【3ページ目】2015年11月号 NHKドラマ「こうして私は追いつめられた」「新型うつ病」ってホントに病気なの?

なぜ「新型うつ病」になるのか?―図1.

これまで、「新型うつ病」には、人(周り)のせいにしやすい(他罰)、周りが自分に合わなと不安がる(拒絶に敏感)、周りに目が向きにくい(共感性欠如)という大きく3つの心理があることが分かりました。それでは、なぜこのような心理になるのでしょうか? なぜ「新型うつ病」になるのでしょうか? ここから、その原因を、社員(個人)と会社(社会)という2つの側面に分けて探ってみましょう。

①社員(個人)の要因―自己本位な性格(自己愛パーソナリティ)

後半にブログのオフ会で登場する臨床心理士ののぞみんが、「現代型うつ(新型うつ病)を発症する大きな原因は、患者さんの精神的な幼さです」と指摘します。言い換えれば、3つの心理の根っこにあるのは、自己本位な性格(自己愛性パーソナリティ)です。これは、真面目で几帳面な従来型のうつ病の性格(執着器質)とは対照的です。つまり、「新型うつ病」の患者は「オンリー・ワン(唯一の存在)」でありたいという心理が根っこにあります。従来型のうつ病の患者がありたい心理である「ワン・オブ・ゼム(組織の歯車)」では納得しないのです。

人は成長するにつれて、自分が大事という自己本位の心理(自己愛性)から周りが大事という他者配慮の心理(社会性)にシフトしていきます。例えば、「ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン(1人はみんなのために、みんなは1人のために)」という言い回しがあります。本来は、相手や状況(環境)に応じて両者のバランスが取れていることが理想的ですが、「新型うつ病」は「ワン」(自己本位)の心理に偏りすぎてしまい、従来型のうつ病は「オール」(他者配慮)の心理に偏りすぎています。どちらにしても、そのバランスが失われています。両者は、うつ病になるという結果は同じなのですが、性格(パーソナリティ)としての原因は真反対であることが分かります。

また、文化によってもこの自己本位と他者配慮の心理のバランスには偏りがあります。日本はもともと他者配慮の強い集団主義の文化であるのに対して、アメリカなどの欧米は自己本位の強い個人主義です。つまり、今、日本では社員(個人)が、集団主義から個人主義化してきているということです。

②会社(社会)の要因―会社本位な社風

前田は一緒に残業をしている他の部下たちに「昔はおれも上司に怒られてへこんで。でもその後、居酒屋に飲みに連れてってもらって。そこで教わったんだよ仕事の意味を。いっしょに客の喜ぶ顔見ようじゃないかって肩叩かれて。それでまた元気になって何とかやって行けたんだ」とこぼします。一方、オフ会でのぞみんは「今の不況では、昔のように十分な社員教育を行えないという悩みもあるんです」「そして会社にも今井さん育てる体制や今井さんへの理解が欠けていた」「そこに断絶が生まれ、お互いが苦しむことになったんです」と続けます。

会社(社会)の要因として、会社本位な社風なってしまったことです。経済の低迷や国際競争の激化により、社員を育て成長を見守る余裕が経費的にも時間的にも職場になくなってきました。即戦力や成果を求めすぎて、社員(個人)よりも会社(社会)の利益に重きを置かざるを得なくなってしまったのです。つまり、社員(個人)だけでなく会社(社会)も、集団主義から個人主義化してきているということです。

人間的成長

なぜ「新型うつ病」は増えているのか?―表3.

