連載コラムシネマセラピー

私達の身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション(心理学)メンタルヘルス(精神医学)婚活(恋愛心理学)を見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【1ページ目】2020年3月号 テレビ番組「M1グランプリ」-実はボケってメンタルの症状!? 逆にネタから症状を知ろう!

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【キーワード】
・笑う心理
・精神機能の異常
・非定型発達
・異変
・メタ認知
・緊張緩和
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みなさんは、お笑いが好きですか? 笑うと、すっきりしますよね。それにしても、お笑いって何でしょうか? なぜ笑ってしまうのでしょうか? そもそもなぜ笑いは「ある」のでしょうか? そして、笑いをどう生かしましょうか?

実は、お笑いのボケは、その多くがメンタルヘルスで見られる症状に重なります。今回、そのパターンを、主にテレビ番組の「M1グランプリ」でのネタを通して、精神医学的に分類し、ふだん馴染みにくいメンタルヘルスの症状をイメージアップしてみましょう。また、逆にまだネタになっていないメンタルヘルスの症状を探ってみましょう。さらに、笑う心理の要素を解き明かし、その起源を進化心理学的に掘り下げて、笑う意味をいっしょに考えていきましょう。

なお、お笑い芸人の表記は通称として、敬称は省略しています。

お笑いって何?

お笑いネタのボケは、普通とは違うこと(異常)、まさに「おかしい」ことです。その「おかしさ」のパターンは、精神医学的に、大きく3つに分けられます。

(1)メンタル症状
1つ目は、メンタル症状です(精神機能の異常)。これは、精神症候学的に、7つに分けられます。

①言い間違い―記憶の異常
・ナイツの「ヤホー漫才」(2008)
ボケ:「ヤホーってサイトで調べてきたんですけど」
ツッコミ:「ヤフーね。ヤフーって読むんだわ、あれ」
ボケ:「ぼく、こうもん見えてもですね」
ツッコミ:「『こう見えても』だろ。肛門見せちゃだめだよ」

・サンドウィッチマン(2007)
ボケ:(街頭アンケートで)「目のところに、こう、材木、入れますんで」
ツッコミ:「モザイクね!」
→語音の間違い(音韻性錯語)


・ナイツ(2008)
ボケ:「(宮崎駿は)世界でも3本の指が入る映画監督だと」
ツッコミ:「指に!だよ」
→「てにをは」の間違い(錯文法)

・替え歌
ひな祭り:「明かりをつけましょ爆弾に~♪お花をあげましょ毒の花~♪」
→単語の間違い(意味性錯語)

・ジャルジャル(2015)
「なんぜやねん(なんでやねん)」「ちゃがうわ(違うわ)」「膝の峠越え」「子どもの小便百祟り」「雷坊主の添い寝節」などのありそうで聞いたことがない言い回しやことわざを使うボケ
→新しく言葉を作る(語新作ジャルゴン)
「ゴトウ」「イントネーション」などの単語のアクセントを変える
→アクセントの間違い(プロソディ障害)

1つ目は、言い間違いです。これらのネタは、言葉が分からなくなる失語(言語障害)の症状としてまとめられ、認知症を代表とする記憶の異常に分類されます。逆に、この分類でまだお笑いネタになっていないと思われるのは、聞き間違い(感覚失語)、記憶違い(記憶錯誤)、もの忘れの帳尻合わせで新しく話を作る(作話)などがあげられます。

②見間違い―知覚の異常
・モノボケ
バナナを耳に当てて「もしもし」と言う
→見間違い(物体失認)
ズボンを上着として着る
→やり間違い(着衣失行)

・ガレッジセール
「こいつ(相方)、めっちゃビビリ。夜中にいっしょに信号待ちしてて、後ろから誰かに見られてるって。『誰だ!』って振り向いたら、選挙ポスターだった」
→見間違い(錯視)

