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・乳幼児発達心理学
・「乳児脳」
・進化心理学
・子育て心理
・無条件の愛情
・協力関係
・想像力
・脱中心化
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みなさんは、「アンパンマン」をご存じでしょうか?顔があんパンでできた、子どもたちの人気ヒーローですね。特に、3歳児までに絶大な人気があります。それにしても、なぜ人気があるのでしょうか?そして、4歳児からなぜ人気がなくなるのでしょうか?そもそもなぜ自分の顔を食べさせるヒーローが子どもに受け入れられるのでしょうか?

今回は、「アンパンマン」の人気の謎に迫ります。そして、そこから乳幼児の心の成長を発達心理学的に読み解き、心の起源を進化心理学的に掘り下げ、より良い子育てのやり方とあり方についての子育て心理に応用してみましょう。

なぜ3歳児までに人気があるの?―「乳児脳」

まず、アンパンマンはなぜ人気があるのでしょうか?それは、3歳までにすさまじいスピードで発達する「乳児脳」とも呼ばれる独特の心理と深い関係があります。その答えを3つ挙げ、乳幼児発達心理学、進化心理学、そして子育て心理に重ねてみましょう。

①捨て身で守ってくれる―無条件の愛情のシンボル
アンパンマンは、お腹のすいた人(子ども)のもとに降り立ち、自分の顔をちぎって、喜んで食べさせます。そして、顔の一部がなくなると、力がなくなり飛べなくなります。すると、ジャムおじさんができたての新しい顔に取り替えてくれます。ちなみに、アンパンマン自身はものを食べることはありません。
1つ目は、捨て身で守ってくれることです。困っている人には、必ず、無条件に、自己犠牲的に助けてくれる存在であることです。それを、視覚的に分かりやすく描いています。そして、アンパンマン自身は食べないという設定から、困っている人には気兼ねさせずに一貫して食べさせる存在になれます。また、アンパンマンの顔は、ジャムおじさんによって新しく作られるため、なくならないという安心感もあります。

発達心理学的に見ると、乳児は、泣けば必ず母親から授乳してもらえると認識しています。まさに、象徴的には、アンパンマンの顔はおっぱいと言えるでしょう。乳児がおっぱいを吸うと、オキシトシンというホルモンが母親の脳内で分泌され、お乳が出やすくなります。この時、同時に母親は自分の子どもを大切にしたいという気持ちが連動して高まります(愛情)。一方、乳児は、抱っこ、愛撫などによる肌の触れ合いがあると、乳児の脳内でも同じようにオキシトシンが分泌されることが分かっています。この時、同時に乳児はその母親にくっついていたいと思う気持ちが連動して高まります(愛着形成)。そのため、泣くだけでなく、機嫌が良い時は鼻にかかったような柔らかな音を出したり(クーイング)、笑顔を見せるようになります(社会的微笑)。

つまり、親の愛情と子どもの愛着は相互作用をして高まります(共発達)。そして、これらの高まりは、オキシトシンの分泌や受容体の増加と密接な関係があります。よって、オキシトシンは、「愛情ホルモン」「愛着ホルモン」「絆ホルモン」とも呼ばれています。さらに、乳児にとって、母親を初めとして父親や祖父母なども含めた家族は、自分を無条件に大切にしてくれる安心で安全な心のよりどころであると認識していきます(愛着対象)。これが土台となり、成長するにつれて家族だけではなく他人とのかかわりも求めるようになっていきます。

進化心理学的に見ると、哺乳類が約2億年前に誕生してから、その母親は子どもを哺乳する、つまり乳を与えて育てるというメカニズムを進化させました。これは、自分の栄養を与えるという自己犠牲の上に成り立っています。飽食の現代では想像しにくいですが、常に飢餓と隣り合わせの原始の時代、それでも母親は命がけで自分の栄養を子どもに分け与えて、子孫を残してきました。人類が700万年前に誕生してから、もちろん父親も、猛獣から体を張って子どもを守り、子孫を残してきました。当時から、そうしたいと思う母親や父親の心理と、そうされたいと思う乳児の心理(愛着)が共に進化していったのでしょう(共進化)。

