連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【1ページ目】2024年4月号 本「ギネスブック」2位じゃダメなんでしょうか?―「天才ビジネス」のからくり

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・心の癖(認知バイアス)
・「1位バイアス」
・概念化
・自閉スペクトラム症
・統合失調症
・権威バイアス
・「ランキングビジネス」
・比較癖
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みなさんは、世界一と聞くとワクワクしませんか? 様々な世界一の記録を集めた本がギネスブック、現在の正式名は「ギネス世界記録」です。そして、これは独自のガイドラインに従って世界一の記録を認定する組織でもあります。それにしても、あの政治家の有名なセリフを借りれば・・・

世界一になる理由は何があるんでしょうか?

2位じゃダメなんでしょうか?

今回は、ギネスブックを取り上げます。いつもと違い、シネマセラピーのスピンオフバージョン、「ビブリオセラピー」(読書療法)としてお送りします。この本を通して、私たちの心に潜む、1位に過剰な価値を付けたがる心理を掘り下げます。その心理を踏まえて、1位から「天才」を祭り上げる「天才ビジネス」のからくりにも迫ります。

さらに、おまけとして、2位以降の順位付け(ランキング)も気になってしまう心理も掘り下げてみましょう。

1番であることで過剰に価値が付けられる

ギネスブックでは、「最も」という言葉によって、大きさ、長さ、多さ、そして速さなどを主に認定しています。例えば、これまで最も高い身長は272cmで、その人の写真を見たことがある人は多いでしょう。一方、2番目に身長が高い人は知らず、そこまで興味もありません。やはり、1番であることに特に大きな注目が向きます。実際に、2番目はギネスブックに載りません。しかし、世界で何千番目であっても、日本で1番目となると、また気になります。

私たちは、当たり前すぎてあまり気にも留めませんが、明らかに何かで1番であることで過剰に価値が付けられていることが分かります。これは、私たちの心の癖(認知バイアス)です。しかし、このバイアスには名前が見当たりません。近いバイアスとしては、 権威によって価値が付けられる権威バイアスがあげられます。しかし、このバイアスは1位だけでなく、2位以降の人たち、専門家、権力者にもかかり、概念として広いです。また、希で少ないことで価値が付けられる希少性バイアスがあげられます。しかし、このバイアスは1番ではなくても、ただ稀で少ない人や物にもかかり、概念としてやはり広いです。

よって、より正確に言えば、「1位による権威1位以上は1人だけという希少性の両方の要素を併せ持ったバイアス」です。ただ、長たらしいので、この記事では「1位バイアス」と名付けます。

逆に価値を付けるために1番になるカテゴリーがつくられる

ギネスブックでは、走りながら手作業をするなど、2つの行動の組み合わせの「最も」も多数認定されています。また、「最も」多い人数でやる同じ行動も認定されています。さらに、16歳未満の「子ども限定記録」の部門も新しくできています。あまりにも細分化されてしまい、「記録のための記録」になっているようにも見えてきます。

つまり、もともとあるカテゴリーで1番であることに価値が付けられていたのに、逆に価値を付けるためにあえて1番になるカテゴリーがつくられるようになっています。すごいから1番なのではなく、1番だからすごい(はずだ)という認知的なすり替えが起きています。

これは、世界的に有名なあるサッカー選手の名言にも通じます。それは、「強い者が勝つのではない。勝つ者が強いのだ」です。私たちは「強い者」(1番)につい目が行きがちだけど勝負の世界は分からないよというメッセージです。

逆に、このような「1位バイアス」をうまく利用することもできます。例えば、プロフィール紹介で、「大学で首席だった」は分かります。しかし、「全国模試で1位だった」は中身がよく分からないですが、何かすごそうと印象付けることができます。

そもそもなんで1番であることで過剰に価値が付けられるの?

それでは、そもそもなぜ1番であることで過剰に価値が付けられるのでしょうか? もちろん、特許や著作権などの権利を第一人者に与える法的な場合は分かります。しかし、そうじゃない場合はどうでしょうか?

その答えは、脳の解釈装置が働くからです。これは、概念化と呼ばれています。私たちの脳は、社会生活を送る中、全ての体験をそのまま丸ごとは覚えきれません。そのため、ざっくりとしたイメージや言葉(概念)に置き換えています。

進化心理学的に考えれば、原始の時代、例えば「一番のしっかり者が長(おさ)」としてみんなが認めたわけですが、年を取ってしっかりしなくなっても「長(おさ)だから一番のしっかり者」とみんな思い込んでいた方が、リーダーが簡単に交代せずに部族の上下関係が安定します。「一番助け合うから親友」として認めたわけですが、疎遠になっても「親友だから一番助け合う」と思い込んでいた方が、協力関係が保てて人間関係が安定します。「一番すばらしい異性が自分の妻(夫)」として選んだわけですが、年月が経っても「自分の妻(夫)だから一番すばらしい」と思い込んでいた方が、離婚せずに家族関係が安定します。このように解釈(概念化)に偏り(バイアス)があった方が、部族としてより生き残り、夫婦としてより子孫を残したでしょう。このような「長(おさ)」「親友」「夫婦」などは概念であり、これが、「1位バイアス」という概念化の起源です。

これは、「すごい」ということ(概念)にすごいと思うことです。ちょうど、逆の「ダメだ」ということにダメだと思うマイナス思考(回避性パーソナリティ)や、不安であることに不安に思う予期不安(パニック症)と同じ心理メカニズムです。なお、概念化の起源の詳細については、以下の記事をご覧ください。


>>【概念化の起源】