連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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a. 自分の気持ちを伝える-私メッセージ
金八先生は、「人間、勝手に死んじゃいかん。なあ、さっき誰かの発言で死んだ方がましだとかいう発言があったけれど、君たちはまだ15歳。死ぬなんて言葉をそう簡単に使うなよ!」(第4シリーズ第4話)と生徒たちに説教をする名シーンがあります。ただし、これは、令和ではストレートすぎます。令和の金八先生なら、どう言うか考えてみましょう。
1つ目は、自分の気持ちを伝えることです。これは、先ほどご説明したように、まず相手の気持ちを受け止めていることが大前提です。また、伝えるのは、相手の問題点ではなく、あくまで自分の気持ちです。例えば、部下が無断欠勤した時、「そんなんじゃだめだ!」「社会人として失格だ!」とは決して言わないことです。代わりに、「(無断欠勤して)あなたから連絡がなくて困った」「残念」と伝えることです。幼児の子どもなら、「○○くんが叩いた子、痛がってる。かわいそう」「○○くんが叩くのを見るのは悲しい」と伝えます。そして、「~してくれると嬉しい」という提案につなげます。
このように、特にネガティブなことを伝える時は、主語が「あなた」(あなたメッセージ)ではなく、「私」(私メッセージ)であることによって、「相手が悪いと決め付けているわけではない」というメッセージを伝えることができます。
よって、先ほどのセリフは、令和の金八先生なら、共感と合わせて、こう言うでしょう。
「死にたいほどつらかったんだね」「でも、きみが死ぬなんて言葉を使うと私は悲しい」
また、リストカットや援助交際に対して、令和の金八先生なら、どう言うでしょうか?
「見ていて私は悲しい」「あなたをとても大事だと私は思っているから」「私は止めたい」
つまり、「(あなたが)やめなさい」ではなく、「(私が)止めたい」という私メッセージを使うことです。
b. 相手の行動にフォーカスする-限定
金八先生は、「加藤はミカンじゃないんです。米倉先生が言っていました。『腐ったミカンが1個あると、箱のミカンがみんな腐ってしまう。だから腐ったミカンは早めに放り出す』。これが荒谷二中の論理です。しかし、人間つらい目に遭って、あっちこっちぶつけていたら、そりゃあ風通しが悪くなってどこか腐ってきますよ。でも、人間の精神が腐りきることなんてことは絶対にないんです。」(第2シリーズ第6話)、「我々はミカンや機械をつくっているんじゃないんです!我々は毎日人間をつくっているんです!」(第2シリーズ第24話)と力説します。
2つ目は、相手の行動にフォーカスすることです。これは、叱るのは、相手の存在そのもの(人格)ではなく、相手の問題行動に限定することです。よって、先ほどの「無断欠勤は社会人として失格だ!」や「うそついて、なんて悪い子なの!」という言い方は、すでにNGです。そうではなくて、「無断欠勤は問題」「うそはだめ」のように、行動に限定して伝えることです。
また、理由を尋ねる時、「なんでやったの?」という問いただしではない方が良いです。そうではなくて、「何があなたをそうさせたの?」と聞くことです。さらに、「あなたのぐずぐず虫(遅刻癖)をどうやったら飼い馴らせそう?」のように、相手の問題行動を、相手の人格とは別の「○○虫」のようにキャラ付けするのも良いでしょう(外在化)。
さらに、相手が納得していない場合、「どの部分が受け入れにくい?」のように、理解を促すために争点を絞ることもできます。「時間だけは守って」のように解決すべき点を絞ることもできます。
このように、限定することによって、主観的で抽象的なメッセージではなく、客観的で具体的、そして建設的なメッセージを伝えることができます。これは、「限定叱り」とも言えます。
c. 怒ったふりをする-インパクト
金八先生は、「人間として卑怯じゃないか? よく聞きなさい。いじめはやめなさい。もういっぺん言うぞ。いじめはよせ。先生なんべんでも言うぞ。いじめはよせ。」(第4シリーズ第11話)と生徒たちを叱ります。
3つ目は、怒ったふりをすることです。これは、感情的に本気で怒るのではないです。あくまで、理性的に怒ったふりをすることです。「叱るのと怒るのは違う」「叱っては良いけど怒ってはだめだ」とよく聞きます。厳密に言えば、これは、「叱る側にとっては怒ってはだめだが、叱られる側にとっては怒られている感覚が良い」と言えます。なぜなら、叱ることによる最大の学習効果は、恐怖だからです。怒られたという恐怖の刷り込みがなければ、叱ることによる学習効果は期待できなくなるからです。大事なのは、一定の恐怖によるインパクトを与えつつも、相手の自尊心と自信は保つように配慮することです。
例えば、わざと相手をフルネームでゆっくり大きな声で呼ぶことです。人と人との関係として真剣であることが伝わります。そのためには、相手のフルネームを覚えている必要があります。また、「どういうことだね?」「教えてくれまいか?」「よく聞いてくれるかい?」と仰々しく威厳を持たせた言い回しを使うことです。これはただ事ではないという切迫感が伝わります。逆に言えば、感情を殺して「これはルールですから」と理性的に淡々と伝えても、相手の気持ちを揺さぶることはできません。怒りとして伝わらないと、ロボットのように怒らない人だとナメられることもあるでしょう。
このように、インパクトを持たせることによって、問題点に対しての真剣さ、切迫感、重みを伝えることができます。これは、金八先生の生徒を思いやる「熱血」につながります。
ちなみに、注意点として、怒ったふりから本当に怒りのスイッチが入らないようにすることです。その取り組みとして、以前(2019年8月号)にご紹介したマインドフルネスが役立ちます。また、いったんスイッチが入ってしまったら、主に3つの対策が使えます(アンガーマネジメント)。1つ目は、10まで数えることです。これは、怒りのピークは6秒程度だからです。2つ目は、水を飲むことです。これは、飲水が緊張緩和(副交感神経の活性化)を誘発するからです。3つ目は、その場から立ち去ることです(タイムアウト)。これは、怒り刺激の対象が視界から見えなくなるからです。
③考えさせる
金八先生は、クラスのいじめ問題で、いじめ加害者にその自覚がないことに気付き、自分がいじめ役になってロールプレイを行います。そして、いじめがどれだけひどいことか生徒たちに考えさせます(第4シリーズ第4話)。
3つ目は、考えさせることです。これは、叱るというよりは、諭すことになります。一方的な説教ではなく、双方向的な対話です。これが、令和の金八先生のスタイルと言えるでしょう。これには、さらに3つの要素があります。