連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【3ページ目】2018年4月号 アニメ「アンパンマン」-その顔はおっぱい?

③様々な心を教えてくれる―想像力のツール
アンパンマンワールドには、アンパンマン、ジャムおじさん、ばいきんまん、ドキンちゃんなどのメインキャラクターだけでなく、2000を超えるユニークなサブキャラクターたちがいます。その数は、「最も多いキャラクターが登場した単独のアニメーション・シリーズ」としてギネスブックに認定されるほどです。また、ばいきんまんだけでなく、かびるんるん、骸骨親子のホラーマンとホラ・ホラコなど、目に見えないものまでキャラクターにしています。

さらに、ジャムおじさんとバタコさんは唯一の人間かと思いきや、人間の姿をした妖精という設定で、なるべく人間のリアリティを排除したファンタジーに仕上がっています。さらに、ばいきんまんが好きなドキンちゃんはしょくぱんまんが好きであるという三角関係や、みんなの前で威張っているばいきんまんがミミ先生(教師)の前ではかしこまるなどの上下関係が描かれるなど、いろいろなキャラクター同士の関係性も描かれています。

3つ目は、様々なキャラクター(心)を教えてくれることです。それぞれのキャラクターの際立ったビジュアルから、性格や役割の違いを理解して、そのキャラクターらしさ(その人らしさ)を受け止めやすくなります。

発達心理学的に見ると、乳児は、親の共感的なミラーリングによって、共感するミラーニューロンも発達させていきます。そして、自分の気持ちの変化を認識できるようになります。その後、幼児になって、徐々に家族や他の様々なお友達の気持ちの変化も察して、心を通わせようとするようになります(共感性)。この時、身の周りには、人だけでなく、自然物から人工物まで様々な物があることにも気付くようになります。その過程で、自分を初めとする人に心があるように、万物にも心があると認識します(自己中心性)。これが土台となり、成長するにつれて、相手の気持ちを推し量ったり(心の理論)、思いやりを持つようになっていきます(愛他行動)。

進化心理学的に見ると、現生人類が約10~20万年前に喉の構造を進化させてから、複雑な発声ができるようになり、言葉を話すようになりました。そして、言葉によって抽象的に考えることができるようになり、相手の視点に立つ心理は、人間だけでなく、自然や動物などあらゆるものに向けられ、それらとも協力関係を築こうとしました(アニミズム文化)。

ちなみに、比較動物学的には、サルなどの類人猿も、共感します。ただし、サルと人間の違いは、サルの共感は痛み、恐れ、怒りなどの不快な感情に限定されていることです。その理由は、サルの共感は、他のサルの不快さを素早く感じ取って自分の身に降りかかるかもしれない危険を事前に避けることができれば良いだけで、喜びや安らぎなどの快の感情まで共感する必要がないからです。

子育て心理に応用すると、相手の心、さらには人だけでなく身の回りの物の心も考えさせることです。例えば、子どもがいっしょにいる同じ幼児を押しのけた時、「押すのはだめ」とただ厳しく叱るよりも、「お友達は痛いって言ってるよ」と情緒的に伝えることです。また、食事の時にスプーンでお皿を叩いている時、「叩くと壊れるからだめ」と理屈で叱るよりも、「スプーンでお皿を叩くの、ママは嫌だよ」「スプーンとお皿が痛いって言ってない?」とやはり情緒的に伝える方が受け入れやすいでしょう。アンパンマンワールドのキャラクターたちは、様々な人や物の心に思いを馳せるという想像力のツールです。だからこそ子どもに受け入れやすいと言えるでしょう。

★グラフ1 「乳児脳」と進化心理の関係