2つ目は、見間違いです。これらのネタは、見ることをはじめとして、ものごとが分からなくなる失認や錯覚などの知覚障害としてまとめられます。さらに、失認は、ものや体の動かし方が分からなくなる失行(運動障害)に発展します。認知症、不安症、統合失調症などの知覚の異常に分離されます。逆に、この分類でまだお笑いネタになっていないと思われるのは、見えないはずのものが見える(幻視)、幻聴の相手と会話する(対話性幻聴)、グロテスクな体感の異常(体感幻覚)などがあげられます。

③大げさ―意欲の異常

・ヒロシ
「俺より裕福なホームレスを知ってます 」
「うちの子供もヒロシなのって言われても困ります」
「触ってないのに手から草のにおいがします 」
→自虐ネタ。自分はだめだと大げさに思い込んでいます(うつ状態)。

・オリエンタルラジオの「武勇伝」
ボケ:「カーナビの指示を全部無視♪」
ツッコミ:「スゴい!お台場行くのに埼玉経由♪」
ボケ「端から全裸で野球拳♪」
ツッコミ:「スゴい!ただただ裸になりたいだけ♪」

・クールポコ
フリ:「モテようとしてオートロックの部屋に住んでいる男がいたんですよ~」
ボケ:「なあーにぃー?やっちまったなあ!!」
ツッコミ:「男は黙って」
ボケ:「南京錠!」
→自賛ネタ。自分はすごいと大げさに思い込んでいます(躁状態)。しかし、実際は、武勇ならぬ無様(ぶざま)であったり、モテようとして逆にますますモテなくなるおかしさがあります。

3つ目は、大げさです。これらのネタは、うつになったりハイテンションになっているのが特徴です。うつ病や双極性障害などの意欲の異常に分類されます。逆に、この分類でまだお笑いネタになっていないと思われるのは、ひきこもり(無為自閉)があげられます。

④思い込み―思考の異常
・チュートリアルの「妄想ネタ」(2006)
フリ:「自転車のチリンチリンを盗られてんねん」
ボケ:「大丈夫か、おまえ?」「いったん(漫才やめて)帰るか?」「ご両親に言うたんか?」「座れ、座れ」「おまえ、チリンチリン盗られてショックな顔して漫才しとるんか?」「どんな芸人魂やねん!」「無理するな」「強がらんでもええから」(ただならぬ表情で)
→話の内容は、大変な被害に遭ったと思い込み(被害妄想)、壮大なストーリーができあがっています(妄想構築)。


・鳥居みゆきのカルト芸
全身白の服を着て、険しい表情で、「はい!趣味は!立ち飲み!ウォッカ!ジンジャ(神社)!モ・ス・ク!」「ショートコント。ゴルフ。おい、キャディ、パターをくれ。そうそうこの北海道パターを体全体にまんべんなく塗って」「アイアーン、アイアーンって、このバンカー!」「それっ!ヒットエンドラ~ン、ヒットエンドラ~ン。バッティングセンターでバ・ン・ト」と踊り叫び続けます。
→話の形式は、語音が似ている以外、ほとんど脈絡がないです(滅裂)。

4つ目は、思い込みです。これらのネタは、考えが不合理であったり、まとまっていないのが特徴です。統合失調症を代表とする思考の異常に分類されます。逆に、この分類でまだお笑いネタになっていないと思われるのは、無関係なことに関係があると思い込む勘ぐり(関係妄想)、すごい発明をしたと思い込む(発明妄想)、何となく不気味な気分になる(妄想気分)、回りくどい(迂遠)などがあげられます。

⑤気にしい―感情の異常
・ブラックマヨネーズ(2005)
吉田:「運命の人との最初のデートはどこに行く?」
小杉:「ボウリングとかええんちゃう?」
吉田:「でもなあ、ボウリングってなんか汚いイメージあるやろ」「靴とか使い回しやし、ボウリングの球とか誰が入れた穴か分からんやろ」
→小杉の提案に対して、吉田が毎回、神経質に否定的な返答をします(全般不安)

・プラスマイナス岩橋の「やってはいけないことをやってしまうクセ」
・「笑ってはいけない」シリーズで、笑うと罰ゲームを受ける
→やってはいけないと思うとついやってしまう(禁断的思考)