ちなみに、比較動物学的には、サルなどの類人猿も、もちろん哺乳類で愛着形成があります。ただし、サルと人間の違いは、サルの乳児はあまり泣かないことです。その理由は、サルの乳児は生まれてすぐに母親の胸に自力でしがみつくことができるため、いつでも哺乳ができて、しかも天敵が来てもそのままいっしょに逃げることができるため、親の関心を引く必要がそれほどないからです。そもそも泣けば、それだけ天敵に気付かれるリスクを上げるため、泣くことはデメリットでもあります。一方、人間の乳児は、頭部を大きく進化させた代償として、母親の産道を通過するために、サルと比べて未熟児で生まれるように進化しました(生理的早産)。よって、生まれてしばらくは寝たままの状態になるため、親の関心をできるだけ引いて、天敵に見つかるリスクを上回って、生存の確率を高めたのでした。
 子育て心理に応用すると、いつもあなたは大切であると言語的にも非言語的にも伝え続けることです。例えば、イヤイヤ期(第一次反抗期)になって、腹が立って叱ったとしても、その後すぐに切り替えて、「それでも○○ちゃんは大好きよ」と優しく明るく抱きしめることです。アンパンマンもどんな時も守ってくれる味方であるという無条件の愛情のシンボルです。だからこそ子どもに受け入れやすいと言えるでしょう。

②みんなと仲良くする―協力関係のモデル
アンパンマンは、敵役のばいきんまんと永遠に戦っています。しかし、アンパンマンは、ばいきんまんを憎んでいません。みんなに迷惑をかけていることに厳しいだけで、むしろ仲良くしたいと思っています。よって、ばいきんまんを完全にやっつけるわけではなくただ追い払っているだけで、最後はいつも、ばいきんまんが「バイバイキーン」と捨て台詞を言って、家(バイキン城)に逃げ帰っています。ばいきんまん自身のキャラクターも、欲張りで食い意地が張っていたずら好きですが、単純で間抜けな愛すべきキャラクターです。

2つ目は、みんなと仲良くすることです。アンパンマンワールドは1つの大きなファミリーです。例え困ったキャラクターがいても、仲間の一員とみなし、平和的に共存しています。

発達心理学的に見ると、親が、あやしている時に、乳児の気持ちを共感的に汲み取って声かけや表情で鏡のように映し出します(ミラーリング)。すると、その乳児は親の動きのインプットと自分の動きのアウトプットを同じ脳のネットワークで処理するメカニズムを働かせるようになります(ミラーニューロン)。つまり、親が乳児の鏡(ミラー)になるのと相互作用して、乳児が親の意図と動作を同じくする「鏡の神経」(ミラーニューロン)を発達させていきます。こうして、乳児は、親のまねをするようになります(模倣)。その後、幼児になって保育園や公園などで、他の幼児といっしょになり、場所やおもちゃを取り合うなどのぶつかり合いやいざこざが起きます。この時、親などの周りの働きかけによって、最初は単純に抵抗するだけだったのが、やがて順番で共有すること、分け合うこと、じゃんけんをすることなどによって、仲良くすることができるようになります(社会性)。

そして、自己主張と自己抑制のバランスをとるセルフコントロールを発達させていきます。これが土台となり、成長するにつれて、より高度で複雑化したコミュニケーションをするようになっていきます。

進化心理学的に見ると、人類が約700万年前にアフリカの森に誕生し、約300~400万年前に草原(サバンナ)に出てから、母親と父親と子どもたちがいっしょに暮らす家族をつくりました。しかし、草原だからこそさらに猛獣に狙われたり、食料が獲れないという自然の脅威がありました。それでも、生き残るために、より大きな血縁集団をつくって、競い合いながらも助け合う中、相手の心を読む、つまり相手の視点に立つ心理を進化させてきました(心の理論)。

ちなみに、比較動物学的には、サルなどの類人猿も、ミラーニューロンがあり、まねをします。ただし、サルと人間の違いは、サルは意図までは「まね」できない、つまり意図は理解できないことです。その理由は、サルのミラーニューロンの働きは、他のサルの次の動きを予測して素早く対応できれば良いだけで、意図まで理解する必要がないからです。

子育て心理に応用すると、同じ幼児同士がいっしょになった時、たとえ相手がばいきんまんに見えたとしても、最初は「いいよ」「どうぞ」というアクションや「ありがとう」「うれしい」というリアクションをするように働きかけることです。このような、譲り合いや、あげる・もらう(ギブ&テイク)というやりとりの積み重ねを通して、時には距離を取りつつ、粘り強く仲良くなろうとすることです。アンパンマンは誰とでも仲良くするという協力関係のモデルです。だからこそ子どもに受け入れやすいと言えるでしょう。

