連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【1ページ目】2020年2月号 CM「苦情殺到!桃太郎」【後編】-なんでバッシングするの? どうすれば?―「正義中毒」

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・世間(主流秩序)
・集団主義
・不安(セロトニン不足)
・受け身(ドパミン不足)
・「グレートジャーニー促進説」
・「均一民族促進説」
・私刑
・発信者情報開示請求
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どう日本的なバッシングはユニークなの?

進化心理学的に考えると、バッシングには普遍性があることが分かりました。ところが、世界的に見て、日本人によるバッシングは、実はかなりユニークです。そのユニークな点を3つあげてみましょう。キーワードは、「世間」です。

①内向きである
1つ目は、内向きであることです。日本のバッシングのターゲットのほとんどは、国内です。逆に、海外には目が向いていないです。これは、日本のウチ・ソトの文化によるものです。ウチとは、世間(主流秩序)の範囲「内」であるということです。逆に、海外であるソトは、世間(主流秩序)が通用しない別の世界であるととらえられます。この心理は、ソトに対して、良く言えば寛容ですが、悪く言えば無関心です。

一方、特に欧米のバッシングは、ターゲットが国内外を問わず、政治家、王族、ハリウッドのセレブであることが多いです。

②情緒的である
2つ目は、情緒的であることです。日本のバッシングの内容の多くは、犯罪や不倫などの分かりやすい悪に偏っています。逆に、労働、育児、介護、年金、貿易、原発などのまさに実生活にかかわることについては、善悪が分かりにくいため、あまり目が向いていないです。また、バッシングするかどうかは、同じ犯罪や不倫であっても、ターゲットやその時の世間の雰囲気によって極端に変わり、とても流されやすいです。これは、日本の和の文化によるものです。和とは、世間(主流秩序)を乱さないことです。よって、多数派という「安全な場所」から、少数派はバッシングされやすいです。逆に、多数派には逆らわないため、政権の不正へのバッシングは広がりにくいと言えます。

一方、特に欧米のバッシングの内容は、政治経済をはじめとして実生活にかかわること全てです。また、ターゲットがどれだけズルしたか、自分たちはどれだけ損したかなど、お金についての内容が多く、現実的です。なお、不倫については、社会ではなく個人の問題であるため、そもそもバッシングのターゲットにはならないです。

③陰湿である
3つ目は、陰湿であることです。日本のバッシングのゴールは、「ご迷惑をおかけしました」「お騒がせしました」という世間への謝罪と「もう調子に乗りません」「大人しくします」という反省です。そこに至るまで、または至ったとしても、徹底的に追い詰めて、容赦がないです。親兄弟や職場にも謝罪を求めます。逆に、損害賠償など、合理的な解決を求めることについては、あまり目が向いていないです。これは、日本の疑似家族の文化によるものです。疑似家族とは、価値観が同じであることを前提に、親や兄弟、職場、さらには世間とのつながりを重んじることです。よって、本人だけでなく家族や会社が、世間様(主流秩序)に許しを乞うのは当然という発想になります。これは、バッシングの目的化に至りやすい思考回路でもあります。

一方、特に欧米のバッシングは、価値観が違うことが前提であるため、謝罪や反省ではなく、解決することが一番のゴールであり、とてもドライです。例えば、違法ドラッグについては、謝罪や反省の是非ではなく、薬物依存症のリハビリテーションをしているかどうかが注目されます。親兄弟は、成人すれば赤の他人であるため、本人のために謝罪をすることはありません。むしろ、大変な思いをしていると周りから同情を寄せられることがあります。また、会社は、個人との単なる労働契約をしている関係にすぎないため、謝罪会見をすることはまずありえないです。

なぜ日本的なバッシングはユニークなの?

日本人的なバッシングのユニークな点は、ウチ・ソトの文化によって内向きである、和の文化によって情緒的である、疑似家族の文化によって陰湿であることが分かりました。これらは、欧米の個人主義とは対照的な日本独特の集団主義の文化です。それでは、なぜ日本人によるバッシングは、文化的にユニークなのでしょうか? ここから、その原因を、2つの脳内物質の国際比較を通して、脳科学的に解き明かしてみましょう。

①不安を感じやすい―セロトニン不足
1つ目は、日本人は不安を感じやすいことです。これは、先ほどにも触れた「安心ホルモン」であるセロトニンの不足との関係が指摘されています。セロトニンは、脳内でその「リサイクルポンプ」(セロトニントランスポーター)が働くことによって、常に使い回されています。「最後通牒ゲーム」を用いた研究によると、自分が損をしてでも公平性(正義)を重んじる人は、セロトニントランスポーターの密度が低い(働きが悪い)、つまりセロトニン不足であることが分かっています。この密度が低い遺伝子タイプ(SSタイプ)を持つ人の割合の国際比較において、日本人は世界で最も多いことが分かっています。

つまり、日本人は不安を感じやすいからこそ、ソト(海外)へのバッシングなんて怖くてできず、内向きなのでしょう。その一方、ウチ(国内)では多数派に流されやすく、情緒的なのでしょう。また、同じ価値観を押し付けて、陰湿なのでしょう。こうして、バッシングによってとりあえず世間が乱れないようにして安心を得ようとするのです。

②受け身になりやすい―ドパミン不足
2つ目は、日本人は受け身になりやすいことです。これは、先ほどにも触れた「快感物質」であるドパミンの不足との関係が指摘されています。ドパミンは、脳内で分解酵素(カテコール-o-メチルトランフェラーゼ)が働くことによって、溶かされてなくなります。「同調圧力実験」を用いた研究によると、意思決定が楽しいと感じにくい人(受け身になりやすい人)は、ドパミン分解酵素の活性が高い(溶かす働きが良い)、つまりドパミン不足であることが分かっています。この活性が高い遺伝子タイプを持つ人の割合の国際比較において、日本人は世界でトップレベルであることが分かっています。

つまり、受け身になりやすいからこそ、文化の違うソト(海外)まで積極的に目を向けられず、内向きなのでしょう。善悪を自分で考えようとせず、情緒的なのでしょう。解決への働きかけをしようとせず、陰湿なのでしょう。そして、バッシングによって、安易な快感を得ようとするのです。