連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【2ページ目】2022年11月号 映画「二つの真実、三つの嘘」【前編】なんで病気になりたがるの? 実はよくあるわけは?【同情中毒】

病気になりたがることが実はよくあるわけは?

確かに、嘘をついてまで病気になりたがるのは、かなり度が過ぎています。しかし、嘘をつくほどでなければ、病気になりたがることは、心療内科・精神科や心理カウンセリングの現場で、実はよくあることです。その理由を大きく3つあげてみましょう。

①もっと構ってほしいから

病気になりたがる1つ目の理由は、もっと構ってほしいからです。そのために、嘘をつかなくても、困っていることや症状を大げさに訴えたり見せつけます。例えば、毎回の診察で「死にたい」と訴え続けることです。また、急に倒れ込んだり、リストカットの傷痕を隠さずに出していることです。

症状を伝えることは、構ってもらうためではなく、良くするためであるはずなのにです。

なお、これらは、意識的に嘘をついているわけではないので、ミュンヒハウゼン症候群ではなく、演技性パーソナリティ障害と診断されます。

②病気のせいにしたいから

病気になりたがる2つ目の理由は、病気のせいにしたいからです。仕事や人間関係でうまく行っていない時、それが自分の能力や性格によるものであれば、自分のせいになります。しかし、「うつ病」「自律神経失調症」などと診断されれば、その問題を病気のせいにすることができます。また、自分の能力の問題であっても、「ADHD(注意欠如・多動症)」「HSP(敏感な人)」などと指摘されれば、やはり病気のせいにできます。さらに、自分の性格の問題であっても、「毒親」「アダルトチルドレン」などと指摘されれば、家庭環境のせいにすることができます。病気になったのは本人の責任ではないかもしれませんが、病気を良くしていくのは本人の責任であるはずなのにです。もはや、自分で自分に嘘をついている状態です。

なお、これらは、無意識に責任逃れや責任転嫁をしている点で、自己奉仕バイアスと呼ばれます。婚活でうまく行かない人が、良い相手がいないと嘆く心理に通じます。また、ひきこもりの人が親に謝罪をしつこく求める心理にも通じます。

③病人として生きたいから

病気になりたがる3つ目の理由は、病人として生きたいからです。病人でいる状況が長くなると、病気に立ち向かってがんばって生きている自分というアイデンティティが確立してしまいます。逆に言えば、病人ではなくなると、病気以外でがんばること(役割)やその居場所を新しく探さなければならず、見つからなければ自分は何者でもなくなってしまうという恐怖が出てきます。

よって、彼らにとって、例えば精神障害者保健福祉手帳の取得はステータスになります。3級が2級になれば、資格試験でがんばった成果であるかのように納得した表情をします。やがて、「病気自慢」「不幸自慢」をするようになります。そもそも、病気や不幸を語ることは、健康や幸福になるための手段であって、目的そのものではないはずなのにです。

なお、これは、無意識に治りたいと思っておらず、病人の役割(アイデンティティ)をまっとうしようとする点で、シックロールと呼ばれています。

病気になりたがる人を見分けるには?

病気になりたがることが実はよくある理由は、もっと構ってほしい、病気のせいにしたい、そして病人として生きたいからであることが分かりました。それでは、これらの心理を踏まえて、彼らをどうやって見分ければいいでしょうか? 彼らの特徴を大きく3つあげてみましょう。

①症状を語りたがる

病気になりたがる人の特徴の1つ目は、症状を語りたがることです。例えば、症状を次々と列挙して、その症状がどんなふうでどうなってきたかを、つらそうな表情をまじえながらもよくしゃべります。また、医療機関での予診票では、症状のチェック欄には、ほぼ全ての症状をチェックします。自己記入式の病状のスクリーニング検査では、病状が重く見られるようにチェックします。そして、こちらが、症状を語りたがっている意図を察知して、あえて話を切り上げようとすると、「話を聞いてくれない」「つらさを分かってくれない」と怒り出します。

そもそも、本当に病気の人は、症状を伝えるにしても、一番つらい症状を何とか1つか2つあげるだけで、そんなに語れません。そして、治してもらえるなら、話が早くに終わっても気にしません。

②病名や原因をはっきりさせたがる

病気になりたがる人の特徴の2つ目は、病名や原因をはっきりさせたがることです。例えば、病名や原因をしつこく聞いてきます。自分がネットで調べて見つけた病名が、厳密には違うと聞かされると、がっかりしたり食い下がってきます。わざわざ自分が持ち歩くだけのために、診断書の発行を希望する人もいます。

そもそも、精神科医が病名や原因を伝えるのは、薬の処方をはじめとして今後のためになる場合に限られています。逆に言えば、今後のためにならない場合は積極的には伝えません。その理由は、そうすること自体が、決め付け(ラベリング)になってしまい、その病気や原因に本人がとらわれて、逆になかなか良くならないことがあるからです。

③治療には乗ってこない

病気になりたがる人の特徴の3つ目は、治療には乗ってこないことです。例えば、病気を良くするための様々な提案に対して、全て「はい、いいんですけど・・・でもやっぱり私には無理です」と曖昧に返してきます。これは、心理学で「イエス・バット・ゲーム」と呼ばれています。一方で、「いいえ、そうじゃなくて(ノー・バット)」とはっきり返してくる場合は、「ということは何か考えがあるのですね」とその人なりの思いを掘り起こすことができます。

また、「この病気さえなければ」と言い続ける人に、「じゃあ、もしもこの病気が良くなったら、どうしていますか?」と聞くと、「そんなこと考えられないです。だって、病気があることには変わりないじゃないですか」「そんなこと考えて、けっきょく良くならなかったら、ますますつらいじゃないですか」と言い返してきます。

さらに、ポジティブな面に目を向ける問いかけに対しては、「私のポジティブなところを聞かれても困ります」「前向きに考えてなんて言ってほしくない」「私はそんなんじゃない」「私の病気を軽く見ないでください」「それがうざいんですよ」と言う人もいます。

確かに、とても弱っている時は前向きには考えられません。しかし、それがずっと続く場合は、もはやその人の考え方、生き方の問題になってきますので、治療として限界があることを理解する必要があります。