【3ページ目】2012年7月号 映画「アビエイター」強迫性障害とは?
治療―薬物療法と認知行動療法

部屋にこもっていたハワードでしたが、ライバル会社と手を組んでいる議員から汚職の疑いをかけられ、ついに強制的に公聴会に呼び出されます。彼が外出を決意した時、助けにやってきた恋人とのやり取りが興味深いです。彼女は言います。「さあ、ここ(洗面所)で顔を洗いなさい」「私はどこにも行かないわよ」と。「きみには清潔に見えるかい?」というハワードに、彼女は「何も清潔なものなんかないわよ」「でも私たちはベストを尽くすものよ」と言い、彼に顔を洗わせる後押しをします。これは、あえて恐怖の対称に曝(さら)されて逃げ出したくなる反応を妨害し、馴らしていく(馴化)という治療法でもあります(曝露反応妨害法)。
すっきりした彼は、思わず言います。「結婚しないか?」と。うわての彼女は「私のためにやってくれたのね」と受け流します。好ましい行動に対して賞賛を与えており、この行動を強化しようとしています(オペラント強化技法)。かつて幼少期に強化された潔癖な考え方を拭い去り(学習解除)、不潔にこだわらないという新しい考え方に修正しようとしています。 このように、もともとの不潔なものに対する思考パターン(認知パターン)、行動パターンを変えていく治療法をまとめて認知行動療法と呼びます。現在の強迫性障害の治療は、薬物療法とこの認知行動療法が主流です。

シネマセラピー
ラストシーンでハワードは、ついに、世界最大の飛行機を完成させ、自らが操縦し、飛行を達成させます。この飛行機は、今でも最長の翼幅を持つ航空機として、記録を保持し続けています。しかし、映画では描かれていない晩年の彼は、強迫性障害を悪化させ、事故による痛みの治療で覚えてしまった麻薬を乱用してしまい、薬物依存症にもなっていました。 彼は、全財産をなげうってまで、飛行機作りに全てを賭けていました。そこまでして彼が飛行機をこよなく愛したのは、飛ぶことで全てを超越し、心の安らぎが得られるからだったようです。
彼は、アビエイター(飛行機操縦士)として、自分の飛行機を完璧に操縦することができました。しかし、皮肉にも、自分の心は、完璧さを求めるあまりに制御が利かない「自動操縦」になってしまい、生涯最後まで「手動操縦」をうまく行うことはできなかったのでした。ハワード・ヒューズの生き様と心の病気は、まさにコインの裏と表です。私たちは、ハワードから完璧さや潔癖さを求めることの危うさを教わることで、ほどよい心の操縦法を見出していくことができるのではないでしょうか?

参考文献
エキスパートによる強迫性障害(OCD)(星和書店) 上島国利
標準精神医学(医学書院) 野村総一郎
STEP精神科(海馬書房) 岸本年史
“Howard Hughes: His life and Madness”
Donald L. Barlett & James B. Steele





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