連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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・少食タイプ
・過食タイプ
・食べ吐き(自己誘発性嘔吐)
・空腹中枢と満腹中枢
・行動依存
・ダイエット文化
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みなさんは、体型を気にしますか? やせるために食事制限をしてジムに通っていますか? 今の世の中では、やせていることに価値がとても置かれていますよね。一方で、明らかにやせすぎている「拒食症」の人たちがいます。また、食べ吐きがやめられない「過食症」の人たちもいます。なぜなんでしょうか?
これらの答えを探るために、今回は、ネットフリックスのオリジナル映画「心のカルテ」を取り上げます。このドラマを通して、精神医学の視点だけでなく、生物学の視点からも、摂食障害の原因に迫ります。
主人公は、20歳のエレン。極端な食事制限をして、異常にやせています。それを見かねた家族の強い勧めで、彼女は、グループホームに入ります。そして、同じ摂食障害のメンバー6人との共同生活をするなかで、自分を見つめ直すようになるのです。
まず、エレンをはじめとするグループホームのメンバーたちを通して、摂食障害を「少食タイプ」と「過食タイプ」の大きく2つに分けて、それぞれの特徴を詳しくご紹介しましょう。
①少食タイプ
1つは、少食タイプです。エレンやグループホームのメンバーのパールのように、単純に食べる量を制限する、あまり食べないことでやせすぎることです。この正式な病名は、神経性やせ症の制限型です。
その症状として、まず当然ながら著しい低体重があげられます。エレンがグループホームで体重測定をするシーン。具体的な数値は描かれていませんが、彼女が「さすがにやばい」と漏らし、スタッフがかなり心配していることから、危険な数値であることがうかがえます。実際の診断基準(ICD-11)では、BMIが18.5未満で異常とされ、BMIが14未満で危険とされています。ちなみに、エレンは長らく生理がなく(無月経)、毛深くなっていました(産毛密生)。これらは、電解質、ホルモン、代謝の異常も含め、低体重からの栄養不足に伴う体の変化です。
パールは、あまりにもやせてしまったため、鼻からチューブで栄養剤を流し入れる対応(経鼻栄養)が行われていました。そして、その後にエレンから摂取カロリーを明かされたために、動揺していました。これは、太る(体重が増える)ことに強い恐怖を感じる肥満恐怖であり、裏を返せばやせ願望です。
エレンは、義母から撮られた自分の全身写真を見せつけられて「きれいだと思う?」と聞かれて、「いいえ」と素っ気なく答えます。そして、「じゃあどうする?」と聞かれても、何も答えません。診察するベッカム先生には「私は不健康だとは思わない」「だってやせてる方が健康だって言うでしょ」と言います。頭では異常であるとうすうす分かっていても、深刻には受け止めていないのです。これは、ボディイメージの障害であり、病識欠如(否認)です。
エレンは、ただでさえ栄養不足で体力がないのに、ベッドの上で隠れて腹筋運動を繰り返します。いわゆる「ダイエットハイ」「拒食ハイ」と呼ばれる過活動です。また、全ての食べ物のカロリーを瞬時に言い当てて、妹(異母妹)から「カロリーの鬼だね」と驚かれます。やせることへのとらわれ(強迫)もみられます。
グループホームの唯一の男性メンバーであるルークと中華レストランに行った時、エレンは、食事を噛むだけで飲み込まずに吐き出していました。これは、チューイングと呼ばれます。
②過食タイプ
もう1つは過食タイプです。これは、さらに3つのタイプに分けることができます。
a. 食べ吐きしてやせすぎるタイプ
この正式な病名は、神経性やせ症の排出型です。グループホームのメンバーのミーガンは、妊娠が判明したのにもかかわらず、つい食べ吐きを再開してしまい、流産するのでした。ルークについては、食べ吐きの様子が描かれておらず、はっきりとは言えないのですが、もともとバレエダンサーであり、食事をおいしそうに食べている様子から、このタイプであると思われます。
食べ吐きによって、胃液中の電解質であるカリウムが不足していきます。すると、低カリウム血症による不整脈のリスクが高まります。驚くべきことに、このタイプの死亡率が20%前後であり、実は精神障害の中で最も高い数値です(*1)。
厳密には、排出型は、食べ吐き(自己誘発性嘔吐)に加えて、下剤・浣腸や利尿薬などの医薬品の使用も含んだ排出行動がある場合を指します。
なお、いわゆる「拒食症」とは、先ほどの少食タイプ(神経性やせ症の制限型)とこの過食タイプ(神経性やせ症の排出型)を合わせた俗称です。
b. 食べ吐きしてやせすぎないタイプ
この正式な病名は、神経性過食症です。グループホームのメンバーのトレイシーは「アイスクリームはすぐに吐けるわ。胃液だけになるまでね」「あなたも下剤使ってる?」と話しています。グループホームのメンバーのアナは、ベッドの下に自分の食べ残しを隠し持っていました。これは、ため込みと呼ばれます。その他に、どうせ吐いてお金がもったいないからとの理由で、食べ物の万引きをしたり(盗食)、周りに大量に食べているところを見られたくないとの理由で隠れて食べる隠れ食いなどがあります。
c. 食べ吐きせずに太るタイプ
この正式な病名は、むちゃ食い症です。グループホームのメンバーのケンドラは「私も吐けたらいいんだけど、とにかく食べるだけ」と話しています。彼女はとても大柄です。そして、ピーナツバターを大瓶の容器からそのまま食べていました。
なお、食べ吐きしてやせすぎないタイプ(神経性過食症)は、食べるのと同じくらい吐くようになると、食べ吐きしてやせすぎるタイプ(神経性やせ症の排出型)に移行します。また、食べ吐きせずに太るタイプ(むちゃ食い症)は、食べ吐きができるようになると、食べ吐きしてやせすぎないタイプ(神経性過食症) 、さらには食べ吐きしてやせすぎるタイプ(神経性やせ症の排出型)に移行します。このように、過食タイプは、オーバーラップすることが分かります。
また、少食タイプのエレンとパールは病気の自覚(病識)があまりないのに対して、過食タイプであるその他のメンバーは病識があるため、治療に前向きです。