【1ページ目】2013年3月号 映画「告白」【続】サイコパスとは?

「もうどうでもいい」

皆さんは、人間関係や仕事で追い詰められて、「もういっぱいいっぱい」という気分になったありませんか?そして、日々の生活が「もうどうでもいい」くらい煮詰まってしまったことはありませんか?そうなってしまう原因として、②孤立していることがよくあります。

今回は、この孤立の危うさをテーマに、映画「告白」の登場人物である少年B、少年Bの母親、そして少年Aのそれぞれの心の闇に迫ります。ストーリーの展開は、次々と変わる登場人物たちの視点によって、それぞれの抱える心の闇が見透かされ、ある事件の全体像が少しずつ浮き彫りになっていきます。そして、事件後、その心の闇が重なり合い、希望の「光」は見えなくなっていくのです。

この心の闇の大きな原因は、②孤立です。これから、この孤立の心理をみなさんといっしょに掘り下げていきたいと思います。そして、そこから、私たちの日常に生かせる心のあり方のヒントを探っていきたいと思います。

少年Bの「心の闇」

少年Bの「心の闇」

①原因―思春期の抱えきれないストレス因子

登場人物の中学生の少年Bは、クラスメートの少年Aとの「遊び」から、追い詰められて、担任教師の森口先生の幼い娘を死なせてしまいます。警察に事故と判断されてしまいますが、その真相に辿りついた森口先生は、クラスメート全員のいる教室で明かします。そして、復讐として、少年Aと少年Bの飲んだ牛乳パックにHIVに感染した血液を注入していたことをみんなの前で告げたのでした。少年Bは、自分がエイズで死ぬこと、クラスのいじめのターゲットになること、殺人者として追及されることを恐れ、その後は、自室にこもり、不登校になり、「心の病」を発症するのでした。

実際に、思春期の心は、とても危うさをはらんでいます。なぜなら、体と同じく、心も飛躍的に成長をしていく中で、心が過敏になり、不安定になりやすい時期でもあるからです。また、彼は、溺愛する母親によってあまり我慢をせずに「大切」に育てられたこともあり、彼の心はとても脆く弱いことも分かります(②脆弱性)。

彼の不安定な心は、いとも簡単に少年Aの挑発的な捨てゼリフによって、殺人へと駆り立てて行ってしまったのでした。そして、その後にふりかかるストレスに耐えられなくなるのでした。

②症状―多様な広がりがある

しばらくして、少年Bのおかしな様子に、彼の母親は気付き心配します。「自分の触れたものや汚れたものは、絶対、私や夫に触れさせず、全て自分で洗い」「(便器を)磨き上げ(ている)」「そのくせ自分は髪も洗わず、風呂にも入らず」と(②洗浄強迫)。

一方、少年Bは「くさい」「でもこれが生きてる証」「この歯もこの髪もこの爪もこの臭いも」と自分が普通ではなくなっていくことに自覚がありません。そして、「僕が必死で」(HIVウイルスが母親に)感染しないようにって」「死なないようにって」と自分がHIVウイルスをまき散らしていると思い込んでいます(②加害妄想)。

また、少年Bは、新しい担任教師のウェルテルとクラスメートの美月が毎週お見舞いにやってくるたびに怯えます。そして、対応した母親に向かって「余計なこと、しゃべんなよ、このクソババア」と奇声を上げて荒れています。その理由を彼は心の中で語ります。「森口のせいだ」「森口が僕を殺そうと、家にスパイまで送り込んで」「なのに母さんはペラペラと森口の悪口なんか・・・」と(②被害妄想)。

やがて、「僕は生きてる?」「その実感が全然ない」と自問自答します(②離人症)。そして、アルバムに写っている自分自身を見て、母親に問いかけます。「この子は誰?」「なんで笑ってるの?」と。もはや自分自身が分からなくなっています(②解離)。そして、最後に、「ごめんなさい」「直くん(少年B)をちゃんと育ててあげられなくて」と漏らす母親が、「出来損ない」と自分をバカにした少年Aにすり替わって見えてしまい(②幻覚)、さらなる事件を起こしてしまうのです。

このように、少年Bの症状は、強迫、離人症、解離、幻覚妄想など多様に広がっていきます。

③診断―どうすれば良かったか?

原因が明らかな心理的なストレスであり(②心因性)、症状が多様な形状であることから(②多形性)、少年Bの診断としては、②急性精神病(急性一過性精神病性障害)が当てはまります。ただ、ストーリーの展開では、3か月が経とうとしています。症状が、固定化、慢性化するようなら、②統合失調症に診断が変更されます。

少年Bがこのような心の失調を引き起こさないためには、どうすれば良かったのでしょうか?彼は、心理的なストレスによって追い詰められていました。そして、「エイズになる」「いじめられる」「殺人者として責められる」という葛藤を抱えたまま出口が見えずに、煮詰まっていました。この煮詰まりによる感情の高ぶりは、緊張感や恐怖感を煽り、様々な症状を引き起こします。感情が理性を上回り、自分自身を冷静に見ること(客観視)が難しくなっています。彼は、理性を取り戻すため、まず誰かに心の内を正直に打ち明け、感情を吐き出し、早く楽になるべきでした。その相手は、まずは母親であり、家族でした。さらには、スクールカウンセラーなどの社会的な支援です(②ソーシャルサポート)。しかし、彼にそれをできなくさせたのは、実は、母親に「心の闇」があったからだったのです。そして、彼の孤立はますます深まっていったのでした。