「新型うつ病」になる原因は分かってきましたが、なぜこれほどまでに「新型うつ病」は増えているのでしょうか? 海外の状況と比べつつ、日本ならではの状況を社員(個人)と会社(社会)という2つの側面に分けてまた探ってみましょう。

①社員(個人)の要因―受け身で依存的な育ち方

のぞみんは、「核家族やゆとり教育の世代に育って、大事に育てられてきて、人に怒られたり、ぶつかりあったりする経験が少ないから」と言います。ここから分かることは、葛藤(ストレス)の少ない育て方(生育環境)により、自己本位な育ち方に変わってきたのに、受け身で依存的な育ち方は相変わらず残っている、むしろ増えていることです。この世代は、ちょうど1980年代以降の生まれで、現在の20、30歳代ということになります。逆に、1970年代以前の生まれである現在の40歳代以降に「新型うつ病」は少なく、従来型のうつ病が多いです。

家庭では、核家族化により祖父母がもともと家におらず、父親は単身赴任や出張で不在がちで、さらに一人っ子で兄弟がいなければ、母親との濃密な関係が増えて、過干渉で過保護に育てられます。母親が先回りするので、小さな失敗や挫折という貴重な経験をしにくくなります。学校では、「みんな仲良し」「ゆとり」という教育方針のもと、競い合いやぶつかり合いが好ましくないと教えられます。よって、友達や恋人との関係も、傷付け合わないために細心の注意を払った表面的な「やさしい」付き合いに留まります。例えば、ラインやメールの返事をいかに早くするかばかりを気にするようになります。言いたいこと言い合ってぶつかり合うような深い友情や恋愛感情の関係にはなりにくくなっているのです。

本来、社会では人の価値観はそれぞれ違い、仕事においても恋愛においてもぶつかることは当たり前です。しかし、成人するまでに人間関係でぶつかり合う経験が少ないと、その葛藤を適切に対処する能力が磨かれていかないのです。結果的に、その葛藤(ストレス)を避けるために、逃げ込みの心理が働き、休職という手段を用いて、会社(社会)に依存してしまうのです。

それでは、世界、特にアメリカではどうでしょうか? アメリカでは、会社でうまく行かないことがあれば、自分の能力が発揮できないと思い、あっさり辞めて他の会社に転職します。転職率が高いのもうなずけます。一貫したドライな個人主義です。一方、日本では、会社でうまく行かないことがあっても、その会社にしがみつきます。

けっきょく集団的な帰属意識が根強いため、社員(個人)は、個人主義的な自己本位に変わってきたのに、集団主義的な依存は変わらないままなのです。これが、さきほどのぞみんが指摘した「幼さ」です。一貫しない「ウェット」な個人主義なのです。

ちなみに、この依存的な育ち方として、「新型うつ病」と時期や特徴を同じくして注目されている社会現象が「ひきこもり」や「草食系」です。なかなか働こうとしない心理は、人間関係においてもなかなか働きかけようとしない心理につながっていきます。

②会社(社会)の要因―保護的な労働法制

今井の会社の社長は、前田に「うつ病とか言って単なる『怠け病』じゃないのか。そんなの気合いで何とでもなるんだよ。甘えだ甘え」と吐き捨てます。かつては「気合い」という言葉で、連帯意識を高め、それでも休職してしまう場合、その数少ない社員を手厚く抱え込んでいた時代がありました。当時からの就業規則では「新型うつ病」による休職を想定していません。会社の要因として、現在、「新型うつ病」によって休職する社員が急増しているにもかかわらず、その保護的な労働法制が残っていることです。

それでは、世界、特にアメリカではどうでしょうか? アメリカでは、就職は基本的に社員(個人)と会社の契約です。よって、社員(個人)の能力が発揮されていなければ、契約への債務不履行となり、解雇の理由になります。雇用の流動性が高いのもうなずけます。会社も一貫したドライな個人主義です。一方、日本では、うまく行かない社員がいても、保護的な労働法制によって、もともとの給料の7、8割の傷病手当が1年半から3年くらい支給され、手厚く抱え込まれてしまうのです。特に、手厚くされる公務員や大企業の社員は、復職を先延ばしする傾向があります。

けっきょく、社会の集団的な連帯意識が根強いため、会社は、利益追求する個人主義的な会社本位に変わってきたのに、手厚い集団主義的な労働法制は変わらないままなのです。これは、「新型うつ病」に戸惑い右往左往する社会の「幼さ」と言えます。日本の社会もまた一貫しない「ウェット」な個人主義なのです。

★表3 「新型うつ病」の増加の原因、結果、アプローチ