連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【2ページ目】2017年6月号 ドラマ「昼顔」–不倫はなぜ「ある」の?どうすれば?

なぜ不倫は「ある」の?

これまで、なぜ不倫をしないのかという問いへの答えが分かってきました。それは、単に夫婦の信頼関係を壊すだけでなく、子どもとの信頼関係も壊し、社会との信頼関係も壊すからです。それなのに、そもそもなぜ不倫は「ある」のでしょうか? そもそもなぜヒトの生殖は完全な一夫一妻型ではないのでしょうか?

その答えは、進化心理学的に考えれば、原始の時代、隠れて不倫をする種の方が、真面目に不倫をしない種よりも、遺伝子をより多く残せるからです。自分の不倫をいかに隠して、相手の不倫をいかに暴くかという目的のために、男性と女性はお互いの気持ちを必死に探り、推し量ったでしょう(メタ認知)。その子孫が、現在の私たちです。矛盾しているようにも思えますが、一夫一妻による生殖と同じくらい、実は不倫による生殖も普遍的であるということです。そして、このような生殖行動は、男性同士が協力して狩りをしたり女性同士が仲良くして子育てをする生存行動と同じくらい、ヒトの心(脳)の進化に大きな影響を与えたでしょう。

さらに、自分の遺伝子をなるべく残すための生殖戦略は、男性と女性でそれぞれ違います。その違いとは、男性(精子)はなるべく多くの女性(卵子)を求める一方、女性(卵子)はなるべく優れた男性(精子)を求めることです。なぜなら、精子は小さくコストがかからないのでたくさんつくれるのに対して、卵子は大きくコストがかかるので限られているからです。それでは、この「一夫一妻型+不倫」という生殖戦略の根拠を、男性と女性のそれぞれの体の特徴(形質)や行動特性などから明らかにしてみましょう。

(1)男性の生殖戦略
①長くて太くてキノコ状になったペニスでセックスに時間をかける
1つ目の根拠は、ヒトの男性は長くて太くてキノコ状になったペニスでセックスに時間をかけることです。これは、メスの膣の中にすでに出された別のオスの精子を掻き出すためです。より確実に掻き出すには、掻き出しの形が長く、太く、キノコ状で、掻き出しに時間をかける必要があります。一方、ハーレム型のゴリラや乱婚型のチンパンジーは、ヒトよりもペニスは短く細く棒状で、交尾に時間をかけません。そのわけは、ゴリラの交尾は相手が完全に特定されているので、そもそも掻き出す必要がないからです。逆に、チンパンジーの交尾は相手が不特定多数で1日に何十回もあるため、掻き出す意味がなくなってしまうからです。つまり、ヒトの精子の寿命が数日であることを考え合わせると、掻き出しが効果的であるためには、1日以上数日以内に1回程度の不倫をしていることが推定できます。

もしもヒトが不倫をしないのであれば、ヒトは、ゴリラと同じくらい小さく棒状のペニスを持ち、ゴリラと同じくらいセックスの時間が短いはずです。つまり、ヒトのペニスの形やセックス行動が進化したのは、不倫をしていたためであると考えられます。

②体と睾丸がやや大きい
2つ目の根拠は、ゴリラやチンパンジーと比べてヒトの男性の体は女性よりもやや大きく、睾丸もやや大きいことです。ハーレム型のゴリラは、ヒトよりもオスメスの体格差がかなり大きく、睾丸は小さいです。一方、乱婚型のチンパンジーは、ヒトよりも体格差は小さく、睾丸はかなり大きいです。つまり、ゴリラの生殖戦略は体格の大きさであるのに対して(個体競争)、チンパンジーは精子の多さであるということです(精子競争)。そして、ヒトは、ゴリラとチンパンジーの中間であることから、ヒトの生殖が、ゴリラほど相手を特定しているわけではなく、チンパンジーほど相手を特定していないわけでもないということが分かります。

もしもヒトが不倫をしないのであれば、つまり完全な一夫一妻であるなら、睾丸の大きさはゴリラと同じくらい小さいはずです。逆に、ヒトが不倫をしすぎているなら、つまり乱婚であるなら、睾丸の大きさはチンパンジーと同じくらい大きいはずです。つまり、ヒトの男性の体格や睾丸の大きさがほどほどに進化したのは、不倫をしていたためであると考えられます。

③久々であるほどより激しく求めてより多く射精する
3つ目の根拠は、ヒトの男性は、いつも会うよりも久々に会う女性にほど、よりセックスに時間をかけて、より多く射精することです。そうすることで、自分が不在であった時間に射精された他の男性の精子を、膣からより多く掻き出し、さらに精子の数で上回ります。

また、精子には種類があることが分かっています。多くは、他の男性の精子の侵入を邪魔します(ブロッカー精子)。中には、他の男性の精子を尻尾で絡み合わせて動けなくします(キラー精子)。残りのほんの少しが、卵子に向かって膣から子宮を突き進みます(エッグゲッター)。まさに、膣の中では精子たちが1つの卵子にたどり着くための戦争をしていると言えます(精子競争)。

