連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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ポジティブになるメリットは、チャンスが増える、好かれる、人生を楽しむということが分かりました。つまり、ポジティブさとは、快感を主とした好ましい心理です。このポジティブさに価値を置く代表的な文化は、この映画の舞台にもなっているアメリカです。
なお、アメリカ人がポジティブである遺伝的、文化的な理由として、彼らのルーツがあげられます。アメリカ人は、かつてヨーロッパからフロンティア精神で新大陸にやってきた人たちです。その後の移民政策によって、チャンスをつかもうとする冒険心を持ったポジティブな人がさらに増えたでしょう。また、結果的に、多民族・多文化の社会になったため、交渉や妥協などのコミュニケーションを積極的にするポジティブな人も増えたでしょう。
ポジティブになることは、メリットばかりであると思われがちです。しかし、そのメリットは、状況(環境)が変われば、常にその裏返しのデメリットにもなりえます。ここから、カールの変化を通して、そしてアメリカ文化の負の部分に触れながら、ポジティブになることのデメリットを3つあげてみましょう。
①見込みが甘くなる
カールの融資のビジネスは、結果的にうまく行き、チャンスを広げました。しかし、実際に、アメリカのかつてのリーマンショックの原因は、リーマンブラザーズの社長が投資のリスクを過小評価したからだと言われています。皮肉にも、リーマンショックは、この映画のアメリカでの公開中に起りました。
また、カールは、飲み会でおごりまくっており、明らかな浪費が推測できます。楽器演奏、乗り物操縦、語学にかかる経費もかさむでしょう。レッドブル(カフェイン)の乱用も描かれています。
1つ目は、見込みが甘くなることです(リスクへの鈍感さ)。これは、チャンスが増えることの裏返しです。そして、だまされるリスクを高めます。
この心理は、精神医学的に言えば、肥満、浪費(保険未加入も含めて)、ギャンブル(投資も含めて)、アルコール、ドラッグなどの依存症の根っことなる否認の心理に通じます。これは、アメリカ人の多くが肥満や浪費の問題を抱えていることにつながるでしょう。
②お調子者になる
カールは、イエスと言い続けて、人生を楽しんでいます。しかし、何でもイエスと言っていることをアリソンにバレてしまい、信用を失ってしまいます。職場では、言われるままにふざけすぎて、上司に引かれています。パーティで声をかけた女性に、いきなりキスをしてしまい、その彼氏と決闘するはめにもなっています。
また、カールは、アリソンといっしょによくボランティアをしています。しかし、実際に、アメリカでは、ボランティアが盛んであるのに対して、助け合いが社会的な制度として成り立っていません。先進国なのに、医療保険は民間だけで、国民の一定数が医療保険に未加入であるのは世界的にかなり珍しいです。これは、不平等をあまり気にしない、あくまで自分の意思で助けたいという個人主義とあいまって、家族などの身近な人以外については、お互いあまり信用していないことが根底にあるでしょう。さらに、不倫も珍しいことではなく、婚姻率も離婚率も高いです。
2つ目は、お調子者になることです(対人関係への鈍感さ)。これは、気に入られることの裏返しです。よくよく考えれば、ポジティブすぎるのは、短期的には気に入られますが、長期的にはお調子者で信用できないと思われるリスクを高めます。まさにゴマすりをする本来の意味の「イエスマン」です。
この心理は、精神医学的に言えば、演技性パーソナリティに通じます。これは、アメリカ人の多くが日本人から見るとオーバージェスチャーであることにつながるでしょう。
③雑になる
カールは、イエスと言い続けて人生を楽しむ流れで、アリソンとデートをしつつ、「イラン人花嫁ドットコム」のお見合い相手ともデートしています。そして、そのイラン人女性に、アリソンの話ばかりをしてしまいます。また、イラン人女性は英語が堪能ではないと勘違いしてしまい、「もともとタイプじゃなかったし」とうっかり口走ってしまいます。彼は、細かいことを気にしなくなっています。
実際に、アメリカ英語に“easy going”という言い回しがあるように、アメリカ人は、良く言えば大らかです。「アメリカ料理」と言えば、ファーストフードやジャンクフードの部類で、大味なものばかりです。ホテルのサービスは、必要最低限で合理的です。
