【1ページ目】2013年1月号 映画「告白」【その2】なんでいじめられるの?―いじめ被害者の心理
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・自己暗示
・いじめの危険因子
・いじめ対策
・均一性
・固定性
・閉鎖性
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いじめ被害者の心理

かつて屋上でいじめられていた、ある生徒は、今度は、かつて自分にボールをぶつけた生徒といっしょになって、楽しそうに少年Aをいじめています。いじめ被害者の心理とは一体どういうものなのでしょうか?
いじめ被害者がいじめを受け入れてしまう理由を、意識的な要素と無意識的な要素で分けて考えてみましょう。
(1)意識的な要素―順番制との割り切り
まず、意識的には、いじめは「順番制」であるということを経験的に知っているので、自分が受けるいじめもそのうちに終わりがあると割り切っているからです。自分の順番が終わるのをひたすら待っているということです。
(2)無意識的な要素―思い込み(自己暗示)
次に、無意識的な要素、つまり思い込みです(自己暗示)。こちらが、より深刻です。大きく3つの要素に分けて見ていきましょう。
①自分に問題があるとの思い込み
1つ目として、それは、いじめられるのは、自分に問題があると思い込んでしまうことです。なぜなら、「みんな仲良し」と学校で教え込まれてきたため、いじめ被害者イコール「みんなと仲良くできなかった自分」は、「劣ったダメな子」になってしまうからです。そして、この心理は、「みんなに嫌な思いをさせてごめんなさい」という罪悪感にすり替わってしまいます。よって、熱血教師が友情の大切さを語れば語るほど、いじめ被害者は、大切にされていない自分の「友情」を情けなく思うのです。
さらに、本人は、クラスのルール(集団規範)に背かないようにして、いじめの事実を外に漏らしません。むしろ必死に隠そうとします。だから、学校を休もうとはしない場合も多いです。いじめの事実が明るみになることは、密告した裏切り者として、永久にみんなとは仲良くしてもらえなくなると思い込むからです。また、いじめはスクールカーストの下位の身分が受けるものであるため、いじめられていることを親や教師に伝えることは、自分が下位の身分であると認めることになり、恥ずかしいとも思っているからです。
②居場所がなくなるとの思い込み
2つ目として、自分は悪くないと分かっていても、みんな(群れ)から離れて孤独に耐えるよりも、いじめられるという役割を受け入れて、みんな(群れ)のいるところに残っている方がいいとの心理が働きます。そのわけは、被害者にとって最も辛いことは、いじめそのものではなく、誰にも相手にされないこと、つまり、クラスに居場所がなくなることなのです。
彼らの年代(前青年期)は、ちょうど、体の成長の加速とともに、心も成長していき、同性で同じ年頃との仲間意識を急激に高めていきます。逆に言えば、孤独感を感じやすい時期でもあります。仲間外れに敏感になります。そして、自分だけは仲間外れになりたくないとも思うのです。だから、たとえ、その相手を好ましく思っていなくても、またその相手がいじめ加害者であっても、被害者は「いじられキャラ」という役回りとしてクラスのノリにしがみ付こうとします。そして、その小さな世界の「価値観」に縛られて身動きがとれなくなっています。
この名残が、現代の私たちの社会で、昼食の時だけいっしょに過ごす人がいたり(ランチメイト症候群)、便所で隠れて昼食を摂ったりする(便所飯)などの最近の社会現象を引き起こしているように思われます。その根っこの心理は、「友達がいないのは苦じゃない」「友達がいないと思われるのが苦である」ということです。
③いじめを受ける身分との思い込み
3つ目として、クラスという集団の雰囲気に飲み込まれ、「仲間に入れてもらうためならどんなことでもする」という心理になっていきます。これは、自分は「いじめを受ける」という身分を受け入れて生きていくようになり、この発想から抜けられなくなることです。こうして、ますますいじめがエスカレートしていきます。
このいじめ被害者の心理と重なるのは、かつて実際に行われた模擬刑務所で、看守役と囚人役の被験者たちが役になり切ってしまったという心理実験です(スタンフォード監獄実験)。また、かつてストックホルムで起こった人質銀行強盗事件で、長時間、犯人といっしょにいた人質たちが次々と犯人に好意的になっていき、人質のある女性は、犯人が逮捕された後でも、犯人に結婚を申しこんだ出来事です(ストックホルム症候群)。これは、DV(家庭内暴力)被害者の女性にも似た心理です。人は、極限状態において、その環境に適応しようとする心理メカニズムが働いてしまうのです。
そして、そのいじめの暗示は、ターゲットが自分ではなくなった時に、ようやく解けるのです。