【2ページ目】2025年1月号 映画「クワイエットルームにようこそ」【その5】と言うことはこれをすれば医療保護入院は廃止する前に廃れる!―扶養義務の縮小
扶養義務が法的に縮小されると何が良いの?
扶養義務は実質的には縮小されていることが分かりました。それでは、その実情に合わせて、法的にも扶養義務が縮小されると、どんなベネフィットがあるでしょうか?
まず、やっと家族は扶養義務の呪縛から解放されます。これまで法的には扶養義務があることで、結果的に「親に扶養義務があると思い込む→それなら同居する→扶養義務が生じる」という誘導が起きていました。国による扶養圧力もまさにこの流れの強化を狙っていたでしょう。このトラップに気づき、「別居すれば扶養義務がないことを知る→別居する→扶養義務が生じない」という逆の流れをそれぞれの家族がつくり、扶養しない新しい文化をつくる必要があります。
こうすることで、もはや義務感から親は子どもと同居しなくなります。成人したら家を出ていけと堂々と言えます。すると、子どもは親の扶養を当てにできなくなるため、モラルハザードとして生まれていたひきこもりは当然減るでしょう。さらに、自立するために学校に行く必要があると考えるようになり、不登校も減るでしょう。また、義務感から病気の家族や老親の介護をしなくなります。障害年金や介護サービスなどの社会保障に任せ、家族が抱え込む介護問題も減るでしょう。
同じように、成人した子どもにたとえ精神障害があっても、実家暮らしの選択肢を与えず、一人暮らしやグループホームを選ばせることができます。これは、本人の心理的自立を促すだけでなく、親は心理的に支援するだけの存在という線引きができます。すると、入院するかどうかについては、提案することはしても、最終的には本人の意思を尊重するでしょう。そもそも同居していないので親は直接的に困ることはなく、わざわざ入院費(3か月で少なくとも10数万円程度)を払いたくないでしょう。しかも、その2でも触れたように、強制入院ビジネスとあいまって、1回同意したら撤回できないとされため、延々と入院費を払わされるおそれもあります。こうして、医療保護入院に同意も反対もしない家族が増えるでしょう。
これは、意思表示をしない権利を選んだだけであり、何の後ろめたさも引け目も感じる必要はないです。こうして、医療保護入院は廃止するかどうかの前に、利用されなくなり廃れていくことが見込めます。これは、扶養義務が形式的には広範なのに実質的には縮小されているのと同じ構図です。
実は、すでにそのほころびが見え始めています。なぜなら、その1でご説明した市町村長同意がそもそも拡大されたのも、核家族化によって明日香のように家族がいても疎遠なために家族同意の意思表示が示されないケースが増えているからでした。
以上より、扶養義務の法的な縮小は、日本のさまざまな社会問題を引き起こす「直系家族病」への根治治療になるでしょう。逆に、もともとのリスクを踏まえて、それでも成人した子ども、病気の家族、老親と同居して扶養したい人だけがそれを選択すればいいだけの話になります。選択的夫婦別姓と同じように、「選択的扶養」です。
医療保護入院が廃止されると何が良いの?
扶養義務が法的に縮小されることによって、医療保護入院は廃れていく運命にあることが分かりました。それでは、最終的に医療保護入院が廃止されると、どんなベネフィットがあるのでしょうか?
大きく3つ挙げてみましょう。
①人権侵害が改善される
1つ目は、当然ながら人権侵害が改善されることです。これは、国連の改善勧告を受け入れた形になります。
②精神障害者の自立が促進される
2つ目は、やっと精神障害者の自立が促進されることです。先ほど触れた不登校やひきこもりが減っていくことが見込まれるのと同じように、精神障害者はもはや家族から扶養され保護される対象ではなく、お互いに精神的に自立した大人の関係、対等の関係を築くことができます。
これは、親子関係においても、夫婦関係においても言えることです。
③医療費が大幅に削減できる
3つ目は、ついに医療費の大幅な削減ができることです。1回の入院(3か月)で、患者(家族)の自己負担は約10数万円とご説明しましたが、これは高額医療費負担制度を利用しているからです。公的負担は一人あたり約300万円(1日あたり3.3万円)です。ここから入院患者13万人の医療費を単純計算すると、3.3万円× 365日×13万人=1.5兆円というとんでもない額になります。この多くが、もともと不要な 強制入院ビジネスに流れていたわけです。