【2ページ目】2012年12月号 映画「折り梅」認知症とは?

かかわりのコツ

(1)客観視

介護の行き詰りの悲しみに沈んでいる巴は、小学生の息子に慰められ、教えられます。「気にするな。病気なんだから」と。

私たちは、身近な人であればあるほど、思い入れが強くなり、感情的になってしまいがちです。また、巴(家族)は、認知症専門の先生のアドバイスを聞いているうちに、家族が一致団結することで在宅がまだ続けられることを悟ります。

かかわりのコツとして、「病気だから仕方ない」という距離を取った理性的な視点で割り切り、介護の経験者や専門の医療関係者に相談して、認知症という病気を理解することが、心の負担を大きく減らします(客観視)。

(2)介護の枠組みをつくる

義母が雨の中を徘徊したことをきっかけに、在宅介護の限界を感じ、巴と夫はついに義母をグループホームへ預けようとします。しかし、巴は覚悟を決めている義母が逆に愛おしくなり、「相手を変えようと思ったら自分が変わらなくては」と在宅を続ける決心をします。

そんな巴の姿を見ていた夫も変わっていきます。前半は、仕事人間で介護に関しては、「おまえ(嫁)がいいならいいよ」「任せるよ」と言い、トラブルが起きると「甘かったな」「きみが言うから」「パートなんか行ってる場合じゃないよ」とすべて責任を巴に押し付ける情けない夫でした。しかし、後半では家事を手伝い、介護の勉強会にも参加するなどとても協力的になっていきます。

介護という難題を乗り越えようとして、家族の絆、夫婦の絆がより強くなっていったのでした。かかわりのコツとして、家族の協力体制などの介護の枠組みをつくり、1人だけで抱え込まないようにすること、つまり私たちができることをやるということです。逆に言えば、限界を超えて無理をしているからこそ、いら立つわけです。

また、ヘルパーさんの訪問や地域のデイケアへの参加で、義母はいろいろな人とかかわっていきます。デイケアでは、軽い運動のほか、絵画、習字、粘土の造形、カラオケ、俳句などの五感を通した活動をすることで認知症のリハビリテーションを行います。その間は、家族は介護の負担がなくなります。この訪問介護サービスや通所サービスの利用により、家族が息抜きすることもかかわりの大事なコツと言えます。

(3)自尊心を保つ

①決して叱らない

前半で、義母は皿洗いがきれいにできないことで、巴に皿を取り上げられ、家事は何もさせてもらえず、「誰もいない時は出かけないで」と言われ、家に閉じ込められ、何もできなくなります。夫は、義母(夫にとっての実母)に「いい加減にしろ!何度繰り返したら気が済むんだ」と子どものように叱り付け、問い詰めています。その様子を中学生と小学生の孫2人が冷やかに見ています。家族にダメ出しをされるばかりの義母は「家族の中の孤独より一人の孤独の方がよっぽどマシだ」と言い放ち、衝動的に家を飛び出していました。そして、「あんたたちに迷惑がかかるばっかりじゃ生きてても仕方ないもんね」と漏らします。義母の自尊心が傷付いているのがよく分かります。

認知症により、理屈などの理性的な記憶は衰えていきますが、実は、感情的な記憶はかなり保たれています(リボーの法則)。つまり、叱られた内容は忘れてしまいますが、叱られて悲しい思いをしたことと誰に叱られたかはしっかり覚えているのです。よって、子どもの教育のように叱って同じ過ちを繰り返させないようにしようという学習効果は期待できないです。そればかりか、自尊心が傷付けられたことがストレス因子となり、認知症の進行を加速させてしまうリスクがあります。つまり、かかわりのコツは、決して叱らないことです。

②できることをさせて褒めまくる

②できることをさせて褒めまくる

ヘルパーが洗濯を干す時に、「バスタオルを取ってください」と義母にわざわざ仕事をさせて、ひたすら褒めるシーンがあります。何かの仕事や頼みごとをあえてさせることで、本人が役に立っているという感覚になれて、自尊心が保たれていきます。本人に役割があることは、居場所があるということです。

認知症専門の医師が言います。「人は誰かに認められていると思えなければ生きていけません」「そばにいる人にありのままでいいんだと受け入れてもらうことが必要なんです」と。その通りに、義母は落ち着いて在宅で暮らしていけるようになります。そして、義母と巴には立場を超えた特別な絆が芽生えていきます。義母と巴が一緒の布団で寝るシーンがありますが、義母は巴に自分の生い立ちを明かし、全信頼を寄せていきます。翌朝に義母は巴の胸に手を置き、「おかやん(お母さん)」と寝言を言います。もはや両者は姑と嫁の関係を越えて、幼子と乳母の関係だと言えそうです。

かかわりのコツは、できることをさせて褒めまくることです。逆に言えば、できないことはさせないことです。本人の役割を限定しつつ、居場所を確保してあげることが重要です。

③傾聴しつつうまいウソをつく

③傾聴しつつうまいウソをつく

義母がついに巴を忘れてしまい、旧姓を名乗り、生家の住所を言い、帰らなければならないと告げるラストシーンは、さらに認知症が進んだことを物語っています。認知症が進むごとにだんだんと近い記憶から失われていきます。

例えば、年齢を聞けば、毎回徐々に、年齢を若く答えていきます(若返り現象)。さらには、歩行、食事、排泄などの日常動作のレベルも失われていきます(赤ちゃん返り)。この時の義母への巴の対応は、私たちが大いに学ぶべきところがあります。巴は「今日はどうぞ泊まっていってください」「お茶でもお入れしますから」と言っています。

かかわりのコツは、言っていることを否定せず、ひたすら耳を傾けつつ(傾聴)、本人の話に乗っかったうまいウソをつき、堂々巡りに陥るのを避けることです。お茶やお菓子などのアイテムはとても重要ですし、挨拶や声かけ、笑顔を絶やさない日々の取り組みも大切なことが分かります。

★表:「かかわりのコツ」

介護のあり方を見つめる教材

家族で満開の梅の花を見に行くシーンは圧巻です。まさに精一杯生きている認知症の義母を、折れても老いても美しく咲く梅に重ね合わせています。「折り梅」というタイトルもうなずけます。

この映画を通して、私たちは登場する認知症の義母や介護する家族に共感し心温まるだけでなく、認知症の介護のあり方やかかわり方を、より深く見つめていくことができます。この映画はそんな良質な教材としての役割も担っているように思います。

介護のあり方を見つめる教材

参考文献

「忘れても、幸せ」(日本評論社) 小菅もと子

「認知症の正しい理解と包括的医療・ケアのポイント」(協同医書出版社) 山口晴保