【5ページ目】2015年11月号 NHKドラマ「こうして私は追いつめられた」「新型うつ病」ってホントに病気なの?

なぜ医師は休職診断書を作成してしまうの?―医師の心理.

今井がうつ病と診断されて「ですよね~」と喜んでいる様子に、医師は「はい?」とけげんな表情をしています。実際に、ほとんどの医師は、初診の段階で「新型うつ病」を疑ってはいるのですが、なぜ休職のための診断書を作成してしまうのでしょうか? その理由は、大きく3つあります。

①訴えを重くとる―見逃しはだめ

1つ目の理由は、医師は基本的に症状を重くとることです。今井は「おれこんなにがんばってるのに」と思っており、それを医師は聞いています。患者が本人なりにはがんばっている点で(過剰適応)、「新型うつ病」に従来型のうつ病の要素も混じっていることが実際の臨床でよくあります。つまり、少なくとも初診時の診察室の中だけでは一概に「新型」か従来型かとはっきり言い切れないということです。このような病態に対して、「新型うつ病」と決め付けて、訴えを過小評価して休養を指示せずに後に従来型のうつ病の要素で症状が悪化して自殺されるなどの重大な事態を招くと問題があります。逆に、「新型うつ病」と決め付けず、むしろ訴えを過大評価して安全策として休養を指示して、実は後から休養するほどではなかったと分かっても問題はないです。つまり、医療において重要視されるのは、「空振りはありだけど見逃しはだめ」ということです。

②訴えを受け止める―信頼関係が大事

2つ目の理由は、医師は基本的に訴えを受け止めることです(受容)。医師は今井の饒舌な訴えに耳を傾けています。医師は、この受容によって信頼関係(ラポール)を築くことを優先します。これは医師の倫理観でもあります。逆に言えば、上から目線で疑いの目を向けていたら(パターナリズム)、治療が始まらないということです。たとえ「新型うつ病」を見抜いていたとしても、少なくとも訴えを受け止めているふりをして、暴くことはためらいます。

③訴えを覆せない―客観性がない

3つ目の理由は、医師は基本的に訴えを覆せないことです。今井の饒舌な様子(表出)から症状が誇張されていることが推測されます。実際の臨床では、「『うつ』でもう職場に行けない」と言い張ったり、「このままだとどうにかなってしまう」とほのめかす患者も多いです。うつ病の診断や治療方針は、このような診察室での患者の主観的な訴えを根拠としており、それが疑わしいと思っても、それを覆すだけの客観的な事実や検査データが医師側にはないのが現実です。患者は、診断書をもらう時点では海外旅行に行くとは言いません。多くのうつ病の心理検査も、患者の主観が反映されてしまい、客観性には限界があります。このような状況で、もし十分な根拠なく訴えを突っぱねれば、逆に医師の判断に客観性がないことになり、医師によるいやがらせ(ドクターハラスメント)だと受け取られる危険性もあります。

さらに、患者によっては、休養診断書を手に入れるために、医療機関を渡り歩く場合もあります。最初のうちは休職するほどの状態ではないと医師から判断されるのですが、納得が行かず、セカンドオピニオンの名のもとに受診を繰り返すうちに、やがて訴え方が誇張的で誘導的になり、最終的に休職診断書を手に入れることができるのです。