連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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・読字の障害(ディスレクシア)
・書字の障害
・算数の障害
・知的障害
・発達性言語障害
・ADHD
・合理的配慮
・障害者権利条約
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話すことは普通にできるのに、読むのがとても苦手なお子さんはいませんか? 読めても書くのがとても苦手なお子さんはいませんか? 計算するのがとても苦手なお子さんはいませんか? このような場合、学校や医療の現場では、学習障害と呼ばれています。これは、発達障害の1つです。
今回は、この学習障害をテーマに、ラブコメ映画「イン・ハー・シューズ」を取り上げます。この映画を通して、学習障害の特徴を整理し、その起源に迫ります。それを踏まえて、その本質的な対策を考えてみましょう。
主人公のマギーは、誰もが羨むルックスとスタイルを持ち、人当たりが良い魅力的なキャラクターです。それなのに、あるハンディキャップによって、仕事は長続きしません。まず、彼女のハンディキャップを主に3つあげ、学習障害の特徴を整理してみましょう。
①読むのが苦手
マギーがテレビ局のアナウンサーのオーディションに挑むシーン。目の前のプロンプターに流れて表示される文章を読み上げるよう指示されますが、彼女は読むのが遅く、読み間違えも連発していました。
1つ目の問題は、読むのが苦手であることです。これは、読字の障害(ディスレクシア)と呼ばれます。流暢に読めず、読み間違いが目立ち、読解力がないなどの特徴があります。
②書くのが苦手
マギーがケンカ別れをしてしまった姉のローズに手紙を書こうとするシーン。宛名だけは書きますが、その先はずっと白紙のままです。そして、書きかけと思われる紙がいくつもくしゃくしゃに丸められて、バッグの中に入れられていました。
2つ目は、書くのが苦手であることです。これは、書字の障害と呼ばれます。マギーのように、読むのが苦手であるということは、必然的に書くのも苦手になります。書き間違いが多く、文章構成力がないなどの特徴があります。なお、読むことやこの後の計算することとは違い、書くことについては、速さについての診断基準はありません。
一方、読むのが苦手ではなくても、書くのだけ苦手な場合もあります。この場合は、書字の障害のみと診断されます。
③計算が苦手
マギーがアルバイトでジーンズ屋のレジ係をしていた時の回想シーン。彼女は、レジのスキャナーが反応しないことで戸惑うなか、15%引きのクーポン券を差し出した女性客から、「クーポンは15%割引。合計金額から引くだけ。42ドルの15%、すぐに自分で計算できないの!?」と怒鳴られます。そして、その女性の後ろには長い列ができていたのでした。
3つ目は、計算が苦手であることです。これは、算数の障害と呼ばれています。スムーズに計算ができず、計算間違いが目立ち、数学的推理力がないため、日常生活で算数の応用ができないなどの特徴があります。
このように、マギーは大人になるまで読み書きや計算ができないというハンディキャップによって、自信(自己効力感)をなくしていました。姉から学校に戻って勉強し直すよう勧められても、「バカの学校(学習障害向けの学校)には戻りたくない」とも言っていました。生活するお金がないなか、男をたらし込んでおごらせたり、ケチな盗みを繰り返して、その日暮らしの生活をし、自尊心(自己肯定感)も低くなってしまっているのでした。
学習障害の特徴は、読むのが苦手、書くのが苦手、計算が苦手であることが分かりました。それでは、他の発達障害との関係はどうなるのでしょうか? ここから、主に3つの発達障害をあげて、鑑別診断をしてみましょう。
①知的障害
マギーは、ずっと音信不通だと思っていた祖母を頼って訪ねます。そして、祖母の勧めから、近くの老人ホームで食事を運ぶ仕事に就きます。彼女は、読み書きや計算を必要としない仕事なら続けることができています。買物や交通機関の利用など日常生活は普通に送れています。
1つ目は、学習障害は知的障害(トータルIQ 75以下)を除外することです。知的障害であれば、書き言葉だけでなく、話し言葉の理解や生活の自立が難しくなってきます。つまり、知的障害であった場合は、学習障害とは診断しません。
②発達性言語障害
マギーは老人ホームで、目の見えない老人から詩の本を読んでくれと何度も頼まれます。実はその老人は元教授で、マギーが学習障害であることを見抜いたのでした。マギーは渋々教授に詩を読みます。詰まりながらも、勧められた通りゆっくり読みきったあと、教授から詩の意味を聞かれます。すると、彼女は詩の描写にある隠れた意味を言い当てたのでした。マギーは、教授から「Aプラスだ。君は頭がいい」と褒められます。
このシーンから、マギーは読み書きがうまくできないものの、抽象的な言葉を使いこなせることが分かります。つまり、彼女の言語理解IQ(言語能力)は少なくとも正常範囲(85以上)、Aプラスと評価された点では110以上であることが推定できます。
2つ目は、学習障害は発達性言語障害(言語理解IQ 75以下)と区別することです。もともと発達性言語障害があれば、そもそも話し言葉の理解でさえ難しくなってきます。つまり、その後に学習障害を併発する可能性がとても高くなります。一方、マギーのように、もともと発達性言語障害がない学習障害の場合は、話し言葉の能力を生かすことができます。
なお、文部科学省の定義では、発達性言語障害は学習障害に含まれています。国際的な診断基準(ICD-11)やアメリカ精神医学会の診断基準(DSM-5)とは違うことに注意する必要があります。
③ADHD
マギーは、老人ホームの仕事に就く前に、トリマーの見習いをします。しかし、段取りを覚えきれず、動物が動き回るなどのちょっとしたアクシデントですぐにパニックになっていました。
3つ目は、学習障害はADHDの合併が最も多いことです。学習障害もADHDも、ワーキングメモリーのIQが低くなることが共通しています。ワーキングメモリーとは、同時に複数の違う記憶を保持するマルチタスクのことです。老人ホームで食事を運ぶだけの仕事なら、マルチタスクではなく自分のペースでできるため、マギーには合っていることが分かります。