5つ目は、気にしいです。これらのネタは、何かしらに気になっているのが特徴です。不安症や強迫症などの感情の異常に分類されます。逆に、この分類でまだお笑いネタになっていないと思われるのは、「鬼電」(見捨てられ不安)、パニック発作、フラッシュバック、抜毛症、美容整形マニア(醜形恐怖)、ゴミ屋敷(ため込み症)などがあげられます。

⑥キャラ立ち―自我意識の異常
・フットボールアワー(2003)
ボケ役の岩尾が個性的な運転手になりたいと言い、「そんなに東京駅に行きたいのかい?」「どうだい?アクセルを踏まれている気分はどんなだい?」と、SMプレイの女王様の口調で接客を続ける。

・ライセンス(2006)
「大人向けドラえもん」の設定のもと、「(テストで0点だったなんて)オー、ジーザス!」「そんな時は先生にこう言ってやるのさ」とアメリカンコメディ風のドラえもんを演じる。

→キャラになりきる

・トム・ブラウン(2018)
ボケ:「(サザエさんに出てくる)あの中島くんを5人集めて合体させて、最強の中島くん、ナカジマックスを作りたいんですよ~」
→変身

・土佐兄弟
「もしも兄弟が入れ替わったら」との設定の上、おもちゃの取り合いで、兄と弟のそれぞれの行動パターンに、「泣かんかい!」「逃げんかい!」などと相手の知らない戦略のツッコミを入れる。
→入れ替わり

6つ目は、キャラ立ちです。これらのネタは、何かになり替わり、自分が自分でなくなるのが特徴です。解離症や統合失調症などの自我意識の異常に分類されます。逆に、この分類でまだお笑いネタになっていないと思われるのは、幽体離脱(離人症)、記憶喪失(解離性健忘)、憑依(多重人格)、体が勝手に動く(作為体験)などがあげられます。

⑦シュール―意識の異常
・POISON GIRL BAND(2004)
ボケ:「中日の選手の帽子から出てくるのは、おっさんの頭だけなんだ」(中略)「で立浪の頭が出てきたら当たりね」
ツッコミ:「当たり?当たりとかあんの?まあ2000本ヒット打ってるから、立浪の頭が出てきたら当たりなのね」
ボケ:「もう1回引いていいよ」
ツッコミ:「もう1回引いていいの!?帽子を?」「まあ当たりだからね。もう1回引いて落合監督が出たら?」
ボケ:「もう総取り。親の総取りだね」
ツッコミ:「おれは親だったんだ」
ボケ:「そう、12球団の」
ツッコミ:「12球団の!?」「そういうゲームなの?選手たち、立ってんの?ここに?」
ボケ:「そうそうそう」(背筋を伸ばすジェスチャー)
→選手の帽子を取るというくじ引き、その景品が12球団という非現実的なゲームを当たり前のように話す


・バカリズムの「都道府県」
(教師の振るまいで)「はい、先週は日本の都道府県について勉強しました。それでは、おさらいです」
(都道府県の形のイラストを見せて)「ここはどこでしょうか? そうです。青森県です。総人口は・・・総面積は・・・本州の最北端に位置しており、リンゴの生産量が1位の県です。あと、持つとしたら」(下北半島を横からつかむイラストを見せて)「こうですね」「さあ、続いてはここはどこでしょうか? そうです。福井県です。・・・」と生真面目な表情で授業が淡々と進む。ツッコミなし。
→都道府県の持ち方の解説という非現実的な授業をする

7つ目は、シュールです。これらのネタは、ありえない設定や展開によって非現実的であるのが特徴です。せん妄などの意識の異常に分類されます。逆に、この分類でまだお笑いネタになっていないと思われるのは、初めての場所なのに来たことがある(デジャブ)などのタイムスリップ、もう一人の自分が別の場所にいる(ドッペルゲンガー)、母親が替え玉で本物の母は別にいる(カプグラ症候群)、駅前にもう1つ同じ自宅がある(重複記憶錯誤)などのパラレルワールドがあげられます。