連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
3つ目は、3代目の井川遥さんが登場するCMです。まずは、以下の動画サイトを見てみましょう。画面をクリックしてください。
井川遥さんは、あるお客さんから「幸せですか?」と尋ねられて、その返答をしません。そして、間を置いて「あなたは?」と質問を質問で返しています。すると、その男性は「幸せになりたいです」と答え、安らいでいます。彼女は、自分のことは置いといて、相手の気持ちを引き出しています(受容)。3つ目の魅力は、癒し美人です。この魅力を発揮するために、女性の方は次のクイズに挑戦しましょう。
Q6. 彼(夫)が仕事から遅く帰ってきた時、「おかえりなさい」のあとに何て言う?
A. 「聞いてよ。今日、お隣さん(or 私の上司)がねえ・・・」
B. 「ビール?それともお風呂?」
C. 「お仕事どうだった?」
ポイントは、仕事で帰宅が遅い状況から、彼が疲れている可能性を想定できるかということです。Aは、甘え美人なのですが、この時の彼はこれからあなたの話を聞くだけのエネルギーが足りない可能性があり、望ましくないです。Bは、よく耳にする言い回しで、気配り美人として良さそうです。ただ、注意したいのは、ビールとお風呂以外の選択肢がないことです。もしかしたらちょっと自分の部屋で休みたいかもしれません。「ビール?お風呂?それとも他にどうしたい?」と添えるのがより良いでしょう。Cは、彼の気持ちを聞き出せます。そして、どうしたいかも分かるでしょう。彼は、疲れており、癒しに飢えている可能性が考えられます。よって、答えはCです。
Q7. 仕事がうまく行かなくて彼は落ち込んでいる。何て彼に声をかける?
A. 「もう~暗いよ!元気出してよ」と励ます。
B. 「今、何がしたい?何が食べたい?」と聞き出す。
C. 「私が落ち込んだ時はね・・・」と自分の話を聞かせる。
D. 「今つらいんだね」と共感する。
Aは、甘え美人としてついつい言いそうになります。しかし、彼は彼なりにすでに元気を出そうとしてがんばっているかもしれません。そんな時に、さらに元気を出せと励ますのは、彼を追い込むだけになるリスクがあります。医療においては、うつ状態の人に叱咤激励は禁忌です。Bは、気配り美人として良さそうです。しかし、彼は落ち込んでいて何もしたくないかもしれません。何かしたいだろうという彼にエネルギーがあることを前提に話を進めるのはやはり望ましくないです。Cは、Q6のAと同じく、彼に話を聞く心の余裕はない可能性があります。Dは、共感することで彼の気持ちに寄り添っています。彼は、あなたが自分の味方であることを再確認します。大事なのは、彼があなたに心を預けたくなるかということです。
Q8. 「今、独りになりたい」という彼に返す言葉は?
A. 「私がいっしょじゃだめなの?」と甘える。
B. 「いっしょにいた方が安心でしょ?」と気を回す。
C. 「今は独りがいいんだね。いっしょにいたくなったら言ってね」とそっとしておく。
Aは甘え美人で、Bは気配り美人ですが、両者とも過干渉となってしまい、彼の自由(自律性)が損なわれてしまうリスクや心の間合い(心理的距離)が取りにくくなるリスクがあるので、望ましくないです。Cは、本人の自由(自律性)を尊重しつつ、助け(癒し)が必要な時はいつでもそばにいるという心づもりが伝わっています。うつ状態の人への接し方の「温かい無関心」です。また、独りになりたいと言いつつも、実はいっしょにいてほしいという彼の裏のメッセージがある可能性があります。彼の甘えの心理を読み取ることも大事です。
Q9. 落ち込んでいた彼は頭が回らず、誤解から言い合いになった。「そんなに責めないでよ」と言う彼に返す言葉は?
