連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【1ページ目】2015年5月号 CM「サントリー角」 なんで彼女はモテるの?―対人魅力【女性編】

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・心の進化(進化心理学)
・気配り美人(ノルアドレナリン)
・甘え美人(ドパミン)
・癒し美人(セロトニン)
・共依存
・依存性パーソナリティ
・演技性パーソナリティ
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「なんで彼女はいつもモテるの?」

皆さんは、友人や職場の人で「なんで彼女はいつもモテるの?」とうらやましく思ったことはありませんか? 世の中には、異性からも同性からもモテる魅力的な人がいます。魅力的である方が、デートのチャンスが増えますし、仕事もやりやすいです。特に精神科や心療内科では、患者がほど良く主治医に好感を持つことで、治療がうまく行くと言われています(陽性転移)。

モテる人とモテない人の違いは何でしょうか? 今回は、女性の対人魅力をテーマに、心の進化(進化心理学)の視点からとらえ直します。恋人や妻としての女性の魅力だけでなく、職場の上司や部下としての女性の人間的な魅力にも迫っていきたいと思います。

その魅力とは、もちろん顔やスタイルを挙げる方もいるでしょう。しかし、実は、それ以上に大事なことが3つあります。そのヒントが、あるCMにあります。それは、現在までにシリーズ化されている「サントリー角」のCMです。お酒のCMに登場する女性のイメージは、世の男性が求める女性の魅力が詰まっているとも言えます。なぜなら、その魅力が直接売り上げにつながるのですから。

今回は、このCMに登場する初代の小雪さん、2代目の菅野美穂さん、3代目の井川遥さんの振る舞いから、女性の3つの魅力についていっしょに考えていきましょう。

気配り美人

1つ目は、初代の小雪さんが登場するCMです。まずは、以下の動画サイトを見てみましょう。画面をクリックしてください。

小雪さんは、お客さんたちに「とりあえずハイボールと」「アジフライ」「ポテトサラダ」「オムレツ」と言い、お客さんが注文しようとする前に、彼らの「いつもの注文」を言い当てています。別のCMでは、「とりあえずハイボールと、夏だからちょいと絞ります」と気を配っています。その振る舞いに、お客さんたちは感心してうっとりしています。1つ目の魅力は、気配り美人です。この魅力を発揮するために、女性の方は次のクイズに挑戦しましょう。

Q1. あなたが彼に作る最初の料理は?

A. 高級なフランス料理

B. 得意なメキシコ料理

C. 最近ハマっている創作料理

D. 定番の和食

ポイントは、その料理であなたが満足するかどうかではなく、彼が満足するかどうかという視点を持っていることです。男性と女性の脳の違いから分かっていることは、男性は女性よりもこだわり(システム化)が強いです。Aの高級なものよりも、Bの彼女が得意なものやCのハマっているものよりも、Dのいつも食べている定番のものを男性は好みます。それは、例えば、カレーライスやハンバーグです。つまり、答えはDです。

Q2. 彼が「ガンダムのコレクションがある」と話した時、あなたは何と答える?

A. 「私、分かんない」と無邪気に答える。

B. 「ガンダム好きなんだね」とほほ笑む。

C. 「どんなとこが好きなの?」と興味を示す。

Aはそこで話が終わってしまいます。Bは受け止めてはいますが、やはりそこで話が終わってしまっています。AもBも、広がりがなく、退屈な会話になってしまいます。一方、Cは、男性のこだわりをいっしょに楽しもうとする姿勢がみられます。彼もきっと生き生きと語るでしょう。よって、答えはCです。

気配り美人が考えることは、「自分が彼に何をしてあげたいか」ではなく、「彼が自分に何をしてもらいたいか」ということです。そのためには、彼(もっと言えば男性)は何が好きで何が嫌いかを徹底的に知っておく必要があります。

なぜ気配り美人はモテるのか?

そもそも男性は、気配り美人を本能的に選ぶ傾向があります。これを心の進化(進化心理学)の歴史からひも解いてみましょう。

私たち人間の体は環境に適応するために進化してきました。同じように、私たち人間の心も進化してきました。その適応してきた環境とは、狩猟採集生活を営んでいた原始の時代です。その始まりは、チンパンジーと共通の祖先から私たちの祖先が二足歩行をして分かれていった700万年前です。農耕牧畜から始まる現代の文明社会は、たかだか1万数千年の歴史であり、進化が追い着くにはあまりにも短いと言えます。つまり、進化心理学的に考えると、私たちの心の原型は、まさにこの原始の時代に形作られました。

原始の時代、人間は、二足歩行が可能になったことで、手が自由になり、より食料を運ぶことができるようになりました。そこで、男性(父親)は日々食糧を確保し、女性(母親)は日々子育てをするというふうに、性別で役割を分担して、家族集団で共同生活を行いました。そして、この生活スタイルをとった種がより生き残りました。生き残った子孫が現在の私たちです。つまり、私たちは男性も女性も、いっしょに助け合って生きていこうとする協力的な異性を魅力的に感じる好み(嗜好性)が進化しているということです(性選択)。そして、男性から女性を見定める目安(形質)が気配りなのです。

その気配りの能力が存分に発揮される現代の職業は何でしょうか? それは対人援助職、特に看護師です。看護師は、患者の「かゆい」ところに手が届き、いたわる気持ちもあります。男性にモテる女性の職業として、看護師が常に上位にあるのも納得が行きます。さらに、現代の情報化社会では、気を配って話を合わせるという女性的なコミュニケーション能力が男性にもますます求められています。

気配り美人すぎると? ―表1

それでは、気配り美人であればあるほど良いのでしょうか? そうとも言えないです。気配りの心理(能力)は、世話焼き、面倒見が良い反面、度がすぎるとお節介で押し付けがましくなってしまいます。つまり、自分の気配りの能力を発揮するために、気配りできる相手を求める、もっと言えば、必要とされることを必要とする、依存されることに依存するようになってしまいます(共依存)。

また、気配り美人だけであれば良いのでしょうか? そうとも言えないです。気配り美人は、コミュニケーション能力の高さを表していますが、それだけでは良いビジネスパートナーにはなれても、良いライフパートナーにはなれない可能性が高まります。なぜなら、女性を魅力的にさせるために必要な要素が、あと2つあるからです。

表1 気配り美人の二面性