3つ目は、雑になることです(不完全への鈍感さ)。これは、人生を楽しむことの裏返しです。この心理は、精神医学的に言えば、ADHDの不注意症状に通じます。これは、アメリカ人のADHDの発症率が国際的に高いことにつながるでしょう。
先ほど、ネガティブになるデメリットは、動けなくなる、嫌われる、退屈になるということが分かりました。ネガティブさとは、不安を主とした好ましくない心理です。ネガティブになることは、デメリットばかりであると思われがちです。しかし、そのデメリットは、状況(環境)が変われば、常にその裏返しのメリットにもなりえます。このネガティブさに価値を置く代表的な文化は、やはり日本です。その遺伝的、文化的な理由の詳細については、末尾の関連記事1をご参照ください。
ここから、日本文化に触れながら、ネガティブになることのメリットを3つあげてみましょう。
①用心深くなる
日本では、ウチ・ソトの文化により、見知らぬ人、つまりソトの人には無愛想で、すぐに心を開きません。また、もともとマスクの着用や手洗いの文化が根付いています。
1つ目は、用心深くなることです(リスクへの敏感さ)。これは、だまされるリスクや感染症にかかるリスクを減らします。
太古の昔から、常に食うか食われるかの死と隣り合わせの極限状況では、リスクに敏感な種が生き残ったでしょう。また、先ほどの原始の時代に生まれた助け合いには、常に裏切りのリスクが潜んでいます。例えば、せっかく協力して得た食料を独り占めして姿を消す裏切り者です(フリーライダー)。原始の時代には、この1人がいるだけで集団の死につながります。
なお、日本人の用心深さは、日本の国土が、歴史的に、資源が少なく自然災害が多いこととの関係が指摘されています。
②控えめになる
日本人は、つらい表情で「今日は暑い(寒い)ですねえ」と言い合うネガティブな共感を好みます。「愚妻」「愚息」「つまらないもの」「粗品」という言い回しがあるように、へり下ることに重きを置きます。また、褒められた時は、「そんなことないです」と神妙にいったん否定することが慣習になっています。感謝する時は、素直に「ありがとうございます」とは言わず、「(お手を煩わせて)すいません」と謝罪します。さらに、自粛などの集団の暗黙のルールには、陰で不平不満を言いつつも従う人が多いです。これは、本音と建て前の文化でもあります。
2つ目は、控えめになることです(対人関係にへの敏感)さ。これは、自分を抑えて、相手を立てて、お上(政権)や世間の言うこと(主流秩序)に従うことで、出しゃばらない、調子に乗らないというメッセージを表向きに伝えることができます。もちろん、本音は別です。逆に、出しゃばる、調子に乗っている相手には、嫌悪感を抱き、陰口(バッシング)のターゲットにします。このように、ウチの中では、横並び意識が強く、不公平に敏感です。
先ほどの原始の時代に生まれた助け合いとして、例えば協力して男性たちが狩りをする時や女性たちがママ友グループをつくる時は、新入りは大人しく神妙にしていた方が、印象が良く仲間として早くに認められるでしょう。
なお、日本人の控えめさは、日本の国土が、島国で閉じていて狭いこととの関係が指摘されています。それだけ、隣近所に気を遣う必要があるからです。また、日本人は、人類が生まれたアフリカから最も遠くまで行くためにつながりを重視した人種の1つだからであることも考えられます。
ちなみに、中国人のメンツの文化は、周りを気にする点で日本人と似ています。しかし、中国人は、あくまで自分がどう思うかという自分本位であるのに対して、日本人は相手がどう思うかという相手本位(世間本位)であるという点で違います。
③丁寧になる
日本製の車や家電製品は、燃費が良く壊れにくいと国際的に定評があります。職人の技術の緻密さは、世界的にも評価が高いです。また、日本人は、きれい好きで、細かい点に注意や気配りをする「おもてなし」の精神があります。
3つ目は、丁寧になることです(不完全への敏感さ)。これは、ものづくりやサービスにおいて、ダメ出しを繰り返し、完璧さや形式美を発揮することができます。
先ほどの原始の時代に生まれた助け合いの中、例えば、男性が狩りのための石器をより良いものにしたり、女性が隣近所への気配りをより良いものにしていた方が、部族内での評判も良いでしょう。
なお、日本人の丁寧さは、日本人の主食が米であることとの関係が指摘されています。一方、世界的な主食は麦です。麦作と違って、米作は協力するプロセスが多かったため、丁寧さが遺伝的にも文化的にも求められたからです。ちなみに、日本人の主食が麦ではなく米である理由は、日本の国土が狭いことと関係があります。1年おきに休ませる必要がある麦畑に対して、水田は、毎年使えて生産性が高いため、狭い国土に選ばれたのでした。