連載コラムシネマセラピー

私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーションメンタルヘルスセクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。

【1ページ目】2018年4月号 アニメ「アンパンマン」-その顔はおっぱい?

********
・乳幼児発達心理学
・「乳児脳」
・進化心理学
・子育て心理
・無条件の愛情
・協力関係
・想像力
・脱中心化
********

みなさんは、「アンパンマン」をご存じでしょうか?顔があんパンでできた、子どもたちの人気ヒーローですね。特に、3歳児までに絶大な人気があります。それにしても、なぜ人気があるのでしょうか?そして、4歳児からなぜ人気がなくなるのでしょうか?そもそもなぜ自分の顔を食べさせるヒーローが子どもに受け入れられるのでしょうか?

今回は、「アンパンマン」の人気の謎に迫ります。そして、そこから乳幼児の心の成長を発達心理学的に読み解き、心の起源を進化心理学的に掘り下げ、より良い子育てのやり方とあり方についての子育て心理に応用してみましょう。

なぜ3歳児までに人気があるの?―「乳児脳」

まず、アンパンマンはなぜ人気があるのでしょうか?それは、3歳までにすさまじいスピードで発達する「乳児脳」とも呼ばれる独特の心理と深い関係があります。その答えを3つ挙げ、乳幼児発達心理学、進化心理学、そして子育て心理に重ねてみましょう。

①捨て身で守ってくれる―無条件の愛情のシンボル
アンパンマンは、お腹のすいた人(子ども)のもとに降り立ち、自分の顔をちぎって、喜んで食べさせます。そして、顔の一部がなくなると、力がなくなり飛べなくなります。すると、ジャムおじさんができたての新しい顔に取り替えてくれます。ちなみに、アンパンマン自身はものを食べることはありません。
1つ目は、捨て身で守ってくれることです。困っている人には、必ず、無条件に、自己犠牲的に助けてくれる存在であることです。それを、視覚的に分かりやすく描いています。そして、アンパンマン自身は食べないという設定から、困っている人には気兼ねさせずに一貫して食べさせる存在になれます。また、アンパンマンの顔は、ジャムおじさんによって新しく作られるため、なくならないという安心感もあります。

発達心理学的に見ると、乳児は、泣けば必ず母親から授乳してもらえると認識しています。まさに、象徴的には、アンパンマンの顔はおっぱいと言えるでしょう。乳児がおっぱいを吸うと、オキシトシンというホルモンが母親の脳内で分泌され、お乳が出やすくなります。この時、同時に母親は自分の子どもを大切にしたいという気持ちが連動して高まります(愛情)。一方、乳児は、抱っこ、愛撫などによる肌の触れ合いがあると、乳児の脳内でも同じようにオキシトシンが分泌されることが分かっています。この時、同時に乳児はその母親にくっついていたいと思う気持ちが連動して高まります(愛着形成)。そのため、泣くだけでなく、機嫌が良い時は鼻にかかったような柔らかな音を出したり(クーイング)、笑顔を見せるようになります(社会的微笑)。

つまり、親の愛情と子どもの愛着は相互作用をして高まります(共発達)。そして、これらの高まりは、オキシトシンの分泌や受容体の増加と密接な関係があります。よって、オキシトシンは、「愛情ホルモン」「愛着ホルモン」「絆ホルモン」とも呼ばれています。さらに、乳児にとって、母親を初めとして父親や祖父母なども含めた家族は、自分を無条件に大切にしてくれる安心で安全な心のよりどころであると認識していきます(愛着対象)。これが土台となり、成長するにつれて家族だけではなく他人とのかかわりも求めるようになっていきます。

進化心理学的に見ると、哺乳類が約2億年前に誕生してから、その母親は子どもを哺乳する、つまり乳を与えて育てるというメカニズムを進化させました。これは、自分の栄養を与えるという自己犠牲の上に成り立っています。飽食の現代では想像しにくいですが、常に飢餓と隣り合わせの原始の時代、それでも母親は命がけで自分の栄養を子どもに分け与えて、子孫を残してきました。人類が700万年前に誕生してから、もちろん父親も、猛獣から体を張って子どもを守り、子孫を残してきました。当時から、そうしたいと思う母親や父親の心理と、そうされたいと思う乳児の心理(愛着)が共に進化していったのでしょう(共進化)。

ちなみに、比較動物学的には、サルなどの類人猿も、もちろん哺乳類で愛着形成があります。ただし、サルと人間の違いは、サルの乳児はあまり泣かないことです。その理由は、サルの乳児は生まれてすぐに母親の胸に自力でしがみつくことができるため、いつでも哺乳ができて、しかも天敵が来てもそのままいっしょに逃げることができるため、親の関心を引く必要がそれほどないからです。そもそも泣けば、それだけ天敵に気付かれるリスクを上げるため、泣くことはデメリットでもあります。一方、人間の乳児は、頭部を大きく進化させた代償として、母親の産道を通過するために、サルと比べて未熟児で生まれるように進化しました(生理的早産)。よって、生まれてしばらくは寝たままの状態になるため、親の関心をできるだけ引いて、天敵に見つかるリスクを上回って、生存の確率を高めたのでした。
 子育て心理に応用すると、いつもあなたは大切であると言語的にも非言語的にも伝え続けることです。例えば、イヤイヤ期(第一次反抗期)になって、腹が立って叱ったとしても、その後すぐに切り替えて、「それでも○○ちゃんは大好きよ」と優しく明るく抱きしめることです。アンパンマンもどんな時も守ってくれる味方であるという無条件の愛情のシンボルです。だからこそ子どもに受け入れやすいと言えるでしょう。