連載コラムシネマセラピー
私たちの身近にある映画、ドラマ、CMなどの映像作品(シネマ)のご紹介を通して、コミュニケーション、メンタルヘルス、セクシャリティを見つめ直し、心の癒し(セラピー)をご提供します。
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冴えるには、体感、五感、俯瞰という3つのステップを経るマインドフルネスを行うことが分かりました。それでは、逆に、なぜ冴えないのでしょうか? その答えは、私たちはマインドレスに陥りやすいからです。ここから、意識のレベルを、通常の意識、マインドレス、マインドフルの3つに分けて理解を深めましょう。
①通常の意識―意識清明
みなさんは、今まさにこの記事を読み進めています。言い換えれば、この記事を認識し、同時に、それを認識する自分を認識しています。
1つ目の意識レベルは、このような通常の意識レベルです。医学的に言えば、意識清明です。意識とは、自分と周りを認識することです。それが、社会生活を送る通常のレベルであることです。私たちは、周りの世界と自分の関係を認識し、次の行動を起こす心の準備をしています。これは、「すること」モードと呼ばれます。
ここで、集中力と注意力という指標で意識を測ってみましょう。集中力とは、1つの物事への注意のめり込み具合です(注意の集中)。それに対して、注意力とは、複数の物事への気付きの広がり具合です(複雑性注意)。通常の意識レベルでは、集中力と注意力は、ともに通常のレベルです。しかし、没頭して集中力が高まったら、その分、注意力が落ちて周りの変化に気付きにくいでしょう。一方、危険を察知して注意力が高まったら、その分、集中力が落ちて没頭しにくくなるでしょう。
②マインドレス-意識狭窄
みなさんの中で、今疲れて眠気が襲ってきている人はいませんか? すると、ぼんやりとして、この記事の内容が頭に入ってきません。周りが見えなくもなるでしょう。
2つ目の意識レベルは、このような下がった意識レベル、つまりマインドレスです。医学的に言えば、意識狭窄です。見ている世界が狭くなり、周りが見えなくなることです。「心ここにあらず」で無意識に思ったり行動している状態です。このレベルでは、集中力も注意力も落ちています。これは、脳科学でデフォルトモードと呼ばれています。
飛行機の操縦に例えると、通常の意識レベルが「手動操縦」なら、マインドレスは「自動操縦」です。例えば、その時に「心の揺れ」がひどければ、後ろを振り返って「なんでこうなっちゃったんだろう」と落ち込みます。前を見ると「これからどうなるんだろう」と不安に駆られます。「自動操縦」は、油断すると「暴走」してしまうというわけです。
③マインドフル-「意識拡張」
みなさんの中で、今、この記事の内容を理解して認識し、同時にそうしている自分を認識し、さらに周りの状態も認識しているという人はいますか?
3つ目の意識レベルは、このようなさらに上がった覚醒レベル(意識レベル)、つまりマインドフルです。名付けるとしたら「意識拡張」でしょう。マインドレスのように意識が狭まるのとは逆に、広がるのです。「心ここにあらず」ではなく、「今ここに」「心を込めて」という心のあり方です。無意識を意識化することでもあります。それは、世界を見渡し、過去から未来を見通して、様々なことに深いレベルで気付き、世界を包み込んでいる状態です。このレベルでは、集中力も注意力も高まっています。
気付きを高め、受け止めていれば、驚くこともないでしょう。例えば、それは、最高のシナリオと最悪のシナリオです。もはや予期不安はなく、あるのは「予期受容」です。これは、「あること」モードと呼ばれます。
先ほどの飛行機の操縦に例えると、マインドフルは、「手動操縦+点検」と言えるでしょう。「自動操縦」で快適ならそのままでも良いですが、「揺れ」がひどいなら、「手動操縦」に切り替え、「点検」をすることが必要です。「点検」によって「揺れ」が起きないように適宜の微調整をすることで、「自動操縦」の機能を修正することができるというわけです。
冴えないのは、マインドレスに陥りやすいからであるということが分かりました。それでは、そもそもなぜ冴えは「ある」のでしょうか? 先ほどの意識レベルの違いに絡めつつ、意識の進化の歴史から探ってみましょう。意識の進化は、3つの段階に分けられます。
①デフォルトモード
