【3ページ目】2013年10月号 アニメ「ワンピース」なんで麦わらの一味は強いの?-チームワーク
なぜ麦わらの一味は強いのか?
これまで、海軍、白ひげ海賊団、麦わらの一味のチームモデルをそれぞれ見てきました。それぞれのプラス面とマイナス面がある中、なぜ麦わらの一味は強いのでしょうか? その答えは、仲間意識(友情)、役割意識、仲間選びの3つです。
それでは、これらの理解を深めるため、原始の時代の私たちヒトに遡ってみましょう。
①仲間意識(友情)
ヒトは、700万年前にチンパンジーと共通の祖先から分かれて、体だけでなく、実は心も進化させてきました。その最大の進化とは、アフリカの森から草原に出て以来、食糧を手に入れ猛獣から身を守るため、助け合い、力を合わせたことです(社会脳)。この時、血縁関係を超えて、これらの同じ目的のために協力することを心地良く思う種がより協力して生き残り、子孫を残してきました。この心地良く思う心理こそが、仲間意識(友情)の起源です。
多くの人が、友情とは一緒にいる心地良さ(親近感)や好感などの純粋で情緒的なつながりであると思っているでしょう。そして、心地良いから協力して目的を達成するものだと思っているでしょう。しかし、現代の私たちに原始の時代のヒトたちの心理が受け継がれていると考えると、逆なのです。同じ目的(ビジョン)を持つという理性的なつながりがあるから、強い友情が生まれるのです。つまり、協力して目的を達成するからこそ心地良いのです。そして、この心地良さが仲間意識(友情)として麦わらの一味をより強くしていくのです。
②役割意識
友情は、単なる情的なつながりではなく、理性的なつながりがあって初めて強まることが分かりました。実際に、アメリカの大学の寮でルームメイトになった学生たちの友人関係の形成について調べた研究で確かめられています。学業成績の向上という目標に注意が向かう状況(目標あり)とそうでない状況(目標なし)で、それぞれ役に立つ友人と役に立たない友人に対しての親近感を評価しました。その結果、最初の目標なしの状況では親近感にほとんど差がなかったのに対して、その後に目標ありの状況に仕向けるとその親近感に大きな差が出てしまいました。つまり、助け合い(互恵関係)が成り立たない、つまり協力関係によってお互いに得られるものがなければ、友情は表面的なものになってしまうということです。
だからと言って、損得勘定で意識的に友人を選んでいるのではありません。私たちヒトの進化の過程で得た心理は、同じ目標を持って協力をする必要がある状況であればあるほど、意識せず意図せずに心地良さ(親近感)がより沸き起こるように遺伝子にプログラムされていると言うことです。
よって、友情による見返りというものは、短期的には期待されません。しかし、先の目標を見据えて長期的には期待されます。実際にルフィは、自分が強くなければ仲間から認められなくなると危機感を募らせているシーンが分かりやすいです。この時のルフィのように、仲間の関係(友情)を維持するためにチームに自分のできることをして貢献したいという心理が動機付けられます。この心理が役割意識です。そして、ルフィたちのそれぞれの役割意識が、麦わらの一味をより強くしています。
③仲間選び
ルフィの仲間選びに注目してみましょう。最初に仲間になったのはゾロでした。ルフィは、自分よりも弱い者を守るゾロの姿を見て、「いいやつだ」と好感を持ち、自分の仲間になることを勧めています。しかし、ルフィはただ単に「いいやつ」という理由だけでゾロを仲間にしようとしたのでしょうか?
ゾロは、もともと「海賊狩りのゾロ」という異名を持ち、魔獣と恐れられていました。そんな彼の剣豪としての腕前や戦闘員としての役割を見込んで、ルフィは仲間に誘ったのです。つまり、仲間としてチームにどう貢献できるかを見抜く目を持つことがリーダーには必要です。逆に先ほどの友情の心理の起源に照らし合わせれば、ルフィはゾロの能力に惚れ込んだからこそ好感を持ったとも言えそうです。
ナミは、航海士としての技術を買われ、当初は「手を結ぶ」「手を組む」というビジネスライク(競争的共同)の関係で、仲間に入りました。しかし、その後は仲間意識をより強めて、麦わらの一味の陰のリーダーになっています。
ウソップは、それほど能力が高くなかったのですが、仲間になりました。この理由は何でしょう? もちろん、彼は狙撃手としての役割があります。しかし、それ以上に、逆説的にも、彼がネガティブだからです。彼のネガティブさの裏返しでもある慎重さが、ルフィのボジティブ過ぎる暴走を止めるストッパーとしての役割を担っているからです。これは、役割分担と言うよりも、キャラ分担とも言えそうです。こうしてメンバーの性格(パーソナリティ)のバランスがとれ、チームがあまりにも偏った方向に流れる(集団的浅慮)のを防ぐことができます。
実際に、メンバーはあまりにも似たり寄ったり(均質性)ではない方が、生産性が高まることが分かってきています。例えば、同性だけの集団より男女混合の集団の方が、集団としての業績が良いという実験結果が出ています。その理由は、同性の集団は競争的になりやすく、男女混合の集団は協調的になりやすいからです。この結果から、現在の男子校や女子校の効果や意義については検証をし直す必要があるかもしれません。某球団のように、他の球団の強打者ばかりを集めても、期待されるほど成績を上げられないことも一例です。また、テレビのお笑いバラエティ番組でも、ボケ役ばかりでも、突っ込み役ばかりでも、盛り上がりに欠けるでしょう。つまり、メンバー選びにおいて、役割だけでなくキャラクターも、チームのバランスを保つ上で大切な見極めのポイントであると言えます。
このように、ルフィは誰でも仲間に入れていません。ルフィの適確な仲間選びが、麦わらの一味をより強くしています。