③様々な心を教えてくれる―想像力のツール
アンパンマンワールドには、アンパンマン、ジャムおじさん、ばいきんまん、ドキンちゃんなどのメインキャラクターだけでなく、2000を超えるユニークなサブキャラクターたちがいます。その数は、「最も多いキャラクターが登場した単独のアニメーション・シリーズ」としてギネスブックに認定されるほどです。また、ばいきんまんだけでなく、かびるんるん、骸骨親子のホラーマンとホラ・ホラコなど、目に見えないものまでキャラクターにしています。

さらに、ジャムおじさんとバタコさんは唯一の人間かと思いきや、人間の姿をした妖精という設定で、なるべく人間のリアリティを排除したファンタジーに仕上がっています。さらに、ばいきんまんが好きなドキンちゃんはしょくぱんまんが好きであるという三角関係や、みんなの前で威張っているばいきんまんがミミ先生(教師)の前ではかしこまるなどの上下関係が描かれるなど、いろいろなキャラクター同士の関係性も描かれています。

3つ目は、様々なキャラクター(心)を教えてくれることです。それぞれのキャラクターの際立ったビジュアルから、性格や役割の違いを理解して、そのキャラクターらしさ(その人らしさ)を受け止めやすくなります。

発達心理学的に見ると、乳児は、親の共感的なミラーリングによって、共感するミラーニューロンも発達させていきます。そして、自分の気持ちの変化を認識できるようになります。その後、幼児になって、徐々に家族や他の様々なお友達の気持ちの変化も察して、心を通わせようとするようになります(共感性)。この時、身の周りには、人だけでなく、自然物から人工物まで様々な物があることにも気付くようになります。その過程で、自分を初めとする人に心があるように、万物にも心があると認識します(自己中心性)。これが土台となり、成長するにつれて、相手の気持ちを推し量ったり(心の理論)、思いやりを持つようになっていきます(愛他行動)。

進化心理学的に見ると、現生人類が約10~20万年前に喉の構造を進化させてから、複雑な発声ができるようになり、言葉を話すようになりました。そして、言葉によって抽象的に考えることができるようになり、相手の視点に立つ心理は、人間だけでなく、自然や動物などあらゆるものに向けられ、それらとも協力関係を築こうとしました(アニミズム文化)。

ちなみに、比較動物学的には、サルなどの類人猿も、共感します。ただし、サルと人間の違いは、サルの共感は痛み、恐れ、怒りなどの不快な感情に限定されていることです。その理由は、サルの共感は、他のサルの不快さを素早く感じ取って自分の身に降りかかるかもしれない危険を事前に避けることができれば良いだけで、喜びや安らぎなどの快の感情まで共感する必要がないからです。

子育て心理に応用すると、相手の心、さらには人だけでなく身の回りの物の心も考えさせることです。例えば、子どもがいっしょにいる同じ幼児を押しのけた時、「押すのはだめ」とただ厳しく叱るよりも、「お友達は痛いって言ってるよ」と情緒的に伝えることです。また、食事の時にスプーンでお皿を叩いている時、「叩くと壊れるからだめ」と理屈で叱るよりも、「スプーンでお皿を叩くの、ママは嫌だよ」「スプーンとお皿が痛いって言ってない?」とやはり情緒的に伝える方が受け入れやすいでしょう。アンパンマンワールドのキャラクターたちは、様々な人や物の心に思いを馳せるという想像力のツールです。だからこそ子どもに受け入れやすいと言えるでしょう。

★グラフ1 「乳児脳」と進化心理の関係

なぜ4歳児から人気がなくなるの?―脱中心化

それでは、アンパンマンはなぜ4歳児から人気がなくなるのでしょうか? その答えは、発達心理学的に考えれば、特に3~4歳時以降に発達する「なぜ?」という理屈を考える心理です。この時、表面的で主観的な物の見方から(自己中心性)、体系的で客観的なものの見方に変わっていきます(脱中心化)。

進化心理学的に考えれば、現生人類が約10~20万年前に言葉を話すようになってから、抽象的に考える概念化の心理(脳)が進化しました。そして、概念化によって、原因と結果をつなぐ論理的思考が可能になり、ものごとの理屈が合うかを判断する心理が強まりました(合理性)。さらに、脳の重さで考えると、小学校1年生(6~7歳)で成人の脳の90%に達することが分かっています。まさに、乳幼児の脳の発達は、人類の心(脳)の進化の歴史を辿っているとも言えます。

すると、先ほどの3つのアンパンマンの特徴は、4歳以降の子どもにどう映るでしょうか?

