連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【1ページ目】2019年4月号 映画「レディ・プレーヤー1」-なぜゲームをやめられないの? どうなるの?【ゲーム依存症】

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・多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲーム
・eスポーツ
・「デジタルドラッグ」
・「ゲーム脳」
・「シンデレラ法」
・「スマホ育児」
・AI(人工知能)
・「ホモ・ルーデンス」(遊ぶ人)
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みなさんは、ゲームをしますか? またはお子さんがゲームをしますか? 今や、ゲームと言えば、多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲーム(MMORPG)です。これは、インターネット上のサーバーを介して、不特定多数の人が同じゲームの中で、数人のチーム(ギルド)をつくり、冒険、狩り、モンスター退治などをするものです。自分のプレイの分身(アバター)によって、他のプレーヤーと文字のやり取りや会話を行うこともできます。さらにこれからは、VR(仮想現実)ゴーグルによる、よりリアルな体験をするゲームが注目されています。

最近では、ゲームをeスポーツと呼び、従来のスポーツ大会の種目の1つに入れようとする動きがあります。また、学校の部活動の1つとして、「eスポーツ部」を認めようとする動きもあります。これは、サークルや同好会ではなく、部活動としてゲーム関連の費用を学校が負担することを意味します。どうやらゲームは、今、世の中でますます広がりを見せています。

ところで、そのゲームをやめられない、やめさせられないと困っている人はいませんか? または、そのようは相談を受けることはありませんか? なぜゲームをやめられないのでしょうか? やめられないとどうなるのでしょうか? そもそも、なぜゲームは「ある」のでしょうか? そして、どうすれば良いのでしょうか? これらの疑問を解き明かすために、今回は、2018年の映画「レディ・プレーヤー1」を取り上げます。この映画を通して、ゲームをする心理を脳科学的に、そしてその起源を進化心理学的に掘り下げ、ゲーム依存症の理解を深めましょう。そして、私たちの未来の生き方について、いっしょに考えていきましょう。

なぜゲームをやめられないの?

ストーリーの舞台は、未来の西暦2045年。多くの人は、食べる、寝る、トイレに行く以外は、VR(仮想現実)ゴーグルを着けて、オアシスというネット上のVR(仮想現実)の世界で過ごしています。まさに「食う、寝る、遊ぶ」です。まずここから、このVRの世界を現在のゲームと照らし合わせながら、その3つの特徴を整理してみましょう。そして、「なぜゲームをやめられないの?」という問いへの答えを導きましょう。

①何でもできる -達成感
主人公のウェイドは、「今、現実は重くて暗い。みんな逃げ場を求めている」「(一方で)オアシスは、想像が現実になる世界。何でもできる」と言っています。現実の世界は、ゴミだらけで荒廃しており、彼はぱっとしない日常を送ります。一方、オアシスは、色鮮やかで華やかで、魅力的なキャラクターたちが次々と登場し、冒険、戦闘、自動車レースなどが毎日、繰り返されています。ウェイドは、パーシヴァルという名のアバターで、やりたいことをして、毎日生き生きとした時間を過ごしています。

1つ目の特徴は、何でもできる、つまり達成感が得られることです。これは、現在のゲームにも通じています。そのからくりは、主に3つあります。1つ目は、時間とお金をかければ必ずうまく行くように作られていることです。お金をかけるとは、課金システムで強い武器などのアイテムを得て、地位を上げることです。2つ目は、繰り返しやればチャンスが増すように作られていることです。例えば、「連続ログインボーナス」は、毎日必ずログインして一定期間が経つと、ボーナスがもらえる仕組みです。また、「1日1回だけのチャンス」は、1日1回だけ特級アイテムを得る「ガチャ」(抽選)のチャンスがもらえる仕組みです。逆に言えば、1日1回しかチャンスがないので、毎日必ずログインしてチャレンジするよう仕向けられていると言えます(機会損失の回避)。3つ目は、次から次へと新しい課題が出され、飽きないように作られていることです。これは、ゲームの設定が常にアップデートされるためです。つまり、従来のゲームのようなクリア(ゴール)という概念がなく、延々とやり続けることが可能になります。

このように、ゲームをやめられなくなるのは、やればやるほど達成感が得られるからです。逆に言えば、現実の世界では、そう簡単に達成感は得られません。そのわけは、ゲームほど何でもできる状況がそもそもあまりないからです。

②仲間がいる -連帯感
オアシスで、パーシヴァル(ウェイド、以下略)は「エイチは、はっきり言って親友だ。現実の世界では会ったことないけど」と言い、エイチと過ごします。やがて、彼は、オアシスの後継者の権利を掛けた宝探しレースをする最中、ランキングで暫定1位になり、オアシスの住人全員から注目を集めて、人気者になります。そして最後に彼は、エイチたちと5人組の仲間となり、オアシスの共同運営者になります。

2つ目の特徴は、仲間がいる、つまり連帯感が得られることです。これは、現在のゲームにも通じています。そのからくりは、主に3つあります。1つ目は、自分の居場所があるように作られていることです。これは、毎回プレイ中にチームのメンバーとコミュニケーションをすることで、仲良くなり、信頼され、つながっている感覚が得られることです(所属欲求)。2つ目は、自分の役割があるように作られていることです。これは、チームで協力することで、お互いに必要とされ、勇気や決断力が認められる感覚が得られることです(承認欲求)。3つ目は、自分の目指すものがあるように作られていることです。これは、チームで敵や宝などの分かりやすいターゲットに向かって突き進んで達成していくことです(自己実現欲求)。これは、ゲームの1つ目の特徴である達成感にもつながります。もはや、チームのメンバーは「戦友」で、ターゲットは「戦果」とも言えます。逆に言えば、自分がやめると、チームのメンバーに遅れをとってしまったり、迷惑をかけることになります。

このように、ゲームをやめられなくなるのは、やればやるほど連帯感が得られるからです。逆に言えば、現実の世界は、そう簡単に連帯感は得られません。そのわけは、ゲームほど仲間でいることの理由が見いだせないことが多いからです。

③気楽である -安全感
パーシヴァルは、現実のウェイドと違って、ビジュアルが良く、おしゃれで、身体能力も高いです。もちろん、見た目だけでなく声を変える設定もできます。彼は、アルテミスという女性とデートをして、イケイケのダンスもします。彼は、彼女に「現実の世界で会いたい」「君に恋してる」と言うと、「私の顔はこんなんじゃない。がっかりするよ」と言われてしまいます。

また、パーシヴァルは、ライバルのソレントと向き合った時、VRゴーグルを一時的に外して、動悸を隠します。また、オアシスでは、死ぬと所持金は0になりますが、リセットすれば生き返るようになっています。

3つ目の特徴は、気楽である、つまり安全感です。これは、現在のゲームにも通じています。そのからくりは、主に3つあります。1つ目は、見せたくない自分を見せないように作られていることです。これは、顔などの見た目から相手にされないのではないかという不安がなくなります。2つ目は、見たくない相手やものを見ないように作られていることです。これは、気が合わない相手でもその場にいなければならないという義務感がなくなります。また、音や光などの感覚刺激は、調節したり遮断することができます。3つ目は、いつでも休めたりやり直しができるように作られていることです。これは、失敗すると取り返しが付かないという緊張感がなくなります。

このように、ゲームをやめられなくなるのは、安全感が保たれているからです。逆に言えば、現実の世界は、そう簡単に安全感は保たれません。そのわけは、ゲームほど気楽なままで何かを達成する機会はあまりないからです。

★表1 ICD-11とDSM-5の診断基準