連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【3ページ目】2024年4月号 本「ギネスブック」2位じゃダメなんでしょうか?―「天才ビジネス」のからくり

【おまけ】

先ほどまで、私たちが「1位バイアス」「天才ビジネス」にとらわれている心理に迫りました。ここからはおまけとして、私たちが2位以降の順位付け(ランキング)にもとらわれている心理を掘り下げます。

ランキング上位であるというだけで価値が生まれる

世の中では、「〇〇ランキング」「〇〇の格付け」が溢れています。もちろん、私たちがそれを参考にして、物を買ったりサービスを利用して、社会生活をより充実させているのはよく分かります。ちなみに、このコラムにも「人気記事ベスト3」を自動更新できるようにして表示しています。

しかし同時に、ランキングが上位であれば、勝手に好印象を持ってしまってもいます。つまり、人気(価値)があるからランキング上位であったのに、ランキング上位であるというだけで人気(価値)が出るようになってしまっています。これは、先ほどにも触れた権威バイアスによるものです。

逆に人気を生み出すためにランキングをつくる

よくよく考えると、細かく順位付けする必要がないものまでも、私たちはランキングがあるとつい見てしまいます。例えば、先ほども触れたお笑いや、演技、美術品です。また、ギョーザ好きの地域、本好きの地域などです。これらは、好きか、楽しめるか、価値があるか自分で決めればいいだけで、他の人や地域全体がどうかは気にする必要はないはずなのにです。これは、心理学で比較癖とも呼ばれています。

つまり、もともと価値があるからランキングをつくっていたのに、逆にランキングをつくることで価値を生み出しています。これは、ランキングによって注目度を高めていることから、「ランキングビジネス」と名付けることができます。これも、権威バイアスによるものです。もっと言えば、そのランキング自体(ランキング会社)にも、それだけ注目されるために価値が生まれています。

このランキングビジネスを巧妙に利用しているのが、進学校の偏差値ランキングや有名大学に進学する出身高校ランキングです。情報化した現代社会で、高校にしても大学にしてもその教育機能にそれほど差はないでしょう。「秘伝の教育メソッド」があったとしても、すぐに広まります。しかし、このようなランキングがあることで、より偏差値ランキング上位の学校に、より偏差値ランキング上位の生徒が集まります。よほどその学校が世間とズレた教育をしていない限り、特に上位の学校のランキングは不変です。当たり前の話です。

つまり、学校間のランキングに差があるとしたら、それは学校教育そのものにあるのではなく、集まる生徒のもともとの認知能力にあるということです。

そもそもなんでランキングにとらわれているの?

それにしても、そもそも私たちはなぜこれほどにもランキングにとらわれているのでしょうか?

進化心理学的に考えれば、私たちの祖先がまだ類人猿だった約2000万年前、彼ら(サルたち)はケンカの強さをもとにした序列(上下関係)によって群れをつくるようになったでしょう(社会性)。実際に、集団で暮らすサルたちは、ケンカしている仲間の2匹のサルを見て、それぞれ自分との力関係を推し量っていることが分かっています(*2)。これが、ランキングの起源であり、比較癖の起源です。

つまり、私たちがランキングにとらわれているのは、人類が社会(集団)を維持するために必要な機能の1つだったからです。その後に、先ほどご紹介した脳の解釈装置(概念化)が発達したことによって、そのランキングに過剰な価値が付けられるようになったのです。これが、権威バイアスの起源です。

★グラフ2 バイアスの起源

参考文献

*1 「脳科学的に正しい一流の子育てQ&A」P5:西剛志、ダイヤモンド社、2019
*2 「人は感情によって進化した」P47:石川幹人、ディスカヴァー携書、2011