①自分の顔をちぎってなぜ痛くないの?
1つ目は、このような身体のメカニズムを考えることです。顔をちぎったり取り替えたりすることについて、3歳までは無邪気に面白がるのですが、4歳以降はその重大さや残酷さが少しずつ分かるようになります。これが、自分の顔を食べさせるヒーローが、3歳までの子どもにしか受け入れられない理由です。実際に、初代アンパンマンの絵本は、出版社から次作を止められるほど大人には不評でした。ところが、幼稚園や保育園から注文が殺到します。その子どもたちから一番ウケたのは「アンパンマンが頭をかじらせるところ」だったのでした。その後のアニメ化で、「かじらせる」から「ちぎって渡す」というふうにマイルドになり、今に至っています。

また、ヒーローのビジュアルとしては、単純な顔立ちに3等身で全体的に丸み帯びてぼんやりした素朴な姿です。親しみやすさがある一方、不格好です。よって、4歳以降の子どもは、美形・モデル体型で尖っていてキラキラした身なりの、戦隊ヒーロー、ロボットヒーロー、少女戦士に興味が移っていきます。

②悪いことをしてなぜ罰を受けないの?
2つ目は、このような善悪のルールを考えることです。ばいきんまんが周りに迷惑かけ続けることについて、3歳までは「嫌だなあ」と感情的に思うだけなのですが、4歳以降は親からのしつけの理解が進んでいくにつれて、「何とかしたい」「懲らしめなければ」と思うようになります。ばいきんまんは懲りていないけどアンパンマンも懲りていないということに気付くのです。アンパンマンは優しすぎるのです。それは、ばいきんまんに対してだけでありません。アンパンマンは、アンパンマンワールドの弱いキャラクターたちをかばった結果、それが甘やかしにつながってしまったことをジャムおじさんに指摘されています。

また、ヒーローのポテンシャルとしては、アンパンチやアンキックには殺傷能力がなく、助けに行ったはずなのにしょっちゅう返り討ちにあい、逆に助けを求めてしまうことが多いです。ほのぼのと安心して見ることができる一方、物足りないです。アンパンマンは、史上最弱の情けないヒーローと言えるでしょう。よって、4歳以降の子どもは、特殊能力や武器の使用、柔軟な発想や知恵によって、敵にとどめを刺したり爆破したりする、戦隊ヒーロー、ロボットヒーロー、少女戦士に興味が移っていきます。

③物に心があるってなぜ分かるの?
3つ目は、このような根拠のレベルを考えることです。身の周りの様々な物に心があることについて、3歳までは疑うことはないのですが、4歳以降は自力で動くか動かないかで、5歳以降は成長するかしないかで、生物と無生物の違いが分かるようになります(素朴理論)。つまり、物に心があることに根拠がないと気付くようになります。

また、アンパンマンワールドの世界観として、人間がいないファンタジーになっています。空想として気楽に見ることができる一方、リアリティがないため、ツッコミどころ満載で、耐えられなくなります。よって、4歳以降の子どもは、人間臭いリアリティ仕立てのストーリーが展開する、戦隊ヒーロー、ロボットヒーロー、少女戦士に興味が移っていきます。

★表1 アンパンマンの3つの特徴

アンパンマンとは? ―「子育て脳」

アンパンマンは、困っていれば捨て身で守ってくれるシンボルであり、誰にでも優しくみんなと仲良くなるモデルであり、アンパンマンワールドの仲間たちは様々な心を教えてくれるツールです。その点では、最弱のヒーローでありながらも、最初のヒーローとして欠かすことができないでしょう。

子どもが4歳になって、そんなアンパンマンから心が離れる時、アンパンマンは寂しく思いつつも、そんな子どもたちにきっと温かいエールを送っているでしょう。そして、その子どもが親になって、子どものことをまず考えるアンパンマンの側に立った時、再びアンパンマンに感謝と敬意を払うようになるでしょう。子育て心理とは、まさに「乳児脳」といっしょに発達する「子育て脳」とも言えるでしょう。

つまり、アンパンマンとは、子どもであった私たちの憧れであると同時、親になった私たちの分身であるとも言えるのではないでしょうか?

参考文献

1)ユリイカ2013年8月臨時増刊号「やなせたかし アンパンマンの心」
2)乳幼児のこころ:遠藤俊彦ほか、有斐閣アルマ、2011
3)生涯発達心理学:鈴木忠ほか、有斐閣アルマ、2016
4)まねが育むヒトの心:明和政子、岩波ジュニア新書、2012