連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【2ページ目】2024年1月号 映画「イン・ハー・シューズ」なんで読み書きだけできないの?なんで計算できないの?-学習障害

読み書きや計算の能力はいつ生まれたの?


学習障害は、知能(IQ)に問題がないのに、読むこと(読字)・書くこと(書字)・計算すること(算数)における学習のどれかまたはすべてに困難がある状態であることが分かりました。それでは、これらの能力はいつ生まれたのでしょうか? ここから、その起源に迫ってみましょう。

約20万年前に、現在の私たち人類(ホモサピエンス)が誕生し、言葉を話すようになりました。約8万年前に、人類は石片に格子模様を刻むようになりました。約5万年前に、洞窟の中で壁画を描くようになりました。これが、描く起源です。この詳細については、以下の記事をご覧ください。


>>【描く起源】

約2万年前には、獲物の数を数え、その数を動物の骨に縦線として刻むようになりました。これが、数字の起源です。約5千5百年前には、粘土板に当時の数字と動物の絵の形を模式化した絵文字をいっしょに刻むようになりました。これが、文字の起源です。こうして、家畜などの数の情報管理が可能になり、より大きな集団(都市)を維持することができるようになりました。その後に、絵文字はどんどん簡素化されていき、アルファベットのような一字で音だけを表す文字(表音文字)と漢字のように一字で意味を表す文字(表語文字)が生まれました。そして、聖書や般若経などのように、話し言葉が文字に変換されるようになりました。これが、読み書きの起源です。

7世紀には、インドで0の概念が発見され、物の売買において、数えるだけでなく計算もできるようになりました。これが、計算の起源です。18世紀後半の産業革命以降、読み書きや計算は、職業的により多くの人に必要とされるようになり、学校が増えるととともに広がっていきました。同時に、この頃から、読み書きや計算がもともとできない人があぶりだされてしまったのでした。これが、学習障害の起源というわけです。

★グラフ1 読み書き計算の起源

なんで学習障害になるの?

約20万年の私たち現世人類(ホモサピエンス)の歴史のなかで、多くの人が読み書きや計算をするようになったのは、たかだか200年ちょっとであり、ごくごく最近のことであることが分かります。読み書き計算をすべての人ができるようになるには、進化の歴史としては短すぎます。

つまり、読み書きや計算の能力は、これまで人類が進化の歴史で獲得した別の能力を流用し、文字の音韻化(デコーディング)、音韻の文字化(インコーディング)、数操作(ナンバースキル)の神経ネットワークを、まさに学習によって構築しているわけです。だからこそ、これらの神経ネットワークがもともとうまくつながらない人が一定数いるのです。実際の画像研究では、学習障害の原因は脳の特定の部位の機能障害があることが指摘されています(*1)。

例えば、子どもはよく左右反転した文字(鏡文字)を書きますが、これを書かないようになっていくのは、顔認識をする脳の部位(ビジュアル・ワード・フォームエリア)の発達と関係があることが指摘されています(*2)。つまり、文字の形を認識するのは、人の顔を認識する脳の部位を流用していることが分かります。また、読むことを繰り返すことで、文字認識の自動化が促進され、文字・文章を速く読むことができるようになります。一方で、そのために、「ヘリプコター」と書いてあっても、「ヘリコプター」と読んでしまい、誤字脱字に気づきにくくもなります(*2)。