連載コラムシネマセラピー

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【2ページ目】2020年2月号 2020年6月号 テレビ番組「M1グランプリ」-【続編・その2】ツッコミから学ぶこれからのセラピーとは?

ツッコミから何を学べる?―セラピーの二面性

日本のツッコミのユニークさについて、文化心理学的に考えました。ただし、現代の日本社会の変化と同じように、ツッコミも個人主義化してきています。そして、より受け入れられるスタイルに変化しています。この変化は、セラピーも同じです。この点を踏まえて、ここから、ツッコミのスタイルと同じようにセラピーのスタイルを3つに分けて、それぞれのセラピーのプラス面とマイナス面を整理してみましょう。


①教えるスタイルのセラピー
a. プラス面
このセラピーのプラス面は、望ましい行動が増えることです。例えば、行動療法は、特に子どもや発達障害の人にルールを教えます。心理教育は、病気へのかかわり方を教えます。アサーションはコミュニケーションの仕方を教えます。これは、まさに教師と生徒の関係です。

b. マイナス面
一方で、そのマイナス面は、クライエントが受け身で依存的になることです。例えば、メンタル症状の原因を掘り下げるセラピーでは、そのおおもとを過去の親との関係に結び付けることが多いです。昨今よく耳にする「毒親」という言葉が、まさにこれです。確かに、親子関係を見つめ直すきっかけをつくることはあります。しかし、メンタル症状の原因は、複数の要因が複雑に絡み合っています。親との関係は、要因の1つであっても全てではないです。そもそも人間の心は、原因が分かれば直る単純な機械ではないです。もっともらしい「犯人」(スケープゴート)が見つかり、分かった気にはなりますが、そうなることで「こんなにつらいのは全て親のせいだ」と決め付けてしまい、親に責任転嫁して、自分で症状を良くしていこうとはしなくなるリスクがあります。

また、昨今、「毒親」というセンセーショナルな言葉をセラピストが悪用していると疑われるケースが出てきています。それは、クライエントの親を「毒親」であると決め付け、「親に謝らせてください」「親のせいでこうなったのだから、費用は親に請求してください」とセラピストがクライエントに指示することです。これは、高額なセラピーの費用の負担からクライエントを解放します。親に罪悪感を植え付けることに成功すれば、親は親子関係が修復するのならと喜んでその高額なセラピーの費用を肩代わりします。そして、セラピストは、「状態は深刻だからなかなか良くならない」などとの口実を使って、高額なセラピーの費用を長期的に得るわけです。これは、「毒親ビジネス」という新たなビジネスモデルと言えるでしょう。

かつて90年代のアメリカで、「偽りの記憶」によってセラピストに仕立て上げられた虐待を理由に、子どもたちが次々と親に対して訴訟を起こして社会問題になった状況と似ています。アメリカは、個人主義の文化によって親が成人した子どもにお金を払うという発想がそもそもないので、訴訟に発展したのでしょう。

もう1つのマイナス面として、セラピストが独りよがりで権威的になることです。例えば、教えるスタイルのセラピストの中には「泣かしてなんぼ」と言う人がいます。確かに、泣いてしまったクライエントを受け止めることはよくあります。これは、セラピーの基本です。しかし、大の大人を泣くように仕向けるやり方は明らかに子ども扱いしており、一般的なコミュニケーションでは、はばかられます。にもかかわらず、セラピストは「これで心の中のわだかまりを吐き出してすっきりしたはず」「落ち着かなくなったのは、これから良くなる証拠」と解釈します。「カタルシス(浄化)」というワードを都合良く使い、治療的な意義を見いだします。逆に、「泣かないのは、無意識にセラピーに『抵抗』している」と解釈します。こうして、セラピストは、救世主のような気分になり、その万能感を得るために、ますます独りよがりになっていくリスクがあります。セラピストは決め付けたい、クライエントは決めてもらいたいというそれぞれの心理が根っこある場合は、彼らの相性は抜群です。これは、まさに教祖と信者の関係です。

時代の流れから、こてこてのどつき漫才が笑えなくなってきているのと同じように、こてこての教えるスタイルのセラピーは曲がり角に来ています。今や、医師が説教するのが「ドクターハラスメント」になるのと同じように、教えるスタイルのセラピーは、「セラピーハラスメント」になるリスクがあると言えるでしょう。


