連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【2ページ目】2019年12月号 ドラマ「3年B組金八先生」【続編】-令和の金八先生になるには? わがままにさせない!【同調させるスキル】

「口」-発信力

金八先生は「君たち、いいですか。人という字はねぇ、ひとと、ひととが支えあっているから人なんですよ」と熱く語ります。これも、金八先生の名セリフの1つです。

2つ目の部位は、「口」です。これは、発信力です。これは、リーダーがメンバーに何かを伝え続けることです。この真逆は、リーダーが対外的に忙しかったり、一方で腰が重くて、現場にほとんどいなくて、メンバーにあまり何も伝えていない状況です。そうなると、現場は良く言えば自由に、悪く言えば好き勝手にやるようになります。もちろん、それでもメンバーの役割や関係性が成熟していて、集団が機能するなら良いでしょう。しかし、そうではないなら、トラブル発生のリスクが高まります。リーダーの存在感が薄まり、リーダーシップは危うくなります。かと言って、リーダーがただいれば良いかというと、それだけでもうまく行かないです。大事なのは、伝えられる何かがあるということをメンバーに感じ取らせることです。それは、「目が合えば私が何か言うわよ」「それはだめよ!」「あなたはこうよ」という力強いメッセージです。

それでは、普段から発信力を高めるための具体的なスキルを3つご紹介しましょう。

①口を同じにする―ビジョン
1つ目は、口(発言)を同じにすることです。これは、リーダーが集団のビジョン(目標)として同じことを言い続けることです。例えば、先ほどの「人という字は」です。実は、この中身は何でもよいです。不正確であっても、インパクトがあれば良いです。ちなみに、「人」という漢字の実際の成り立ちは、一人の人が二歩足で立っている姿を横から描いた形から来ています。つまり、人に頼らず自立するという意味合いでは、金八先生の説明と真逆です。それでも良いのです。むしろ、オリジナリティがある方が引き込みやすいのです。そして、あたかも何かすごいことであるかのように言うのです。

また、スローガンのように短くて響きが良いものが望ましいです。なぜなら、目標が細かかったりマニアックだったりして覚えにくいと、メンバーが同調しづらいからです。ここでは、逆説的ですが、ビジョンは目標(目的)ではなく、手段ととらえましょう。

ビジョンを示すという戦略(手段)によって得られる成果(目的)が3つあります。まず、リーダーはいつも同じことを言っていてブレないと印象付けることができます。次に、不適応なメンバーを含むメンバー全員が目標(ビジョン)を共有させることで、みんなが同じ方向を向きやすくなります。最後に、逆にそれでも同じ方向を向かない不適応なメンバーを集団から際立たせます。

ちなみに、同調しやすくするためには、つまりメンバーに同じ考えをさせるためには、同じ場所にいさせる、同じ格好をさせる、同じ動きをさせることです。例えば、学校での制服や整列がそうです。金八先生のクラスのホームルームの時間はやたらと長いです。金八先生の口癖は、「このクラスは・・・」「みなさんは・・・」「私たちは・・・」です。また、金八先生の呼びかけのもと、クラス全員がロック調のソーラン節を川原で踊り上げるというシーンもあります。

②口を出す―批判
2つ目は、口を出すことです。ビジョンを打ち出した後に、それを支える普段の決め事(ルール)をつくります。その決め事には、なるべくメンバー全員が参加する必要があります。なぜなら、そうすることで、その決め事は、リーダーが決めたのではなく、集団が決めたことになるからです。そして、その後に、観察力により得られた情報をもとに、それに反している行動、つまりやってはいけないことについて、全員がいる場で一般論として徹底的に批判することです。これこそがリーダーシップの見せ場です。

この時のポイントは、3つあります。まず、場所は、たまたま居合わせた少人数の密室などではなく、決められた全体の会議の場であることです。次に、個人的な名指しはせず、具体的な行動の問題点を一般論として言うことです。最後に、リーダーに従っていないのではなく、集団の決め事に従っていないことを強調することです。これらは、パワーハラスメントのリスクを低めることにもなります。

さらに、観察力で得られた情報を生かして、「○○と思う人がいるかもしれないけど」と先に言うことで、意見の違うメンバーの考えも理解はしていて、無視しているわけではないことを印象付けることができます。

ちなみに、金八先生は、「人間、勝手に死んじゃいかん。なあ、さっき誰かの発言で死んだ方がましだとかいう発言があったけれど、君たちはまだ15歳。死ぬなんて言葉をそう簡単に使うなよ!」と生徒たちに長セリフの説教をします。この名シーンが、この「口を出す」スキルに当てはまります。

③口を増やす―批判の同調
3つ目は、口(フォロワーの発言)を増やすことです。金八先生は、生徒たちを集めて教室でよく叱っています。散々批判して煽ることで、優等生タイプを中心とした集団の同調圧力を高め、リーダーに従う人(フォロワー)を増やします。そして、そのフォロワーたちが不適応なメンバーを批判するように仕向けることです。例えば、全体の場で問題点が浮き彫りになったところで、「今週の目標」や「今月の目標」をメンバーに決めさせます。こうして、不適応なメンバーを集団で包囲し、わがままにさせない雰囲気を高めます。