連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【1ページ目】2022年11月号 映画「二つの真実、三つの嘘」【後編】重症のミュンヒハウゼン症候群とは?【ネタバレあり】

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・病院に居場所を求める
・注目の的
・自作自演
・身体症状のねつ造
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前編では、1つの真実として、メラニーがミュンヒハウゼン症候群であることをご説明しました。後編からネタバレになります。この映画をネタバレなしで見たい方は、先に見てからここに戻って来ていただき、残りの1つの真実と3つの嘘の答え合わせをしましょう。

もう1つの真実とは?

もう1人の主人公であるエスターは、妊娠中で、出産間近でしたが、街中で何者かに暴行され、胎児は死んでしまいます。彼女は、死産になってしまい悲しみに暮れているように見えました。しかし、衝撃的なことに、実はこれは彼女自身が望んで仕組んだものだったことが徐々に明らかになります。つまり、もう1つの真実とは、エスターもミュンヒハウゼン症候群であったということです。

その根拠を5つあげてみましょう。

①病院に居場所を求めようとしているシーンがある

エスターは、入院中に刑事やソーシャルワーカーなどの様々な人とのかかわりがありました。しかし、退院すると、一気に何もなくなり、家で独りぼっちで、うつうつとしています。そして、夜中にふらふらと病院に戻っていき、院内をさまよいます。看護師に呼び止められると、「他に行き場がなくて」「帰らなきゃだめ?」と言うのです。

1つめの根拠は、病院に居場所を求めようとしているシーンがあることです。これは、エスターの心情をよく描いています。なぜなら、病院は必ず誰かが助けてくれる場所だからです。

②エスター本人から頼まれて暴行したとアニカが言っているように見える

エスターにはアニカという恋人がいます。その人が女性であることから、エスターは実はレズビアンであることが分かります。ベッドで話すシーンで、アニカは「浮気しないでね」「あんたのために私は危険を冒したんだから(私があんたにやったことのあとにはね※英語直訳)」「私にはとうてい理解できなかったけど、あんたの頼みだからやった」「他のやつがやると思う?」「あんたを愛しているのは私だけだから」と言っています。

2つ目の根拠は、エスター本人から頼まれて暴行したとアニカが言っているように見えることです。しかし、このシーンの時点で、私たちはさすがにそのようにはぴんと来なくて、アニカが何を言っているのかがはっきり分からないままストーリーが進みます。

③妊娠するための精子はどんな男性のものでもいいと思っているように見える

エスターは手当てを受けた病院で「精子バンクで妊娠した」と刑事に言っていました。退院後に傷が治ると、彼女はバーに行き、こなれた感じで目が合った男性を誘惑します。しかし、セックス中、エスターは無表情で機械的です。セックスをしたくてしているのではなく、ただ妊娠するためにセックスをしているように見えます。「精子バンクで妊娠」も、実は同じように行きずりの男性とセックスしたからではないかと思えてきます。

3つ目の根拠は、彼女がレズビアンで子どもを望んでいるとしても、妊娠するための精子はどんな男性のものでもいいと思っているように見えることです。この点も、私たちは理解できないまま、またストーリーは進みます。

④エスターは母親になりたくないと言っている

エスターは、メラニーに「妊娠中は楽しかった。妊婦だって分かると、みんなが優しくしてくれた。これまで道を歩いてても、誰も気にしない。まるで存在しないみたい。私が注目の的に。知らない人がお腹を触ってくれたり、笑いかけてくれたり。私がいると、周りが幸せに」と話します。しかし、メラニーから「ママになることは楽しみだった?」と聞かれて、エスターは「私は一度もママになりたいと思ったことはないの」と答えるのです。

4つ目の根拠は、エスターは母親になりたくないと言っていることです。メラニーが「理解できない」と言ったように、私たちも理解できません。まるで、初めから妊娠している状態だけを望み、暴行されたことは好都合であったかのように見えてきます。そう考えると、冒頭の妊婦健診のシーンで、エスターが「赤ちゃんの性別を知りたくない」と発言した真意も分かります。

⑤エスター自身も自作自演をしていたことをほのめかしている

エスターは、メラニーに「(死んでいるはずの)あなたの息子を見たわよ」と伝え、メラニーに自作自演がバレていることを気づかせます。エスターは、メラニーから「二度と私に近づかないで」と言われてしまうのですが、その数日後、エスターはメラニーの家に行き、なんとメラニーの息子を溺死させます。その時、エスターはメラニーに「あなたのためにやったのよ」「あなたの代わりにやってあげたの」「これでいっしょになれるね」「もう嘘はだめよ」「私たちは同類でしょ」と言うのです。この時、ようやく全てがつながります。

5つ目の根拠は、エスター自身も自作自演をしていたことをほのめかしていることです。そして、ためらいなく殺人ができている点から、エスターはメラニー以上に反社会的な行動への罪悪感がないことがうかがえ、胎児殺しをアニカに頼むことができたと考えることができます。なお、アニカも顔にタトゥーを彫るような反社会的なキャラクターとして描かれているため、その頼みを引き受けることができたと考えることができます。さらに、エスターはレズビアンであったことから、「同類」であるメラニーに親近感を抱いて好きになってしまったと考えることができます。

なお、エスターは、その時にメラニーの夫が同じ家にいるのが分かっていたのに、犯行に及んでいました。この点については、エスターは、後先をあまり考えないくらい知能は低いことが考えられます。