②支えるスタイルのセラピー
a. プラス面
このセラピーのプラス面は、寄り添って安心感があることです。例えば、それが支持療法や集団療法であることをすでにご説明しました。また、精神科デイケアや認知症デイケアなども基本的にそうです。これは、親と子どもの関係です。

b. マイナス面
一方で、そのマイナス面は、クライエントが居着いて幼くなることです。例えば、このセラピーでは、決して否定されないので、居心地が良いです。確かに、それだけで自尊心が安定して、症状が良くなることはあります。しかし、同時に、居心地が良いことに味を占めたり、セラピーを受けていること自体に満足して、居着いてしまうおそれがあります。すると、セラピーは、症状を良くする手段ではなく、目的そのものになってしまいます。これは、結婚相談所や英会話教室にも当てはまります。そこに所属していること自体で安心してしまうのです。

もう1つのマイナス面は、居着くクライエントをセラピストが抱え込んで飼い馴らすようになることです。例えば、それが「居場所ビジネス」です。セラピーが「治療」という衣を着たビジネスに成り下がるリスクがあります。もちろん、重い精神障害や認知症の人には、この「居場所」が必要です。しかし、セラピストがもともと一時的に弱っていただけの一般のクライエントを金づるとしてセラピーを終了させないように仕向けていたとしたら、どうでしょうか? これは、もはや飼い主とペットの関係です。家畜、社畜ならぬ、「癒畜」(ゆちく)と言えるでしょう。

③考えさせるスタイルのセラピー
a. プラス面
このセラピーのプラス面は、自己成長を促すことです。例えば、それが認知行動療法であることをすでにご説明しました。また、ブリーフセラピーもそうです。ブリーフセラピーとは、できるだけ前向きに考えさせることによって短期間(=ブリーフ)で困りごとを解決するセラピーです。これは、大人と大人の関係です。

なお、このブリーフセラピーは、大人と大人の関係でありながら(むしろ大人と大人の関係だからこそ)、スクールカウンセリングでよく行われます。一方で、一般のカウンセリングルームではあまり広がっていないようです。その理由は、スクールカウンセリングは、生徒(クライエント)が卒業するまでというカウンセリングの期限があらかじめ決まっていること、カウンセラーの報酬が固定給であることが考えられます。一方の一般カウンセリングは、期限がないこと、歩合給であるため回数を重ねた方が儲かることから、ビジネスの観点に立つとブリーフセラピーが好まれないことが分かるでしょう。

b. マイナス面
一方で、そのマイナス面は、クライエントがもともと受け身であったり、幼い場合は効果がないことです。言い換えれば、自分で考える意思や能力がない場合は、考えさせることができないというわけです。この場合は、先ほどにも触れた教えるスタイルや支えるスタイルのセラピーが有効でしょう。

★表3 セラピーの二面性

これからのセラピーのあり方とは?


ツッコミのスタイルに重ね合わせながら、セラピーを分類し、そのプラス面とマイナス面を整理しました。セラピーは、これまで集団主義と相性の良い教えるスタイルと支えるスタイルでした。これからは個人主義的な考えさせるスタイルにシフトしていくでしょう。
そのために必要なセラピーのあり方とは何でしょうか? それは、クライエントにセラピーのゴールを考えさせることです。どうなるのがゴールなのか? いつまでにゴールしたいのか? ゴールのために何を自分はするのか? このゴール設定は、主体性を促します。
一方のセラピストのゴールは何でしょうか? それは、クライエントが自分で考えることができるようになること、つまりセルフセラピーをするようになり、セラピーを必要としなくなることでしょう。この覚悟こそ、セラピーだけでなく、家庭での子育て、学校での教育、職場でのリーダーシップにも通じる心のあり方と言えるのではないでしょうか?

参考記事

関連スライド

参考図書

1)言い訳 関東芸人はなぜM1で勝てないのか:ナイツ塙宣之、集英社新書、2019
2)お笑い進化論:井山弘幸、青弓社、2005
3)世にも奇妙なニッポンのお笑い:チャド・マレーン、NHK出版新書、2017