さらに、射精した後の精子は膣の中で少し固まってとどまります。これは、より受精がされやすくなる役割があるのと同時に、その後に別の男性の精子を入れにくくしようにする蓋の役割もあることが考えられています(交尾栓)。もしもヒトが不倫をしないのであれば、久々だからと言ってより多くの精子を出す必要はないはずですし、キラー精子やブロッカー精子も存在しないはずです。つまり、ヒトの男性の精子の特徴や精子の数の調整ができるように進化したのは、不倫をしていたためであると考えられます。

(2)女性の生殖戦略
①排卵期で男性の好みが変わる
1つ目の根拠は、ヒトの女性は、通常は中性的な男性を好むのに、排卵期ではより男性的な男性を好むことです。より男性的な男性とは、テストステロン(男性ホルモン)が多い男性です。ちょうど利佳子が熱を入れた産業画家のように、見た目としては、鋭い目つきで表情は険しく、ひげ面でがっしりとして、野性味が溢れた風貌をしています。中身としては、好戦的で、合理的思考に秀でて、集中力が高く、勝負師として何かすごいことをやり遂げそうな自信に満ちた風格があります。そして、何より精力絶倫であることです。これは、原始の時代に狩猟能力の高い男性のスペックです。一方、中性的な男性とは、テストステロン(男性ホルモン)が少ない男性です。ちょうど紗和の夫のように、優しい眼差しで表情は穏やかで、清潔でしなやかとして、洗練された容貌をしています。中身としては、協調的で、共感性が高く、子どもの面倒見が良い品格があります。決して精力絶倫ではありません。これは、原始の時代に育児能力の高い男性のスペックです。

つまり、この好みの変化によって、中性的なマイホームパパとの安定した生活を送って生存の確率を高めつつ、より男性的な不倫相手の子どもを生んで、優秀で多様な遺伝子を残して生殖の確率を高めることができます。

もしもヒトが不倫をしないのであれば、排卵期で好みが変わる必要はないはずです。つまり、ヒトの女性の好みが排卵期で変わるように進化したのは、不倫をしていたためであると考えられます。

②30歳代から性欲が高まる
2つ目の根拠は、ヒトの女性は、10歳代から20歳代は性欲が抑えられているのに、30歳代から40歳代にかけて性欲が高まることです。そうすることで、若い時には性欲に惑わされずに、より優秀な夫を慎重に選ぶことができます。そして、子どもを2、3人生んだあとの30歳以降、夫の性欲(テストステロン)が徐々に落ちていくのと反比例して妻の性欲(テストステロン)が高まることで、「活きの良い(テストステロンが多い)」若い不倫相手との子どもを生んで、優秀で多様な遺伝子を残して生殖の確率を高めます。

なお、夫との子どもがすでに2人以上生まれている場合、夫にとって自分の遺伝子が50%×2人=100%以上残せたことになるので、夫は不倫に寛容になるという考え方があります。また、そもそも子どもがいればいるほど、離婚せずに不倫相手の子どもを引き取る傾向があります。なぜなら、離婚して妻と不倫相手の子どもを追い出して、残された子どもを夫だけで育てることは困難だからです。利佳子は、不倫がばれて一度は家を追い出されますが、夫は2人の娘のために、利佳子に戻るように後に懇願します。この状況を女性は見越しているわけではないですが、結果的に妻の生存の確率も生殖の確率も下げにくくなります。ただし、遺伝子の違う不倫相手の子どもへの夫の虐待のリスクはとても高まるという別の問題はあります。

ちなみに、相手の不倫に寛容になる条件として、男性側は子どもが多いことであるのに対して、女性側は年齢が上がることです。裕一朗の妻のように、若さという生殖資源をすでに使ってしまっている状況では、別の男性と今後に再婚するのは難しく、彼女は簡単には裕一朗を手放さないでしょう。

もしもヒトが不倫をしないのであれば、女性が30歳以降で性欲が高まる必要はないはずです。つまり、ヒトの女性の性欲が30歳以降に高まるように進化したのは、不倫をしていたためであると考えられます。

③卵管が長い
3つ目の根拠は、ヒトの女性の卵管が長いことです。卵管とは、精子と卵子が出会う場所です。卵子は、排卵期に卵巣から出されて、奥側の一方の卵管に入ります。一方、精子は、膣から子宮を通ったあと、手前側のもう一方の卵管に入ります。通常は、そのすぐ先(卵管峡部)で通行止めになりますが、排卵期の時だけこの「関所」が開き、精子は、その先の長い卵管を泳ぎ続け、卵子にたどり着きます。この卵管の「関所」によって、排卵期までの数日間で、夫を含む複数の男性とセックスをしても、その精子たちがいっしょに「関所」の前で待つことになり、卵子までのスタートラインを同じにすることができます。そして、長い「コース」を最も速く進んだ精子が卵子を勝ち取ることができます。つまり、より優れた精子(遺伝子)を得るために、女性生殖器では、よりフェアな条件のもと、精子競争を行わせています。まさに、長い卵管は、優れた精子を選りすぐるための「競技場」であると言えます。

もしもヒトが不倫をしないのであれば、卵管が長くなる必要がないという考え方があります(生殖管淘汰)。実際に、メスが複数のオスと交尾する動物では、卵管が長い傾向にあるという報告があります。つまり、ヒトの卵管が長くなるように進化したのは、不倫をしていいたためであるという可能性が考えられます。