A. 「責めてないわよ!」と言い返し、とことん話し合う。
B. 「責めてるように聞こえたんだね」「どの言葉かしら?」とやんわりと尋ねる。
Aは、彼に言い合うエネルギーが足りずに、彼を追い込む結果が見えるので、望ましくないです。Bは、責めているかどうかは置いといて、彼の気持ちを受け止めています。人の気持ちとして、弱っている時は責められていると感じやすくなることをまず理解することが大切です。
癒し美人が考えることは、「彼が弱っている時に、自分は彼に何をして何をしないか」ということです。そのためには彼(もっと言えば男性)はどうすれば安らぐかを徹底的に知っておく必要があります。
そもそも男性は、癒し美人を本能的に選ぶ傾向があります。これも先ほどの心の進化(進化心理学)から考えてみましょう。原始の時代、女性(母親)は子育てをする役割がありました。その役割を全うする女性、つまり良いお母さんになる女性を男性はより選びました。その子孫が現在の男性たちです。つまり、男性は、子ども=弱者=弱っている時(退行)の自分に優しくしてくれる女性を魅力的に感じる好み(嗜好性)が進化しているということです(性選択)。そして、その目安(形質)が癒しなのです。言い換えれば、男性は、弱った時には女性に癒されたいということです。
その癒しが存分に発揮される職業は何でしょうか? それは保母さん(保育士)です。保母さんは、子育てのプロです。保母さんの幼児への眼差しは、慈愛に満ちています。男性にモテる女性の職業として、保育士も常に上位にあるのも納得が行きます。もっと言えば、「スナックのママ」や「ホステス」になぜ男性たちが通い詰めるのかも納得が行きます。彼女たちは、男性たちの愚痴や自慢話をよく聞きます。面倒臭いと思っても顔には出しません。彼女たちは、擬似的な「お母さん」なのでしょう。つまり、世の多くの男性たちは「お母さん」というどんな時でもどんな自分でも受け入れてくれる絶対的な味方(安全基地)を求めてしまうということです。
それでは、癒し美人であればあるほど良いのでしょうか? 癒し美人だけであれば良いのでしょうか? そうとも言えないです。癒しの心理(能力)は、安心感や安全感をもたらしてくれる反面、そればかりだと刺激がなく退屈になってしまいます。例えば、先ほどのクイズQ2のBの「ガンダム好きなんだね」とほほ笑む、Q3のCの「何歳でしょうねえ」とほほ笑む、Q5のBの常にニコニコしてうなずくだけに徹するなどは、癒し美人ではありますが、その状況では正解ではないです。
これまで、恋人や妻としての女性の魅力(対人魅力)の要素が、気配り美人、甘え美人、癒し美人であることを明らかにしてきました。それぞれの美人は、脳内の3つの代表的な神経伝達物質に重なります。気配りは強さであるセロトニン不活性化の抑制、甘えは楽しさであるドパミン活性化、そして癒しは優しさであるオキシトシン活性化です。
さらには、職場の上司や部下としての女性の人間的な魅力も、3つの美人のバランスとギアチェンジからヒントが得られます。
例えば女性の上司の場合、勤務時間中はテキパキと仕事をこなし、部下たちに仕事を回す一方(気配り美人)、休み時間は部下と打ち解けてふざけたり、時には部下にあえて相談事を持ち掛けます(甘え美人)。特に男性の部下は頼られていると思うと仕事へのモチベーションが高まります。そして、部下が仕事で疲れ切っている時は必ずねぎらいます(癒し美人)。また、部下にダメ出しをする時は、自分のタイミングではなく、部下が受け入れられるタイミングを見計らいます。これは、さきほどのQ9の恋人関係にも通じるもので、人は疲れている時や弱っている時はひがみっぽくなり、指示や忠告を素直に受け入れにくい心理があるからです。つまり、弱っている時のダメ出しは、効果があまり期待できないどころか逆効果になる可能性を理解していることです。
このように、女性の対人魅力をより良く知ることは、女性の人間的な魅力を発揮することにもつながります。さらには、女性だけでなく、男性もその心理を知ることで、お互いのより良いコミュニケーションにつながっていくのではないでしょうか?
1)ジャレド・ダイアモンド:人間の性はなぜ奇妙に進化したのか?、草思社、2013
2)井村裕夫:進化医学、羊土社、2013
3)山岸俊男監修:社会心理学、新星出版社、2011