、離婚を促します。特に娘の場合は、あえて婚姻関係なしで子どもをつくる(選択的シングルマザーになる)ことまでほのめかします。なお、選択的シングルマザーの詳細については、以下の記事をご覧ください。


>>選択的シングルマザー

そうすることで、育児という「仕事」がなくなるのを防ぐことができます。本来、育児には終わりがあるはずなのにです。逆に、そうしなければ、育児という生きがい(アイデンティティ)がなくなり、自分が何者でもなくなってしまうからです(アイデンティティ拡散)。これは、空の巣症候群と呼ばれています。ひな(子ども)が巣立ったあとの巣のように心が空っぽになる状態です。

ちなみに、育児という「仕事」は、以前のミュンヒハウゼン症候群の記事でご紹介したシックロール(病気役割)と対にして、「ケアロール」(お世話役割)と名付けることができます。