連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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・恐怖(ノルアドレナリン)
・自信
・自尊心
・受容
・私メッセージ
・アンガーマネジメント
・コーチング
・アサーション
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みなさんは、相手をどう叱って良いか分からなくて困ったことはありませんか? その相手は、職場の部下や後輩? それとも子どもでしょうか? そもそもなぜ叱るのでしょうか? 一方で、私たちは、できることなら叱らないで済ませたいと思います。叱るデメリットは何でしょうか? そのデメリットを踏まえて、どう叱るのが良いでしょうか? 相手によっては、同じように叱っても無効になったり逆効果になる時は? そして、叱る行為にどうフォローできるでしょうか?
これらの答えを探るために、今回は、学園ドラマの金字塔「3年B組金八先生」を取り上げます。金八先生と言えば、誰もが思い浮かべる「熱血教師」です。彼は、中学校の教員で、国語教師。学級担任をしている3年B組に巻き起こる暴力、いじめ、不登校、リストカット、妊娠、ドラッグ、性同一性障害などの様々な問題に、まさに体当たりで解決しようとします。そんな彼の姿に、生徒たちは心を打たれ、人間的に成長していくのです。
体当たりで生徒や親に向き合う彼のやり方は、令和の時代には、スクールコンプライアンスの点でそぐわないと思う人もいるでしょう。だとしても、彼は叱る上で私たちが忘れかけていた一番大事なものを教えてくれます。彼が叱る時の心のあり方には、令和の時代にこそ再評価するべき普遍性があります。
彼の名セリフを振り返りながら、叱る心理を掘り下げ、子どもにも大人にも使える叱るスキルをご紹介します。そして、私たちが令和の時代にバージョンアップした金八先生になるにはどうしたら良いかいっしょに考えてみましょう。
叱るとは、人間関係(集団)において、目上の人が目下の人の望ましくない言動を指摘することです。金八先生が生徒を叱るのは、叱ることによって、望ましくない行動を抑え、望ましい行動を促すという意図があります(正の罰因子による行動療法)。
なお、叱ることは、恐怖(ノルアドレナリン)の刺激であるため、その学習効果は高く、即効性があります。一方、褒めることは報酬(ドパミン)の刺激であるため、その学習効果は比較的に低くなり、即効性がないために繰り返す必要があります。この違いこそが、叱ることならではの学習効果と言えます。つまり、部下や子どもに二度と同じ過ちをして欲しくないと思った時、褒めているだけでは間に合わず、どうしても限界があるのです。これが、叱る心理です。
叱ることによる学習効果が分かりました。しかし、これは叱る側の金八先生の視点です。叱られる側の生徒にとってはどうでしょうか? 叱ることによるデメリットは、大きく3つあります。
1つ目は、当たり前ですが、相手が恐怖を感じることです。特に、大声で怒鳴られたらなおさらです。
2つ目は、相手が自分はできないと自信を失うことです。特に、一方的に言われたらなおさらです。これは、周り(集団)から「できる」仲間として認められなくなる恐怖でもあります(承認の喪失)。
3つ目は、相手が自分はだめだと自尊心を損なうことです。特に、なじられたり皮肉を言われたらなおさらです。これは、自分の味方がいなくなる恐怖でもあります(関係性の喪失)。
叱ることによる3つのデメリットが分かりました。叱る学習効果を高めるには、これらの叱るデメリットを最小限にする必要があります。これが、叱るスキルです。この点を踏まえて、ここから、叱るために必要な基本要素を3つにまとめてみましょう。
①受け止める
1つ目は、まず受け止めることです(受容)。これが最も大事な叱ることの極意です。これは、金八先生の根底に流れているマインドで、私たちが忘れがちなポイントです。これには、さらに3つの要素があります。
a. 言い分を聞く-確認
金八先生は、クラスで問題が起きるたびに生徒たちの話をよく聞いています。
1つ目は、相手の言い分を聞くことです。例えば、部下がミスをした時、叱る瞬間の第一声は何でしょうか? 「なにやってんだ!?」「だめじゃないか!」という怒鳴り声で一方的になっていませんか? または、幼児の子どもがお友達を押し倒した時、またはうそをついた時に、「押すのだめ!」「うそつくのだめ!」とすぐに命令していませんか?