約5億年前に魚類が誕生し、周りの環境に対して素早く反応して、動き回るような初期の脳が進化しました。
1つ目の意識の起源は、先ほどにも紹介したデフォルトモードです。習性(遺伝的行動パターン)をもとに、生き残り子孫を残すために、その瞬間その場所で反射的に本能的に行動することです。つまり、デフォルトモードになっているマインドレスとは、より動物的で原始的な無意識の精神状態であるということです。
②社会脳
約700万年前に人類が誕生し、約300~400万年前に集団生活を始めてから、相手の気持ちを汲む脳が進化しました。
2つ目の意識の起源は、このように周りの人とうまくやっていく社会脳です。相手の心を読んで、先を読んで、より意識的に行動することです。これは、通常の意識に近いでしょう。
③概念化
約20万年前に人類が言葉を発するように喉の構造が進化し、約10万年前に貝の首飾りを信頼の証と認識できるように脳が進化しました。
3つ目の意識の起源は、このようにものごとをシンボルとして理解する概念化です。相手の心を見通すだけでなく、自分の心も見通し、複数の視点(概念)を持つことです。これが、マインドフルに通じます。
ちなみに、紀元前5世紀頃に仏教が始まりました。仏教の禅の瞑想は、マインドフルネスの起源になっています。
マインドフルネスは、良いことばかりのようです。逆に、冴えて困ることはないでしょうか? ここで、マインドフルネスのデメリットを3つあげてみましょう。ちなみに、このデメリットは、先ほどの仏教では「禅病」と呼ばれてきました。
①社会生活をがんばらなくなる
1つ目は、気付きすぎてしまい、社会生活をがんばらなくなることです。マインドフルネスによって、満たされるということは、逆に言えば、不足感がなくなり、現状を受け入れやすくなります。俯瞰しすぎて、達観するというわけです。人生の一大局面で、ハングリー精神がないため、粘らずに、あきらめが早くなってしまうリスクがあります。
そうならないためには、このリスクを評価することを含めたマインドフルネスの実践が必要になります。
②マインドフルネスにのめり込む
2つ目は、研ぎ澄ますこと自体を研ぎ澄ます、つまりマインドフルネスにのめり込むことです。マインドフルネスによって、満たされて気分が良くなるので、これをやり続けてしまうことです。逆に、やるべきことを疎かにしてしまい、社会生活で差し障ってしまうことリスクがあります。
そうならないためには、マインドフルネスをする時間をあらかじめ区切ることが良いでしょう。例えば、目安は、多くても1日2時間以内とすることです。
③逆に精神不安定になることもある
3つ目は、研ぎ澄ますことで、逆に不安定になることもあることです。例えば、もともと過敏な人が、マインドフルネスによってさらに研ぎ澄まされてしまったら、神経過敏や被害妄想が出てくるでしょう(統合失調症)。また、もともと自我が弱い人、つまり自分が自分であるという感覚が弱い人が、マインドフルネスによってさらに周りへの気付きを高めてしまったら、周りを包み込むのではなく、周りに飲み込まれるという侵入体験が出てくるでしょう(自我障害)。
そうならないためには、マインドフルネスを実践して体調不良になった場合に、無理せず中断して、メンタルへルスの専門家に相談することが必要です。
「ZOOM」の最後のページは、暗黒の宇宙にぽつんと小さく浮かぶ地球でした。それを見ている私たちは、もはや神の目になった気分です。
マインドフルネスによる集中力と注意力のトレーニングによって、私たち自身が、その神の視点に立った時、もっと大きな存在の中のほんの一部分に、そして永遠の中の一瞬に自分がいることに気付かされます。その時には、今そこにある困難も、宇宙レベルで、そして光年レベルで受け止め、冷静に対処することができるのではないでしょうか? それこそが、キレキレに冴え渡っていると言えるのではないでしょうか?
・【ブリーフセラピー】2017年3月号 ドラマ「東京タラレバ娘」
・【アサーション】2016年12月号 ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」
・【意識】2017年4月号 アニメ映画「パプリカ」
・【デフォルトモード】2015年1月号 映画「ペコロスの母に会いに行く」
1)はじめてのマインドフルネス:熊野宏昭、NHKテキスト、2017
2)自分でできるマインドフルネス:マーク・ウィリアムズほか、創元社、2016