連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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病気になりたがる人の特徴は、症状を語りたがる、病名や原因をはっきりさせたがる、治療には乗ってこないことであることが分かりました。それでは、これらの見分け方を踏まえて、彼らにどう接すればいいでしょうか? その対策を大きく3つあげてみましょう。
①ある程度は受容する
メラニーは、症状をねつ造していたとは言え、長らく自助グループに通い、お互いに慰め合うことで、日常生活は安定していました。
病気になりたがる人への対策の1つ目は、ある程度は受容することです。例えば、「つらい気持ちを分かってほしい」と自傷行為を繰り返す人に対しては、「そんなことするくらいつらかったんですね」とその気持ちを受け止めます。その理由は、まずは信頼関係を築く必要があるからです。そもそも信頼関係がなければ、治療が進まないからです。また、病気になりたがっているかは、最初に会った段階でははっきりと分からないことがあるからです。
ただし、受容は、あくまで一定レベルで一定期間にとどめる必要があります。無制限に無期限に気持ちを受け止めると、病気になりたがる気持ちをただ煽る(強化する)だけになってしまうからです。つまり、皮肉にも、困った人の話を聞き続けると、ますます困った人にさせてしまうということです。
②その気持ちそのものを考えさせる
病気になりたがる人への対策の2つ目は、その気持ちそのものを考えさえることです。例えば、「病気が良くなることを考えること自体が治療なんです。それでも考えたくないですか?」と問いかけ、「変な話、病気であることが生きがいになっている人もいます。私はあなたにそうなってほしくないと思っています」と遠回しに伝えます。また、症状をねつ造している可能性があるとしても、まずはその矛盾している点を具体的に細かく指摘することにとどめます。これらのやり方は、認知行動療法に通じます。
注意点は、「あなたは病気になりたがってますね」「嘘をついていますね」とストレートには伝えないことです。心理学では、これを直面化と呼んでいます。そうしてしまうと、そういう人は激しく否認し、信頼関係を損ねます。なお、これは、子どもが嘘をついた時の対応にも通じます。
③病気以外での人とのかかわりを促す
もしもメラニーが想像した通りにテレビ出演して周りから注目されるようになると、承認によって対人希求が満たされます。すると、もはや同情によって対人希求を満たす必要はなくなるため、症状をねつ造することをしなくなるでしょう。
病気になりたがる人への対策の3つ目は、病気以外での人とのかかわりを促すことです。例えば、「病気がつらいことについてではなく、病気を良くすることについてなら話を聞きます」と伝え、話の方向付けをすることです。そして、「もしも病気が良くなったら」という先ほどの質問をもう一度して、「あなたの得意なことは?」「好きなことは?」「それを生かす場所は?」という質問につなげていくのです。
しかし、それでも病気になりたがる人もいます。聞き入れられずに堂々巡りになる場合は、もはや治療の限界です。そんな時は「診察の時間には制限があります」「これ以上は治療としてお役に立てることは難しいです」と伝える必要があります。なぜなら、現実問題として、医療現場で病気になりたがる人の話を聞き続けることは、その気持ちを強化する以前に、時間と労力の浪費となり、税金によって成り立っている医療資源の無駄遣いをしていることになるからです。
もちろん、病院以外で、「病気自慢」を私小説としてブログで発信したり、自分語りとしてSNSのコミュニティ(自助グループ)で披露することをお勧めすることはできます。それは、自己表現であり、文学です。つまり、対人希求は、病院でネガティブに発揮するのではなく、病院以外でポジティブに発揮することを促すのです。
また、自費による心理カウンセリングをお勧めすることもできます。なぜなら、お金を払って話を聞いてもらうのは、本人の自由だからです。ただし、今度は病気になりたがる人がカウンセリングビジネスに利用されないように、助言をする必要はあります。なぜなら、旧ソ連に「国は給料を払うふりをして国民は働くふりをする」というジョークがあるように、「クライエントは病気のふりをして、セラピストは治すふりをする」という関係性ができてしまうからです。それは、もはや治療ではなく、「治療」という衣をかぶった宗教でしょう。
なお、カウンセリングビジネスは、以下の記事で詳しくご説明しています。
なお、次の後編からネタバレになります。この映画をネタバレなしで見たい方は、先に見てから後編に進んでいただき、残りの1つの真実と3つの嘘の答え合わせをしましょう。
>>【後編】重症のミュンヒハウゼン症候群とは?【ネタバレあり】
・病気志願者―「死ぬほど」病気になりたがる人たち:マーク・D・フェルドマン、原書房、1998
・うその心理学:こころの科学、日本評論社、2011
・特集「うそと脳」:臨床精神医学、アークメディア、2009年11月号
・「隠す」心理を科学する:太幡直也/佐藤拓/菊池史倫、北大路書房、2021
・平気でうそをつく人たち:M・スコット・ペック、1996