そうではなくて、まずは「どうしたの?」「何が起きたの?」と相手に状況を説明させて、言い分を聞くことです。これは、たとえこちらが事前にその状況を分かっていたとしてもです。それくらいの心の余裕がこちら側にあることが重要です。これは、同時に、相手にも振り返る心の余裕を与えることになります。
ちなみに、もし相手が何事もなかったように振る舞った場合はどうでしょうか? 例えば、子ども同士のいじめの場面に遭遇した時、「何やってる?」と聞いても、「遊びです」としか答えないなら、どうしましょうか? このままスルーするといじめを黙認したことになります。その時は、一歩突っ込んで、「○○くんを痛くさせようとしてなかった?」とストレートに聞いて揺さぶることです。いじめた子が否定しても、いじられた子が認めたら、さらに介入ができます。いじめた子もいじめられた子も否定した場合(実際よくあるパターンですが)、「そうなの? 良かった~。だって、痛くさせてるように見えたからね」「でも、誤解を招くから、この『遊び』はやらないでね」と一方的にならずに牽制をすることができます。
このような言い分の確認によって、無用な恐怖を相手に抱かせにくくなります。
b. 相手の気持ちになる-共感
金八先生は、「みんな不安を抱えて生きているんですねえ。苦しいことを素直に苦しいと言えば、周りの人間から変だと言われる。・・・いじめも登校拒否もあって当たり前なんですよ。癒しが必要なんです、子どもたちも、世間も。大丈夫だ、がんばろう、明日はきっといいことがある。そう言ってくれる誰かが必要なんですね」(第4シリーズ第7話)と同僚に語ります。
2つ目は、相手の気持ちになることです。これは、「どんな気持ちだったの?」「どんな気持ちになったの?」と聞き出すことです。例えば、「うっかりしてた」「いらいらしてた」「嫌だった」「悔しかった」「悲しかった」などの気持ちだったら、一旦その気持ちを受け止め、「それほどの気持ちだったのね」「そんな気持ちになったのね」と伝えます。
これは、たとえその気持ちを聞くまでもないと思ったとしてもです。そして、たとえその気持ちにこちらがあまり納得できていなかったとしてもです。その時は、「あなたはそう思うのね」「そんな気持ち(考え方)もあるよね」と言うこともできます。
相手が答えられなかった場合は、「びっくりしたね」と中立的な言葉で代弁もできます。また、「悪かったなあと思った?」と助け船も出せば、スムーズな謝罪につなげられます
ちなみに、まだ言い分が言えない乳幼児の子どもの場合、特に「イヤイヤ期」(第一次反抗期)で、すぐに何でも「だめ!」と連呼していませんか? そういう時は、「そのおもちゃが欲しかったんだね」「怒っちゃったんだね」「でもそんなことしちゃだめだよ」と伝えます。これは、その子の心の様子を言葉にして代弁しています。そうすることで、感情には名前があることを理解させ、セルフコントロールを促すことができます。
このような共感によって、「あなたは大切」「私はあなたの味方」というメッセージを伝えることができて、自分の味方がいなくなる恐怖を相手に抱かせにくくします。これは、「共感叱り」と言えます。
c. 相手を認めている-承認
金八先生は、「僕の生徒はどの子もみんなすばらしいです。何ていうか、教えられることが多いというか、秘めたる可能性の固まりというか」(第2シリーズ第5話)と言います。
3つ目は、相手を認めていることです。これは、相手を承認していることを前提にすることです。例えば、「体調悪いの?」「最近、疲れてる?」「何かやむを得ない理由があった?」「いつもはできてるのに、今回はどうしたの?」「あなたらしくないによう見えるけど」と不思議がります。さらに、「もともと能力高い人だと思ってたから」「最近すごい成長してると思ってたから」「自分の力を軽く見てる?」と褒めの要素を付け加えることもできます。
このような承認によって、「あなたは必要」「私はあなたの理解者」というメッセージを伝えることができて、周り(集団)から「できる」仲間として認められなくなる恐怖を相手に抱かせにくくします。
②教える
2つ目は、教えることです。これは、金八先生の長セリフの説教から分かるように、叱ることそのものです。これには、さらに3つの要素があります。