連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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育児中毒の特徴とは、乳幼児期に発達に問題がある子にさせたがる、児童思春期に能力に問題がある子にさせたがる、成人期以降に生き方に問題がある子にさせたがることであることが分かりました。
育児中毒は、必要とされることを必要とする、依存されることに依存する点で、親子関係における共依存とも言い換えられます。共依存の異常性は、夫婦関係においては比較的に気づかれやすいです。一方で、親子関係においてはよくあることとされて見逃されています。なお、男女関係の共依存の詳細については、以下の記事をご覧ください。
また、育児中毒の親を、子どもの視点から言い換えたものがいわゆる毒親です。毒親の詳細については、以下の記事をご覧ください。
ちなみに、育児中毒が「ちゃんとやってあげたい(そばにいたい)」という「母性」の暴走だとすれば、「ちゃんとやりなさい」という「父性」の暴走が正義中毒と言えるでしょう。実際に、正義中毒は逆に男性に多いようです。見守り(育児)を発揮するか、見張り(正義)を発揮するかという点で対照的です。しかし、お世話や正しさにとらわれ、見守りや見張りという手段が目的化してしまい、相手(社会)に悪影響を与えている点では共通しています。なお、正義中毒の詳細については、以下の記事をご覧ください。
それでは、育児中毒にどうすればいいでしょうか? 再びダイアンを通して、その社会的な対策を大きく3つあげてみましょう。
①ケアする人を一人にしない
ダイアンは一人親であったため、育児のやり方を全て自分一人で決めることができました。もしもダイアンに夫がいていっしょに育児をしていたら、彼女はここまでおかしくならなかったかもしれません。
1つ目の社会的な対策は、ケアする人を一人にしないよう啓発することです。一人になってしまうと、やり方がどんどん独りよがりになっていきます。これは、虐待のリスクでもあります。
この点で、たとえ夫(または妻)がいたとしても、その人が育児をいっしょにやろうとしなかったり、その人に「私の子育てに口出ししないで」と言って育児をいっしょにさせないようにすることも危ういと言えるでしょう。
②ケアすることを1つにしない
ダイアンは、働きに出ることもなく、家でほとんどクロエにつきっきりでした。もしもダイアンが働きに出ていたりボランティア活動をしたりペットを飼っていたら、彼女はここまでおかしくならなかったかもしれません。
2つ目の社会的な対策は、ケアすることを一つにしないよう啓発することです。一つにしてしまうと、その一つにエネルギーを注げますが、その一つがなくなった時(またはなくなりそうな時)、そのエネルギーの行き場がなくなります。
この点で、親の介護が親の死によって終わりを迎えた時や仕事人間が定年退職した場合も危ういと言えるでしょう。
③自分のためにケアしない
ダイアンは、クロエのためではなく、自分のために育児をしていました。もしもダイアンがクロエのためにどうしたらいいかという視点に最初から立てていたら、彼女はここまでおかしくならなかったかもしれません。
3つ目の社会的な対策は、自分のためにケアしないよう啓発することです。自分が満足するためにケアしてあげていると、それが必ずしも相手のためにならなくなります。
この点で、先ほどにも触れたひきこもりや子連れ出戻りの場合も危ういと言えるでしょう。
ダイアンは、瀕死のクロエを病院から無理やり連れ出そうとするなか、クロエはもともと歩けなかったのに、車椅子から踏ん張って立ち上がろうとします。親がいなくても生きていこうとすることを示す象徴的なシーンであり、まさにタイトルの「RUN/ラン」する(逃げ出す)瞬間です。
ラストシーンでは、ダイアンは「あること」(ネタバレ防止のため伏せます)によって放心状態になっています。これは、その「あること」以外に、クロエが自分から離れて行ってしまい、空の巣症候群になってしまっているのを象徴しているようにも見えます。
つまり、アルコール依存症の人が身近にアルコールがないようにすることで回復するのと同じように、この育児中毒は子どもが親から自立して身近にいなくなることで「解毒」されていくと言えるのではないでしょうか?
●参考文献
・特集「うそと脳」P1576:臨床精神医学、アークメディア、2009年11月号
・うその心理学P77:こころの科学、日本評論社、2011
・親の手で病気にされる子どもたちP156:南部さおり、学芸みらい社、2021
・シックンド 病気にされ続けたジュリー:ジュリー・グレゴリー、竹書房文庫、2004