連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【1ページ目】2020年8月号 映画「イエスマン」-【前編】どうすればポジティブになれるの? でも、そのデメリットは?

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・アメリカ文化
・日本文化
・リスクへの鈍感さ
・否認の心理
・対人関係への鈍感さ
・演技性パーソナリティ
・不完全への鈍感さ
・ADHDの不注意症状
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みなさんは、ポジティブになりたいですか? 国際的に見ると、日本は、ネガティブな人が多いことが分かっています。どうすればポジティブになれるのでしょうか? 一方で、そのデメリットはないでしょうか? 逆に、ネガティブであることのメリットは何でしょうか?

これらの答えを探るために、今回は、映画「イエスマン」を取り上げます。この映画を通して、ポジティブさとネガティブさを文化心理学的に、進化心理学的に解き明かします。ネガティブになりがちな日本人だからこそ、ポジティブになることについて考えてみましょう。

ネガティブになるデメリットは?

主人公のカールは銀行員。2年前に離婚してから、仕事もプライベートもノーと言い続けるネガティブな人生を送っていました。ここから、カールの様子を通して、ネガティブになることのデメリットを3つあげてみましょう。

①動けなくなる
カールは、銀行の融資の相談を全てノーと言い、何もしません。そのため、利益が上がらず、昇進はできず、行き詰まっていました。

1つ目は、動けなくなることです。この心理は、神経質や心配性に通じます。精神医学的に言えば、全般不安症につながるでしょう。

②嫌われる
カールは、友人の誘いへの答えをうやむやにして、付き合いが悪くなります。そのため、周りから相手にされなくなっていました。

2つ目は、嫌われることです。この心理は、自分がないという消極性に通じます。精神医学的に言えば、社交不安症回避性パーソナリティにつながるでしょう。

③退屈になる
カールは、独り自宅でレンタルDVDを見るだけの生活をしています。変わりばえのない単調で規則的な日常を送って、悶々としていました。

3つ目は、退屈になることです。この心理は、その退屈さから細かいことを気にする潔癖症や完璧癖に通じます。精神医学的に言えば、強迫症の不潔恐怖や不完全恐怖につながるでしょう。

ポジティブになるメリットは?

ネガティブになるデメリットは、動けなくなる、嫌われる、退屈になるということが分かりました。カールは、そんな中、知り合いから自己啓発セミナーに誘われ、恐る恐る参加します。彼は、カリスマ主催者から「全ての決断にイエスと言うことを誓いなさい」「さもなければ災難が訪れる」と説かれます。その後、その教えに従ったカールの人生は、ガラリと変わっていくのです。

ここから、彼の変化を通して、ポジティブになることのメリットを3つあげてみましょう。

①チャンスが増える
カールは、何でもイエスと言い続けることで、何事にも次々とチャレンジするようになります。誘われたライブに行ったことで、ガス欠の時にたまたま助けてくれたアリソンに再開し、恋が芽生えます。さらに、ギターのレッスン、飛行機の操縦トレーニング、韓国語の教室に通います。それが、後々に、彼の人生に生きてくるのです。自己啓発セミナーのパンフレットには、「イエスと言えば、いつも何か良いことが起きる」「どんなチャンスも逃さないで」と書かれていました。

1つ目は、チャンスが増えることです。イエスと言うことは何か行動を起こすことなので、確実に出会いやチャンスは増えるでしょう。

③好かれる
カールは、休日出勤にもイエスと言うようになったため、上司に気に入られて、昇進します。友人たちに、自分がイエスマンになったことを告げ、おごることにもためらいません。友人のブライダルシャワーの幹事を引き受け、人気者になっていきます。

また、カールは、銀行での個人の融資の相談に全てイエスと答え、超小口の融資を次々と乱発します。しかし、完済率は98%になり、大きな利益を上げるのでした。そのわけは、顧客たちは、彼に信用されたと思い、彼に感謝し、好感を持ったからでした。そして、彼は幹部に出世していきます。

2つ目は、好かれることです。実際に、ギャロップ社による問題社員の研究(2014)によると、上司が主に部下の弱みを見ていると部下が感じている場合、部下の22%が問題行動起こしているの対して、上司が主に部下の強みを見ていると部下が感じている場合は、部下の1%しか問題行動を起こさなくなることが分かっています。ちなみに、上司が部下の弱みも強みも見ていないと部下が感じてる場合は、部下の40%が問題行動を起こすことも分かっています。

つまり、ポジティブに接すると、相手の自尊心や自信を高め、結果的に相手からポジティブに見られるようになります(魅力の返報性)。

③人生を楽しむ
カールは、イエスと言い続けているうちに、アリソンに「いつも新鮮でいたいんだ」「人生を楽しみたい」と語ります。その後、カールに触発されたアリソンは「この世界は遊び場よ」「大人になると忘れちゃうけど」と語ります。

3つ目は、人生を楽しむことです。確かに大人になると、「こうあるべき」というメインストリートの価値観(主流秩序)に縛られがちです。ポジティブになるとは、周りの目(主流秩序)を気にせずに、自分の気持ちを大切にすることであると言えるでしょう。